さて、改めて言うがユリシアは可愛い
さて、改めて言うがユリシアは可愛い。
それはもう天使のように愛らしい。
辺境伯様の所から帰ってきた親父が、「おじいちゃんですよーーーー!!」と我を忘れて飛びかかってくるほどかわいい。
とりあえず全力で迎撃しておいた。
血の繋がっていない事は説明したが、「そんなん今更だ問題ねえだろう!」と一言で終わった。
血の繋がりだけが家族の証、などではないことは俺たちはよくわかっているしな。
「くっそ、俺が辺境伯のジジイんとこに行ってる間にそんなことが……」
「泣くなよ。星間会議の準備だっけ?」
「ああ。銀河帝国や銀河共和国、銀河諸王国連合などが集まっての超銀河サミット。
その警備の関係の話だとよ」
「大変だな。俺は留守番だけど」
数年に一度、星間文明国家での色々な取り決めが行われるらしい。
当然、そこには一歩間違えれば武力衝突につながる緊張もあるし、これを狙った宇宙のならずものや宇宙魔族、宇宙モンスターたちのちょっかいもあり色々と大変だそうだ。
銀河帝国を外部の脅威から守るのが仕事である辺境貴族たちも大忙しというわけである。
イナーカスからも当然、親父や兄さんたちも出る。
俺は留守番だ。
別に戦力外通告くらったわけではない。
会議の隙を狙ってくる敵への防衛というやっだ。
まあ、それはともかく……。
「パパ! ママ!」
と言って抱きついてくるユリシアは、本当に可愛くて仕方がない。
「よし、今日は何して遊ぼうか?」
「んーとね、狩りごっこ!」
「そうかそうか」
流石ドラゴン、もといドラゴニアン。中々にワイルドだ。
だが辺境ではそのくらいわんぱくくらいでちょうどいい。
ごっこか……とりあえず兄さんにいくつかドローンでも借りてそれを追いかけさせるか。普通の獲物だと危険だしな。
「仕事してください、旦那様」
クォーレが言ってくる。だがな、ちゃんと仕事の合間に遊んでいるんだぞ俺は。
「遊ぶ時間があるのは結構なことですね」
「そもそも田舎領主の三男坊の仕事なんて、家事手伝いだからな、それなりに暇はある。今は収穫時期でもないし」
「ニートみたいなものですか」
失敬な奴だ。
「大丈夫だ。ユルグは本気を出せばなんでもできる男だ、ただ今は充電期間なだけだ。
その間は私が妻としてしっかり支えるから安心して……」
「何言ってんだフェリスお前」
「冗談だ」
フェリスが笑う。だけどやめてほしい。
流石に元公爵令嬢にヒモ扱いされるのは色々と洒落になんねぇし。
「それじゃあユリシア。そろそろ始めるか」
「うん!」
元気よく返事をするユリシアだった。
その後、兄さんから借りたドローンは三機、全部壊れたけど気にしない。
子供とはそういうものだからだ。
「修理代金は小遣いから引いておくから」
流石は我が家の家系を担っている兄さん。ちゃんとしていた。
◇
ユリシアの好物は生肉だった。
……ドラゴニアンの食性なのかもしれないが流石にどうかと思ったので、頑張って普通の料理も食べるように教育せねばならないと思った。
「は? 生肉うめーじゃねぇか、なあ」
ケルナーの兄貴は黙っててくれ。
俺はユリシアをアマゾネスに育てる気は無いのだ。
しかし急に変えるのも無理があるだろうから、肉はまずレア、それからミディアムレアというふうに少しずつずらしていこうと思う。
野菜などを食べるようにするのも大切だ。
子供向けの料理は義姉さんが得意なので一任する。
シュミット兄さんは医者であると同時に、私塾もやっていて、義姉さんはそこで教鞭をとり、子供たちの世話をしているからそういうのは得意なのだ。
フェリスも義姉さんに色々と料理教わっていたしな。
何しろ嫁に来たばかりのフェリスの料理の腕前は……いややめておこう。
人は成長するのだ。過去を振り返ってはいけないのだ。
◇
辺境の田舎貴族の仕事は、中央の貴族のそれとは違う。
中央だと外交外交外交と、とにかく外交の仕事が多いとフェリスやクォーレが言っていた。
他の貴族たちとの交友、議論や交流、裁判、そして領地経営のための視察などだ。
とにかく大変だろう。それに比べてイナーカスでは、そのような煩わしい仕事は少ない。
まあ、別の意味での外交は多いけど。主に剣や銃や拳を使った平和的外交だ。相手? 宇宙海賊や宇宙山賊宇宙盗賊といった、お得意様たちである。
それ以外の仕事と言えば、まあ少ない領民たちの問題の仲裁や、領内で起こる犯罪の取り締まりや調査などもある。
あと、農作物の見回りや狩りなどだ。
そんなこんなで、俺は今、領内の農地の見回りをしていた。
この星は田舎だけあって、緑豊かな土地だ。農業にも適しているし、牧畜も盛んである。
「お疲れ様です、坊ちゃん」
「ああ」
「あっユルグ様だ、どうもー」
「こんにちはー」
領民たちが挨拶してくる。
みんな俺より年上でおじさんおばさんばかりだが、気さくでいい人たちばかりだ。
「ほれ、これ持ってきな」
そう言ってリンゴを差し出される。
「いつもありがとうございます」
「なに、こっちこそありがたいよ。あんたらのおかげで食っていけてるからなぁ」
そう言って、俺の肩をバシバシ叩いてくる。痛い。
「そういえば聞いたかい、また出たんだってさ」
「なんです?」
「宇宙ドラゴンだよ。ここらの若い牛が何匹か喰われたそうだ」
「あー……」
宇宙ドラゴンは惑星に降りて家畜を攫ったり人を喰うことがある。
ユリシアはそんなことをしない、野生の空飛ぶトカゲとは一線を画す存在だから待ってく問題ないが……。
「これ以上数が減ると、また惑星ミノスから輸入を考えないいけないからなあ」
「ちょっと遠い上に高いですからね……宇宙ミノタウロス」
宇宙ミノタウロスとは、惑星ミノス原産の牛であり、人間の姿に近い直立した牛だ。あくまでも牛であり、知的人類種ではない。家畜だ。
戦闘力も高いので、辺境での酪農にはちょうどいいのだが……。
宇宙ミノタウロスを食う宇宙ドラゴンか。注意しないといけないだろうな。
「御嬢様も気を付けて下さいよ」
おじさんがそうユリシアに言う。
「だいじょうぶだよ! ユリシア強いもん!」
「そりゃ頼もしいな」
そう言って、ユリシアの頭を撫でる。
するとユリシアは嬉しそうな顔をして、笑った。
「うん! ユリシア、つよいからパパとママ守るの!!」
「ははは、そうかそうか」
頼もしい限りである。
「それじゃあ坊ちゃん、うちらも頑張らないとな」
そう言って、彼らは作業に戻っていった。
「さて、じゃあ次の区画を回るか、ユリシア」
「うん!」
そう言って、俺たちは次の場所に向かった。
◇
夕食を食べ、風呂に入る。ユリシアを膝の上に乗せ、一緒に湯船に浸かる。
「はふぅ~」
「はは、気持ち良いかユリシア」
「うん! パパのおひざのうえ、おちつくの」
「そうかそうか」
娘と風呂に入る。これほど幸せな事があるだろうか。
「ずるいぞ、私にも抱かせろ、ユルグ」
「はいはい」
隣でフェリスがそう言ってくるので、ユリシアを渡す。
「あー、ユリシアは温かいな……」
「フェリスもあったかいの!」
そう言いながら、ユリシアがフェリスに抱き着く。
「んん……ふふ、可愛いな……」
フェリスが幸せそうに言う。
うむ、素晴らしい。
なんというか……聖母像?
流石に映像媒体に記録出来ないが、俺の脳裏に、網膜に焼き付けておこうと心に誓った。
「よし、じゃあ出るか」
「うん」
そう言って、俺達は風呂を出た。
「さっぱりしたな」
「うん」
そう言って、ユリシアが俺の服を掴む。
「どうした?」
「あのね、ユリシア、パパとおフロ入るの好き!」
「そうかそうか、俺も好きだぞ」
「えへへ……」
ユリシアが笑う。可愛くて仕方がない。
そして、ユリシアが眠たそうに目を擦り始めた。
「そろそろ寝るか」
「うん」
そう言って、ユリシアを抱き上げる。
俺たちは寝室へと向かった。
ベッドに入ったユリシアはすぐに眠りについた。寝つきがいいので面倒が無くていい。
ドラゴンの姿の時もそうだったな。俺はユリシアの頭を撫でた。
「んん……」
ユリシアが少し反応するが、起きはしなかった。
「……今日も楽しかったな」
「そうだな」
フェリスが笑う。
「……こんな日々が送れるようになるとは思っていなかったこの星に来てから色々あったな」
「ああ、本当に」
「これからもこんな日が続くといいな、フェリス」
「そうだな」
フェリスが笑って、言った。
「きっと続くさ、私たち三人なら」
「ああ、ずっと一緒だ」
俺はそう言って、フェリスにキスをした。
「ん……」
フェリスが受け入れるように目を閉じる。
そのまま俺は、フェリスを抱きしめ、唇を重ねた。
「……もう寝ようか」
「うん」
「お休み、フェリス」
「お休み、ユルグ」
そう言って、俺たちは深い眠りにつくのだった。
そう、俺は……俺たちは間違いなく幸せだった。
だから、この時は予感すらしていなかったのだ。
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