第5話 ある日森の中、お約束通り律儀にあのお方に出遭わなくてもいいんだよっ!


 北門から街の外に出る。門の外はすぐに森が広がっている。




 森を抜ける街道はゆるやかに北東に曲がり、辺境都市を通ってから小国家群に向かう。

 その先は帝国だ。


 北には大山脈が広がっており、その中でも目立つ高さの山は神龍山と呼ばれている。


 北門から北西方面に道のない森を奥に進むと『魔女の森』と言われるエリアに入り、さらにその奥は『魔の森』が広がっている。


『魔の森』まで行くとS級冒険者でも倒しきれないような危険な魔物が跋扈ばっこしている。


 その分『魔素』と呼ばれる魔力が濃く溜まっており、魔力をたっぷり含んだ貴重な植物や鉱物なんかの素材を採取することができるのだ。



『魔の森』の最奥には『世界樹』があり、その麓ではエルフたちが街を作っていると言われている。




 その手前、『魔女の森』に近づくだけでもかなり危険だ。

『魔女の森』から追い出されてくる魔物の中にはときに脅威度C、Bなんかが居たりもする。


 脅威度Cは、C級冒険者6人のパーティーが相手をして討伐できるという水準。


 1段階のランク差は、だいたい1パーティー分の差がある。

 C級冒険者一人とD級6人パーティーが模擬戦で賭けになるぐらい互角。

 E級6パーティー36人、F級200人に匹敵する戦力だ。


 戦闘力のある職能ジョブを貰った駆け出しF級がゴブリン1匹と互角以上ってところ。

 蜘蛛の子を散らすように広がってしまえば対処できなくても、狭い通路や門を守る戦いならC級一人でゴブリン200匹抑えられると試算、皮算用。


 まあだいたいこんな感じ。





 今日の目標は『魔女の森』の外縁、少し踏み込むあたり。

 ここまで行けば薬草類の質がワンランク上がる。


 冒険者ギルドで「薬草採取」の依頼をことがあるけど、期待値よりはるかに質が悪い。

 街の薬師とか本当にこれで我慢してポーション作ってるのかな。


 薬草採取にスペシャリストとか指名依頼があるのもわかる。

 俺は贔屓ひいきにしているゴヨウ婆さんの店に直接売りに行ってるけど。



 ちなみに俺はポーター職の〈空間拡張〉の他に〈ストレージ収納〉も持っている。

 これは他の誰からも聞いたこと無いから、たぶん転移者特典だろうと思っている。


 似たスキルに〈空間収納〉という魔法があるんだけど、聞いた感じはこれとも違う。




 今背負ってる、肩幅ぐらいのリュックは飾りみたいなもんだ。

 もちろん〈空間拡張〉と〈重量軽減〉は最大レベルでかけている。


 ポーターだからと衣装タンスを背負ってるかのような巨大リュックがかっこいいと思うのは中二病というものだろうか。

 背中に馴染んだあの背負い袋を回収しに行こうかな。


 ここ数年の冒険の記憶も一緒についてくるから捨ててきたつもりなんだけど、一晩経って落ち着いてきたらリュック新調するより宿から回収してきてもいいかなって気が変わった。





 考え事しながら足早に『魔女の森』外縁へ向かう。


 魔力濃度の違いが出るのだろうか、まるで線を引いたように植物の植生が変わる。


 常緑樹のような深い緑の森、繁茂も濃くなり地上に陽光が届かなくなる。

 薄暗い上に膝下ぐらいの高さまで霧が立ち込め、足元が少し見難い。



 一歩踏み込むだけでわかる、まるで『魔女』がいるような雰囲気のあるエリアだ。



 実際いるんだけどね、魔女。

 普通に街に買い出しに来てるし、俺ともしてるし。


 ちなみにこの世界にスマホの基地局は無いので全く意味は無い。


 普通の大学生にもただのOLさんにも、無線通信どころか有線の電話すら作る技術なんて無いですよ常識的に考えて。


 いいじゃないですか、たまに赤外線通信で繋がりたくなっても。



 魔女さんは俺以上にメール遊びが懐かしいらしく、いつもされる。


 女性から求められる感じ、悪くない。





 エリアに入ってからは〈探査〉魔法を周囲に広げる。


 薬効のある薬草やキノコや木の実を魔法で見つけ、〈鑑定〉魔法で品質を確認。


 採取したものは時間経過が止まる〈ストレージ収納〉。



 このコンボが決まるだけで、食いっぱぐれは無いんだよマジで。


 さらにその上、〈ストレージ調合錬金〉なんて使えるからチートだよなあ。


 材料から厳選した『森の魔女』仕込みの高品質ポーションを作れるとはいえ、薬師ギルドに入ってないから完成品を売ることは許されてない。

 あくまでも身内で使うためだけ。


 あいつら『光の覇道』は当然のように俺の特製中級・上級ポーションを気にせずバカスカ使ってたけど。





 陽も傾いてきて、満足いくだけの収穫もあったしそろそろ戻るか。


 北門へ向けて歩いていると、なにやら騒がしい。

「キャーー!」とか悲鳴も聞こえるし、そちらのほうに〈探索〉の魔法を伸ばす。


 3人と魔物が1体。人と比べて魔物が強いな。脅威度Dぐらいありそう。



「こいつはやばいな」



 道の無い雑木林、1kmほどの距離を全力で駆ける。



「大丈夫か!」



「「た、助けてください!!」」



 声をかけると、こちらに気付いた女の子その1その2から助けを求められる。

 はい、言質げんちいただきました。



 状況的には突然襲われたっぽいな。

 倒れてる男の子は剣を抜くこともできず一撃貰って倒されたようだ。




 相手は『ブラッドベアー』脅威度D、いかにも駆け出しっぽい3人組では逃げるだけでも命がけの相手だ。




 俺?


 冒険者ランクは個人でDだけどランク詐欺ですが? 

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