彼女こそ我が学園の救世主であり女神だ
「なんで兄さんがここにいるのよ?」
校舎の裏。
レーゼン呼び出され連れてこられたユクリーンが額を指で押さえ、ため息をつく。
「色々と込み入った用事があるんだよ」
「前もって言ってくれたらこっちも準備できたのに……」
「何かいったか?」
「うるさいばか。くたばれ。くそ兄貴」
ぶーたれるユクリーン。俺は何かやっただろうか。
……。
今回の来訪の理由、話したくねえなあ。
でも話さないわけにはいかない。
「ここじゃなんだ。じっくり話せる場所に行きたい」
「そういわれてもね……」
するとレーゼンが会話に入ってきた。
「じゃあ、俺の部屋はどうだ。人数割りの関係で、二人部屋だけど俺一人だし」
……頼りになる人だなあ。
「そっか。じゃあお願いするわね、風紀委員さん」
「おう、任せとけ」
……。
ん? 風紀委員?
◇
俺たちは風紀委員レーゼン君の部屋にいた。
レーゼンはベッドに腰掛け、俺とユクリーンは椅子に座っていた。
レーゼンは俺たちに言う。
「込み入った重要な話なら、俺は席を外したほうがいいか?」
「そんなことないわよ。むしろいてちょうだい」
「お、おう」
ユクリーンの言葉にレーゼンが頬を赤らめる。
まあいいんだが、勝手に決めないで欲しいぞ妹よ。
「風紀委員なのに、いいのか?」
客観的に見て、俺は怪しさしかないと思う。
「Pi~Pu」
L3も同意してる。
「いいんだよ。ユクリーンさんの兄貴なら信用できる」
「何やったんだよ、お前」
「べ、べつに……」
視線をそらすユクリーン。
「ユルグさんは知ってるだろ、この学園は貴族たちが集まってる」
「ユルグでいいよ。ああ、知ってる」
「貴族には、地位を振りかざして悪事を働く腐った奴もいる。だから、そういうやつらを取り締まる組織が必要なんだ」
「へぇ……」
「その取り締まり役が、俺みたいな人間さ」
「そうなのか」
「だけど、校則や法律は決して完璧じゃない。それに縛られていては成せない正義がある。
だけど俺は、騎士だ。騎士爵の家に生まれ、そう生きてきた俺には、法を守る義務があり、破る事などできなかった。
わかるか? 法律と校則を利用し逆手に取る奴ら相手に何もできない悔しさ。そんな時――
たとえば、爵位の低い女生徒を男子寮に連れ込んで弄んでいた湯奴らがいたとしよう。
そこに単身乗り込んで、伯爵家の長男たちを殴り倒した少女がいたとしよう。
私に手を出したらどうなるか、と叫ぶ奴らを顔面がジャガイモみたいになるまで殴り続けるその姿。
くだらないちっぽけな俺の価値観を破壊してくれた。
彼女こそ我が学園の救世主であり女神だ!」
……うわぁ……。
伯爵家のボンボンをボコったのかよ。
イナーカスの狂犬は健在だったか。
「あの時は本当にすごかったぜ……。あの時の光景を思い出すだけで胸が熱くなる……!」
……あかんなこれ。
俺はユクリーンを見るが、ユクリーンも苦笑していた。そして笑ってごまかしていた。
しかし、彼のこの反応。もしかして……
「じゃあ、レーゼン。お前、ユクの事が好きなのか」
「ちょっと、兄さん!」
俺の言葉にユクリーンが慌てる。しかし、
「それは無いな。恐れ多いよ。ただただ尊敬し崇拝してる、憧れだな。たどり着きたい境地の一つだ」
即答だった。
恋愛対象としては見られていないのか。哀れな。
「……ともかく、そんな人の兄貴だ。正しい人なんだろうさ」
レーゼンが言った。過分な評価を受けている気がするが……まあ、まっすぐ信頼されるのは悪くない。
正義感も強そうだ。彼なら……ここにいてもらってもいいか。
「ところで、結局なんで兄さんはこの学園に来たの?」
ユクリーンが尋ねてくる。
俺は正直に話すことにした。
「フェリスに別れを告げられた」
「死ね!!」
殴りかかってきた。慌てて避ける。
「なんでそんなことになってんのよ!!」
「落ち着け、まずは話を聞け!! レーゼン、そいつ止めてくれ!!」
「ユクリーンさん、落ち着いて!!」
「これが落ち着いてられるかあああああ!!!!」
その後、なんとかユクリーンが落ち着くまで五分かかった。
そして俺は、今までの経緯を説明した。
一週間前、急にフェリスの態度が変わったこと。
宇宙船とトルーパーがやってきて、フェリスは公爵家に復帰すると言い、そして俺に離縁を突きつけた。
だけど、言葉に不自然な事がいくつもあった。
そしてロボットL3の所有権がいまだ俺にもあること、結婚指輪も突き返されていない事。
執事の不自然な言動。そしてフェリスの、妹に会えとの言葉。
だから俺は、ここまで来たのだと。
「確かに不自然ね……」
「それで、妹に聞け、というフェリスの言葉通りにここに来たわけだ。何か知ってないか?」
「そう言われても……学園は外と隔離されてるからね。情報はあまり入ってこないのよ。
レーゼンは何か知らない?
お義姉……フェリシアーデ様に関係してそうな事」
「そう言われてもな。あの騒ぎ以降、学園を退学されて姿を消していたわけだから。まさかユクリーンさんの兄貴に嫁入りしてたとは思わなかったけど」
どうしよう、いきなり詰まった。
妹に聞け、とはなんだったんだ。
「本当に何か知らないのか?」
「知らないわよ。
……あ、いやちょっと待って。
フェリシアーデ様の事、というか……皇太子殿下とアリスについてなら」
「そう言えば、襲撃されたって……」
「ええ。殿下は特例で外にもよく出るんだけど、その時に……」
「爆弾テロらしいな。幸い死者は出なかったけど」
「その後からね。殿下とアリス、学園で見なくなったわ」
「……は?」
それって……
「行方不明ってことか」
「わからないわ。危険を感じて姿を隠しているのか、それとも」
予想以上に不味いな。
しかし、確認しておかないといけないことがある。
「……ユク。その皇太子殿下の襲撃事件。いつだった?」
「ええと……十日ほど前、かな」
「正確には八日だよ、ユクリーンさん」
レーゼンが正しい日を教えてくれた。
八日、か……
「これはまだ言ってなかったけど、帝都に来て爆発事故があってな」
「なにしてんのよ兄さん」
「俺は巻き込まれただけだ。正確には事件の後に現場に言っただけだ。んで、けが人を病院に運んだ時に、皇太子襲撃事件の話を聞いたんだが……
あくまで噂だが、犯人がフェリスだと」
「はあ!?}
ユクリーンが叫ぶ。ああ、ありえない。
「だけど、フェリスが惑星イナーカスを出たのは八日前だ。帝国の船でも、全速で飛ばしても四日はかかる」
俺が一週間かかったのは、道中トラブルに見舞われたからだ。最短最速で行けたら三日で着くね、きっと。
「つまり……」
「ああ。フェリスにはアリバイがある。殿下を害そうとすることは出来ない。
仮にそうしようとしても、その襲撃が未遂に終わったというのに、動きがおかしすぎるだろ」
「確かに……フェリシアーデ様が犯人、首謀者だと仮定したら、ユルグとの夫婦生活を続けるはずだな、アリバイ作りに」
レーゼンが言う。
その通りだ。隠れ蓑にして計画を遂行するはずだ。殺害が失敗したから離婚して帝都に向かう、など道理に合わない。
「誰かが、フェリシアーデ様に罪をかぶせようとしている……?」
「だろうな。ということは、フェリスはそれに気づいて、俺に動くように示唆した……ということか?」
「ということは、ユルグ。この学園に犯人がいるということか?」
「わからない。だけど、フェリスはそう考えている……ということだろう。ここにはその殿下と聖女もいるしな。
今は行方不明……だっけ」
しかし、嫌なタイミングだ。
「オルトリタール殿下と聖女アリシア。確かに、フェリシアーデ様はその二人に恨みを持ち復讐する……と、外の人たちなら考えるだろうな」
「そうよね。実際には……アレだけど」
「……?」
なんか二人の反応が変だな。
「フェリスはそのアリシアって娘と仲が良かったし、いじめの指示もしていない……だったか。前にユクに聞いたけど」
「ええ。殿下とも衝突しまくっていたけどね」
ん?
「衝突? 婚約者の皇太子殿下と?」
どういうことだろう。なんか話がずれていないか?
「……そうか。これも隔離空間な学園だからかな。皇族の見栄もあるのだろう」
レーゼンが言う。どういうことだろう。
「記録映像があるからそれを見てもらった方が、早いか」
レーゼンは再生装置を取り出し、床に置く。
そして、立体映像が空中に投影された。
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