第29話
憂鬱な気分のまま時は流れ、あっという間に週末がやって来てしまう。
「ホントに行かなきゃダメ?」
「ダメダメ! もう写真も見せちゃったし!」
「えっ、いつの間に!? ってか、いつの写真?」
「高校の卒業式のやつ!」
ギリギリまで駄々をこねてみるが、瑞野さんは笑顔を浮かべて優しい口調でありながらも。一切、許してはくれなかった。
「そういえば、今日の合コンってどういう人達が来るの?」
「あっ、そういえば。まだちゃんと伝えてなかったね」
「けっこう大事なこと言い忘れてたよね」
「女子は私と万里と、私のとこの大学の女子三人で。男子の方は確か――」
その後、瑞野さんから告げられた大学名に私は戦慄した。
「いや、マジ無理!! 帰る!!」
「えぇ!? なんでよ!! ダメだよ!!」
「いやっ、ホントマジで無理だって!! だって――」
私は必死で瑞野さんに訴える。
「その大学、私が通ってるトコだし!!」
もし、知り合いに会おうものなら……私の平和な大学生活の危機なのだ!!
***
その後、あの手この手で瑞野さんに辞退を要望するが……。
「同じ大学っていっても、学部だって多いんだし。知り合いとバッティングする方が難しいんじゃない? そんな心配しなくっても大丈夫大丈夫!」
と、押し切られてしまったのだ。
「すみません、お待たせしました~」
そして、到着してしまう合コン会場。
場所は、おしゃれめなイタリアンレストランであった。
「おっそーい、瑞野さん! もう皆揃って――」
肩出しトップスにミニ丈スカートの、この場で一番派手な服装とメイクを施した女子が。瑞野さんに文句を言おうとした瞬間、私を見て言葉を途切れさせた。
見ないでくれ……。
「ごめんごめん~、ちょっと迷っちゃって~」
本当は、瑞野さんが私にメイクだ衣装変えだと。色々コーディネートを
「時間大丈夫?」という私の言葉にも、「平気っしょ!」とどこ吹く風だったし……。
うぅ……それにしても、メチャメチャ久しぶりに着けたコンタクトの違和感が……化粧も普段全くしないから落ち着かない。しかも、スカートなんて高校の制服以来なのだが!?
「瑞野さん! ちょっと、良いかしら?」
すると、派手め女子が席から立ち上がって私達の方へとやって来る。
「……ねえ、なんで見せて貰った写真の子じゃないの!?」
「えっ、写真の子よ? まあ、眼鏡なくて化粧してて印象違うかもだけど~」
「嘘言わないでよ!! 絶対別人でしょ!!」
本人目の前にして凄い言い切るな、この人!!
「ほらほら~! こんなこと話してる間に、時間過ぎちゃうよ~!」
瑞野さんは何故か嬉し楽しそうに、派手め女子を席へと押し戻す。
「皆様~! お待たせ致しました~!」
私は瑞野さんに手を引かれ、空いている端っこの席へと腰を降ろした。
向かいには既に男性陣が揃っていたが、恥ずかしくて怖くて顔を上げられない……しかし、知っている顔が居ないかも気になったので。顔は伏せたまま、視線だけ上げてみる。
真正面向かいの人は……知らない人だ。横も……うん、見覚えはない。隣は――。
「!?」
最悪だ!! 居た、居やがったよ知ってる顔!!
男子側の席、真ん中に座っていたのは――まさかの空井君だったのだ!!
「てか、写真送ってくれたイケメンは?」
「あ~、急用入っちゃって……」
「んで、急遽。俺が参加させて頂くことになりました!」
女子の一人が言った文句に、男子の一人が気まずそうに返す。すると、空井君が明るい声で言った。
「まあ、盛り上げ役兼引き立て役が増えたということで!」
「引き立てって、普通にこん中で一番カッコイイじゃん!」
「マジ!? 超嬉しいわ!」
即座に場に馴染み、女子達と会話を弾ませたり。男子達の笑いを取ったりする空井君。
陽キャコミュ力に圧倒されながらも、私は助けを求める視線を隣の瑞野さんに向ける。
(瑞野さん、ヤバイ!! 知り合い居た!!)
(マジか!? 万里のことバレてる!?)
(それは分かんないけど……)
(けど、普段の万里しか知らないなら。知らない振りしてればバレないって!)
(そっ、そうかな? なんか、それもそれで複雑だけど……)
(大丈夫! ご飯だけ食べてテキトーに話して過ごしたら、さっさと退散しよう!)
(了解。是非にそれで!!)
瑞野さんと意思疎通しつつ、私はとりあえず今は“真壁万里”とは別人になろうとギコちない笑みを浮かべた。
(空井君に私の正体バレたら終わる……尚且つ、日向や旭君に話されでもしたら……)
絶望しかない……。
「じゃあ、とりあえず。軽い自己紹介からしよっか!」
私の反対側の端っこに座る男子――彼とその隣に座っているもう一人も、見覚えがないのは救いだ――が、どうやら幹事のようで。この場を仕切り始める。
幹事の彼から、順番に自己紹介が始まり。何を言おうか考えているうちに、あっという間に私の番がやってきてしまう。
「――まっ、まりでーす! 今日は瑞野さんに呼ばれて、人数合わせで来ましたー!」
最後であった私の番にて、いつもより気持ち明るめのテンションで述べた。
帰りたい……。
「へぇー! まりちゃんっていうんだ!」
「紹介短っ! 趣味とかは何?」
「好きな食べ物は?」
「つーか、好きなタイプは!?」
空井君以外の四人が、何故か私に食らいついてきた。
いや、なんでだよ!! こっち来んなよ!!
「ちょっと男子~、こっちはほったらかし~?」
すると、お茶らけた様子で空井君が。ワザと高い声を出して、私に質問攻めしていた男子達に言う。
「いや、お前も男子だろ!」
「つーか、空井が女子ならむしろワザとほっとくわ!」
男子達は笑いながら、空井君へ告げた。
たっ、助かった……ありがとう、空井君!
「悪い悪い!!」
「いっちばん色々知りたい子の情報が少なかったから、ついな!」
私のことなんてどーでも良いでしょうが……男子達が何か言う度に、瑞野さん以外の女子陣の視線が痛い……。
そんな睨まないでくれ……。
だが、その後は何とか場を持ち直し。他愛ない会話をしながら、合コンメンバーは交流をし始める。
私はあまり空井君と目を合わせたり、関わらないようにしつつ。瑞野さんに助けられながら、何とかやり過ごしていた。
「――ってかさ……アンタ、空井だよね? 空井英樹」
突然、派手め女子が空井君に声を掛け始める。
「あっ、うん……そうそう。
空井君がギコちない様子で、派手め女子こと山瀬さんに笑いかける。
「やっぱり! そんな気がしてたけど、最初名前聞いても全然気付かなかったわ! ガリ勉地味メガネだった空井がどうしたの!? 髪明るっ!!」
笑い混じりに、大きな声で言う山瀬さん。
「えっ、山瀬さんって。空井とどういう関係!?」
男子の一人が面白半分な様子で尋ねてくる。
「関係って、別にただの元同級生だよ。高校の」
空井君が笑みを貼り付けながら告げた。
「そうそう! 私が空井なんかと、なんかあるワケないじゃん!」
随分と尊大な言い方をする山瀬さんに、私の眉がピクりと動いてしまう。
「えっ、ねえねえ! てか知ってる? 空井って、今はこんな陽キャ気取ってるけど。昔は友達一人も居なくて、休み時間もずーっと勉強してるような暗い奴だったんだよねー!」
本人を目の前に、空井君を馬鹿にしたような口調で言う山瀬さんに。男性陣達も、「へっ、へぇー……」とか「そうなんだ……」と困惑気味であった。
「いや~、そんな……俺の話しなんて、何にも面白くないからさ。違う話しでも――」
「確かに! アンタ成績良いだけで、何にも面白くない奴だったよね! クラスでも“空気”扱いだったし!」
笑い混じりに、山瀬さんが言う。
「正直、居ても居なくても。皆、気にしてないってか。教室居ても、気付いてすら無かったんじゃ――」
――バンッ!!
大きな音が店内に響き渡る。テーブルを思い切り叩き付けた打撃音。
今まで流れていたどの音よりも存在感を放った発信源に、合コンメンバーだけでなく。他の客達の注目も注がれた。
「その話、面白いの?」
私――打撃音の発信源が言う。
「こんな詰まらない話しを、あと五分以上でも聞かされるの?」
「詰まらないって……いきなり、なんなのアナタ?」
「それはこっちのセリフです。
さっきから聞いていて、どうしても拭えなかった不快さが抑えきれずに溢れ出していく。
「まっ……万里ちゃん!! おっ、俺は全然大丈夫だから!! そんな怒んないで……」
すると、空井君が場を取り成そうとするが。私は何だか、取り繕うような彼の笑顔が逆に癪に障った。
確かに、この場をやり過ごす方が大人で賢いやり方だ。空井君は間違っていない。ここでは、私の方が子供だ。
そんなことは、重々に分かっていた。
「なんか、ごめんなさいね。空気悪くしちゃって」
言いながら、私は財布から千円札を何枚か引き抜き。
「私はこれで失礼します。あとは皆様で、ごゆっくり」
と、テーブルに叩きつけて入口へと足早に向かい。早く帰りたいと思っていた合コン会場から、思いの外早い帰宅が出来ることと相成ったのであった。
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