俺は出来損ないだけどな

「ヒャッハァー!! この星は我々がいただくぜぇー!!」


 宇宙山賊たちが声をあげてやってくる。


 辺境の星を襲い、そこを根城にしようとする連中だ。人間のほかにも、宇宙オークや宇宙ゴブリンたちも混じっている。


 今年に入って三回目だ。


 こういった外敵を追い払うのも、田舎領主の仕事である。


 そりゃ、領主の息子が小さな土地を奪い合い戦うようなお家騒動などとは無縁にもなる。


 結束しないと滅びるのは自分たちなのだから。


「ふん、また来たのか。懲りない連中だ」


親父が鼻を鳴らす。


「どうする親父?」

「もちろん、迎え撃つさ。お前たち、訓練の成果を見せる時が来たぞ」

「「「おう!」」」


 この惑星の支配者、ヘイタル・エーノ・イナーカス準男爵。


 親父が騎士たちに号令を下す。


 といっても、騎士とは名ばかりの農夫みたいな連中ばかりだが。


 しかし農夫といって馬鹿には出来ない。


 常日頃からの肉体労働に従事している彼らは、ぶっちゃけ強い。


「よし、お前たちは村人たちの援護と、敵を食い止めろ。

こっちは、俺と、息子たちでやる」

「俺もかよ」

「当たり前だ。お前はもう、結婚もした一人前だ。俺の背に守られるだけの存在じゃない。

 自分で自分の身を守ることも、領民を守る事も出来る。

 俺に万一の事があったら、次の領主はお前だ。しっかりな」

「兄さんや兄貴は? 順番から行ったら……」

「嫌だってさ」

「あんにゃろうども……」


 趣味に没頭するのが好きなシュミット兄さんと。面倒くさいのが嫌いなケルナー兄貴。


 領主なんてやりたくないってか。わかる。俺も嫌だもん。


 だけど俺も拒否したら、家督は妹か妹の婿になる奴に。そっちも拒否したら、結局はシュミット兄さんだ。


 三男はこういう時に便利だ。


「じゃ、行きますか」


 親父はそう言うと、腰に下げた剣を引き抜いた。


「えらく古い剣だよな」

「うちの家に伝わるものだ。先祖代々使っているらしい。こないだ質で買い戻した」


 親父はそう言うと、その剣を構えた。


「来い、宇宙山賊ども。俺とお前たちの格の違いを教えてやろう」


 親父は挑発するように言った。


 そして、剣を振りかざし、突進した。


 速い!


「ぬぅん!」


 親父は気合の声とともに剣を振るう。その一撃だけで、数人の宇宙山賊が吹き飛ばされる。


「ひぃ!」


 悲鳴を上げる宇宙ゴブリンたちに、親父はそのまま切りかかる。


「死ねやぁあああ!」


 その一言と共に振るわれる斬撃を喰らい、宇宙ゴブリンが真っ二つになった。


「おのれ! この野郎!」


 宇宙山賊が拳銃で射撃するが、親父はそれを剣で弾いた。


「ばかな!?」

「どうした? この程度の銃で怯むような軟弱な奴が、辺境で貴族の看板かかげてられっか!」

「くっ!」


 親父の攻撃に、宇宙山賊はたじたじになっている。


 やはり親父は強い。


「ユルグ、ぼーっとすんなよ」


 ケルナー兄貴が言う。


「わかってるよ」


 宇宙山賊の武器が強力なのは確かだが、親父には及ばない。


「うぉおお!!」


 雄叫びを上げながら、親父に斬りかかろうとする宇宙山賊。


 しかし親父はそれを軽くあしらうように弾き飛ばす。


 そして親父はそのまま流れるような動作で、その宇宙山賊に追撃をかける。


 宇宙山賊が慌てて回避すると、親父は再び距離を取る。


「クソがぁ!!」


 宇宙山賊が激昂し発砲する。親父はそれをかわすと、宇宙山賊に向かって突進する。


「うわあああああああ!!!」


 宇宙山賊は絶叫しながら、引き金を引く。


 そして、その銃弾が親父に命中した。


「やったか!?」


 誰かが叫ぶ。親父は血を流しながらも、倒れず立っている。


 というか、銃弾を歯で受け止めていた。


「ひっ……嘘ぉ!?」

「ビームブラスターならともかく、時代遅れの実弾じゃこうなる」


 親父はそう笑い、鉛弾を噛み砕いた。


「ユルグよ」


 その戦いを見ていたフェリスが言う。


「……義父上は化け物か?」

「辺境だと普通かな」


 多少引きながらも、俺は答える。確かに化け物だが……


 ここらの星の領主はだいたいあんな感じだし、辺境伯様はもっと強い。親父が百回戦って二回勝てるかどうからしい。


 宇宙山賊の銃撃をくらってもピンピンしている姿を見て、宇宙山賊たちは恐怖に顔がひきつっている。


 同情するわ。


「ユルグ、先に行くぞ」

「了解」


 兄貴は宇宙山賊の群れに突っ込んだ。


「うおりゃあああ!!!」


 ケルナー兄貴が大声で吠える。


 そして、振り上げた拳を思いっきり地面に叩きつけた。


 地面が割れる。衝撃が波紋のように広がり、宇宙山賊たちを薙ぎ倒した。


 そして、宇宙山賊の集団に穴が開いた。


「いまだ!!」


 兄貴はそこに飛び込む。


 そして、ひたすら殴る。殴る。殴る。


 面白いように宇宙山賊たちは吹き飛んでいく。


「くそっ、なんだこいつらは!?」

「こんなに強かったのか……聞いてねえぞ」

「ただの小さな田舎のチョロい星じゃなかったのかよ!」


 混乱する宇宙山賊たちを次々と倒して行く、親父と兄貴たち。


「ユルグ」

「何?」

「義兄上は化け物か?」

「辺境だと普通かな」

「ではもう一人の……」

「シュミット兄さんなら」


 ずしん、と音が響く。


「ひっ」

「あれは……」


 それは巨大な多脚宇宙戦車だった。

 兄さん自慢の宇宙農耕機だ。


「やあ、君たち。他人の畑を荒らすのはよくないな」

「ひっ……すみま」

「肥料になりたまえ」


 宇宙トラクターがビームを出す。


「焼き畑農業だ、はっはっは。どこへ行こうと言うのかね」


 ビームが大地をえぐり、逃げ惑う宇宙山賊たちは吹き飛んでいく。


 トラクターにビームとかミサイルとか必要なのかと問われたら、もう兄さんの趣味だからという他ない。


「……なあ、ユルグ」

「なんだよ?」

「辺境の人間は、皆こうなのか?」

「…………普通だよ」


 俺の返事に、フェリスは頭を抱えた。そりゃそうだよな。


「俺は出来損ないだけどな」


 親父やケルナー兄貴たちのように肉体が強くないし、シュミット兄さんのようにあんな化け物トラクターを操るセンスや技術もない。


 妹のように魔力の操作に秀でているわけでもない。


 つまり、落ちこぼれだ。それを卑下するつもりはないけれど。でも、俺だって、親父とケルナー兄貴と一緒に戦いたい。


 だから、せめて自分の身と……自分の妻くらいは自分で守りたかった。


「ふん、なかなかやるな」


 親父はそう言うと、宇宙山賊のリーダーらしき男と向かい合う。


 宇宙山賊リーダーは大型の回転式ブラスター構え、親父を狙っている。


 それが火を吹けば、さすがに親父でねたまったものじゃないだろう。


「くたばれぇええええええ!!!」


 宇宙山賊リーダーが叫ぶと同時に、シュミット兄さんの宇宙トラクターがリーダーを踏みつぶした。


 兄貴、優しい顔して容赦ないよな。


 そして、蹂躙が続く。



 一時間もかからず、宇宙山賊たちはほとんどが倒れ、生き残った山賊たちも降伏した。


「お前たち、大丈夫か?」

「ありがとうございます、領主様」

「気にするな。当然のことをしたまでだ」


 親父は領民たちから感謝されている。


 辺境の星系において、領主は尊敬される存在だ。


 民を虐げてはいけない。外敵が多い辺境でそんなことをすればたちまち反乱だ。


 力も見せないといけない。弱い貴族は頼りないと反乱が起きる。


 現にそういう星もあったが、辺境伯様は「弱い奴が悪い」と反乱の首謀者をは罰しなかった。


 そういう意味では、親父は理想の領主をやれている。


 母さんには逃げられたけど。


「……忙しいのだな」


 戦いが終わった後で、フェリスが言う。


「ああ。いつものことだよ」


 どこからわいてくるのか、本当にきりがない。


 とりあえず、捕らえた宇宙山賊たちは牢獄に入れることになる。


 数日後には辺境伯様の惑星から舩が来て、宇宙山賊たちは鉱山惑星送りになるだろう。


「慣れているのだな、みんな。私の出番が。全くなかったぞ」

「ああ。辺境ってこんなもんだよ」


 銀河の中心から離れるほど無法地帯だ。


 しかし、ここはまだましな方だ。


 変に中心に近い位置の辺境では、宇宙犯罪組織が手を伸ばしていることも多い。


 そういう意味では、ド辺境なド田舎でよかったと思う。犯罪組織のいざこざとかに巻き込まれたくないのは誰だって同じだ。


「宇宙山賊とか以外にも、宇宙シカや宇宙イノシシといった宇宙害獣や、宇宙モンスターも普通に出るしな。

 そういったやつらの対処以外にも仕事は山ほど在るし、貧乏暇なしだよ」

「私は、役に立てているのだろうか」

「ああ」


 フェリスが不安そうに言ってくるが、役に立っているどころじゃない。


 うちの田舎は、バカばかりである。


 頭が悪い……というわけではなくとも、教育水準が低い。一応みんな読み書きは出来るが、高度な教育を受けているものは少ない。


 シュミット兄さんの知識と技術は偏っていてあまり頼りにならないし。


 ちなみに、ケルナーの兄貴はかけ算の九九が出来ると自慢するレベルだ。


 泣ける。


 妹だけでも無理して学園に通わせたのは、しっかり勉強してちょっとでも故郷にそういった知識とか技術とか引っ張ってこい、という意図もある。


 そんな時に、成績もトップクラスだった公爵令嬢様が来て、その知識を遺憾なく発揮してくれている。


 むちゃくちゃ助かります。


「フェリスがいてくれて本当に助かってるよ。書類仕事や雑務経理とか、本当に色々と出来るんだな」

「ああ、私は本来、未来の帝国を補佐するために教育を受けてきたのだからな……ああ、本当なら」

「……ごめん」


 また地雷を踏んでしまった。


 そうだよな、フェリスのこの能力は、全て皇太子殿下の妻として公私ともに支えるためにあったものだからな。


 ……。


「ユルグ。何か、気に障るようなことを言ったか?」


 黙った俺に、フェリスが言う。


「いや、ちょっと考えごとしてただけだよ」


 皇太子に嫉妬してました、なんて誰が言えるか。情けない。


 ……しかし、そう考えてしまう自分に驚いた。


 ただ押しつけられた罰ゲーム結婚なのに、予想以上に……俺は彼女のことを気に入っているのか。


 境遇に情がわいたからか、それとも……もしかして、一目惚れでもしていのだろうか、俺は。

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