このレーゼン・ナーグ・アイルズハルトに任せとけよ


  惑星イナーカスを出航して一週間。




 ついに銀河中枢にたどり着いた。




「Piu~」


「ああ、色んなことがあったな。宇宙海賊から宇宙商隊を助けたり、宇宙モンスターに襲われたり……」




 スムーズな旅路とは言えなかったが、ようやくたどり着いた。




 セントラリアに接近すると、通信が入る。




『こちらは管制センター。貴艦の所属、目的を述べよ』




「こちらは惑星イナーカスより出航した、ウィンドブルーム号。


 乗員はユルグ・ノンヴィ・イナーカス。


 イナーカス準男爵家の三男坊です。


 目的は学園に留学している妹との面会です」




『……少々お待ちを。


 ……確認がとれました。問題ありません。


 指示に従い、35番ベイにて手続を行ってください』


「わかりました、速やかに移動します」




 問題なく星に降りれそうだ。




 俺は宇宙港へとウィンドブルーム号を停泊させた。




 検疫を受け、荷物のチェックを行う。




 特に異常はなかったようだ。




「よし、それじゃあ行こうか!」


「Piii!!」




 俺達は意気揚々とエアロックを通り抜け、宇宙船の外に出る。




 目の前に広がる光景に、思わず息を飲む。




 そこには広大な都会が広がっていた。




 俺の住んでいた田舎とは大違いだ。建物や道路も整備されており、人の往来も多い。




 さすがは銀河の中心と言うべきか……。




「すげえ……これが宇宙都市ってヤツなのか」


「Pipipi!!!」




 俺たちはしばらくその景色に見惚れていた。




 その時―――。




「なっ!?




 突然爆発音が響いた。




 音の方向を見ると、煙が立ち上っている。




 どうやら街の一角で騒ぎになっているらしい。




「なんだ!?」


「Pipi?」




 ようやく休めると思ったんだが――




 俺達は騒動の場所に向かって走り出した。







 現場にたどり着くと、そこは凄惨な状況になっていた。




 建物は崩壊し、多くのけが人が出ている。




 そして周囲には野次馬が集まり、騒然としていた。




「おい、いったい何があったんだ!?」




 近くに居た人に話しかける。




「わかんねえよ!ただ、何かが爆発したんだってことしか……」


「爆発だと!? 誰がそんなことをしたんだよ!?」


「知るわけないだろ! 宇宙トルーパーでも呼んで来いよ!」




 現場には宇宙トルーパーの姿はない。




 おそらく混乱を避けるためだろう。




「仕方がない、とりあえず怪我人を運ぼう。


 手伝ってくれ!」


「わかった!」


「Pi-!」




 俺は周囲の人達に声をかけて協力を求める。




 すると多くの人が集まってくれた。




 まずは瓦礫の下に埋まっている人を救出する。




 幸いなことに死者はいないようだ。




「うぅ……」


「大丈夫ですか?」


「あぁ……なんとか……」


「すぐに病院に連れて行きますね!」




 俺は男を背負い上げると、近くの病院まで運んだ。




「ありがとうございます!助かりました!」


「いえ、気にしないで下さい」




 男は礼を言うと、急いで病院の中へ駆け込んで行った。


 これで一安心だな。




「テロリストか……?」


「ひどいな……」




 人々が不安げに話している。




 そして、聞き捨てならないセリフも聞こえた。




「皇太子さまも襲われたって聞いたぞ」


「本当か? あの方は無事なんだろうか?」


「さあ……わからん……」




 皇太子が襲われた? まさかテロに巻き込まれたのか?




 皇太子オルトリタール。直接の面識は全くないものの、フェリスの関連で因縁は浅からぬ相手……だと思う。




 なにより、急にフェリスが帰還した件。




 辺境に追放されたのが皇太子の怒りによる追放なら、急な公爵家への復帰も、関係しているのかもしれない。




「すみません! その話……皇太子殿下が襲われた件について、何か情報を知りませんか?」




 俺は近くにいた女性に尋ねる。女性は首を横に振った。




「確定ではないらしいですけど、噂では……」




 その名前を、俺は知っていた。




「なん――だって」




 あり得ない。




 だって、その名前は――




「フェリシアーデ・フィン・ローエンドルフ公爵令嬢らしいと」









 銀河帝国学園。




 帝国の貴族子女が通う巨大学園である。




 全寮制で、入学には厳しい審査がある。




「……それにしても、広いなぁ」




 俺は目の前に広がる巨大な校舎を見て呟く。




 さすがは帝国一の名門校だ。




 しかしどうするか。




 銀河中から貴族子女が集まるこの学園は全寮制であり、学園内の施設だけで完結している、独立都市のようなものだ。




 そして基本的に、学園祭や体育祭などの時期を除けば、父兄ですら入れない。




 妹に会いに来ましたと言っても、難しいだろう。




 とりあえず、まずは職員室に行くか。




 そこで先生たちに挨拶しておこう。




 とにもかくにも話せるだけの事情を話し、当たって砕けろだ。




 俺はそう決めて歩き出した。







 そして、叩き出された。




 受付の宇宙トルーパーに普通に不審者扱いされてしまったのだ。




 準男爵家の三男だと説明しても駄目だった。どうしようもないほど怪しいらしい。




 仕方ない。




 こうなったら……極秘潜入しかないか。




 というわけで夜。




 俺は忍び込んでいた。




 生徒も教師も寝静まった深夜だ。




 学園の敷地内は警備システムが働いているようだったが、それはL3にハッキングしてもらって事なきをえた。




 ……こいつ、ペットロボットにしては有能すぎるだろう。流石公爵家のロボットである。




 俺は夜の闇に紛れて、誰にも見つからずに敷地の奥へと入っていった。




 時折、警備の宇宙トルーパーがいるがなんとかやり過ごす。




 辺境で夜目の利く獣や魔物から逃げる時の経験が役に立った。




 やがて辿り着いたのは、一つの建物。学園の中でも特別な場所。特別教室棟だ。




 俺はその建物の屋上にいた。




 屋上からは、生徒たちの寮が見える。男子寮と女子寮があり、それぞれ高い壁に囲まれていた。




 あそこに妹がいる。




 まずは接触しないとな。そう思っていると……




「おい」




 背後から声をかけられた。




「……っ」




 驚いた。気配を感じなかった。




 振り向くと、そこには一人の少年がいた。




 黒い髪に赤い瞳をした美形の男だ。




 年齢は十代半ばくらいだろうか? とても美しい顔立ちをしているが、どこか荒んだ雰囲気のある少年だった。




 鋭い眼光をしており、まるで野良犬のような印象を受ける。




「こんな時間に何してる?」




 少年が問いかけてきた。




 その質問に対し、俺は堂々と答える。




「人を探しているんです」


「…………」




 俺の言葉を聞いた瞬間、少年の雰囲気が変わった気がした。


 警戒するような視線を感じる。


 まあ、当然の反応だな。


 いきなり知らない男が侵入してきたら、普通は怪しむよな。


 とはいえ、ここで引く訳にはいかない。


 俺は真剣な表情を浮かべながら言った。




「ある女の子を捜しています。名前はユクリーン・ブルコンヌ・イナーカス」




「!」




 その名前を出した途端、少年の顔色が変わる。




 だがすぐに元に戻り、彼は低い声で尋ねてきた。




「なぜその名を知っている?」


「私はその娘の兄です」


「兄だと?」




 俺の言葉を聞き、少年は大きく動揺する。……これはもしかするといけるか? と思ったのだが……。




「あの……古代文明の遺産を間違って動かしてしまって惑星ひとつ壊しかけた」


「それは長兄です」


「じゃあ……宇宙マフィアを拳一つで壊滅に追い込んだ」


「それは次兄です」




 学園にまで伝わってたのか、兄さんたちのやんちゃは。




「じゃあ三男の……えっと」


「二人の兄に比べたらあまりパっとしない?」


「そうそうそれそれ」




 悪かったな、バっとしなくて。




「その三男だってのか。証拠は」




「ありますよ」




 俺は自分のIDを見せる。




 立体映像で投影されたそれを確認してから、少年は少しだけ考え込むような素振りを見せた後、口を開いた。




「わかった。とりあえず信じよう」


「ありがとうございます」


「あの人の兄なら、敬語はいらないよ」


「ああ……助かるよ」


「それで。その兄貴がなんでわざわざ不法侵入を?


 家族に面会したいなら正規の方法で会えるだろう」


「正面から面会申し込んだら叩き出された」


「……」




 微妙な空気が流れた。




「まあ、その服装だしな」




 確かに俺の今の服装は汚れていた。




 昼間の事件の時にけが人を運んだのでマントには血もついてるし。そりゃ不審者扱いもされるな。




「それに、あまり大っぴらにしたくない話だからな。


 教職員やトルーパーにあまり説明したくない」


「……訳ありってことか。


 いいぜ、俺がユクリーンさんを呼んできてやるよ」


「いいのか?」


「事情がありそうたしな。それに、義を見て為ざるは勇なきなりって言うしな。


 このレーゼン・ナーグ・アイルズハルトに任せとけよ、不審者の兄貴」


「ユルグだよ。ユルグ・ノンヴィ・イナーカスだ」

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