第28話
学校から自宅へと帰り、私は強い脱力感と後悔を覚えていた。
(いくら旭君にビビったからって、なんでオッケーしちゃったんだろう……私……)
目前に迫った夏休み。
つい昨日までは、テスト後のご褒美にどう過ごすかを構想して楽しみにしていたにも関わらず。日向、空井君、旭君との予定が捩じ込まれてから、なんだかとても憂鬱なイベントと成り果ててしまった……。
いや、しかし……八月中旬には、夏の大型同人イベントがあるんだから。夏休みが永遠に来ないのはとてつもなく困るのだが……。
そう頭を悩ませていると、私のスマホに着信が入る。
「あれ? 瑞野さん?」
珍しい人物からの着信に、私は緊張をしながら応答ボタンをタップした。
瑞野さんは高校の同級生で、陽キャ美人にも関わらず私に気兼ねなく接してくれた人物であったのだ。
卒業して学校が別々になってからも、結構メッセージのやり取りをしていたが。電話が掛かってくるのは珍しいことだった。
「もしもし?」
『もしもし、万里? 久しぶり~! 元気してた?』
高校の頃と変わらぬ、明るい声が受話器から聞こえてくる。
「まあ、ぼちぼちやってますよ~」
『あははは! なら何より! いきなり電話しちゃってごめんね!! 今、大丈夫?』
「うん、平気だけど……どうしたの?」
何か、急を要する事でもあるのだろうか?
『実は……万里に、一個お願いがあってね……』
神妙な声で言う瑞野さんに、私は体を強張らせながら「どっ、どうしたの?」と尋ねる。
『あのね、万里……』
私はごくりと固唾を飲んだ。
『今週末、合コンに参加して欲しいの!』
「ご連絡中の電話は電波の届かない所に行きましたので通話を終了致しますー!」
『待ってー!! 待って待ってお願いー!!』
マジで通話を終了させようとしていた私に、瑞野さんの必死な声が届く。
「瑞野さん、私がそういうの苦手なの知ってるでしょ? 大体、瑞野さん。彼氏居るじゃん!」
彼女の必死さに免じて、通話を切るのは思い止まるが。私は反論をぶつける。
『ちょっと面倒な事情があってさ……ちなみに彼にはちゃんとその辺の話しして、許可貰ったから大丈夫!』
「大丈夫なのかな? 合コンって、恋人探しの場所じゃないの?」
『その……私は今回、引き立てに使われる予定で無理矢理参加させられることになって……』
「瑞野さんの美貌でそれは無理だろ」
『あっ、えっと……なんか、ありがとう……』
私の一言で、瑞野さんは照れた様子の声を出す。
「それにしても、どういう事情でそんな面倒な事に巻き込まれたの?」
『それがさ! ホント、聞いてよ!!』
瑞野さん曰く、彼女は今。少々厄介な女子に目を付けられてしまっているのだという。
瑞野さんは私とは違う大学に進学したのだが、そこで彼女は入学早々から明るい性格と華やかな見た目で数名の男子からアプローチ及びお誘いを受けていたのだそうだが。それを良く思わない同学年の女子がいたらしく、頻繁に嫌がらせをされているという。
「大丈夫なの!? 嫌がらせって……」
『ああ、大丈夫大丈夫! 中学の時も、高校の時もあったことだから。全然気にしてないよ!』
ヘラっとした様子で言うが、そんなの心配しないなんて無理だよ……。
『まあ、それで。嫌がらせの一環で、半ば無理矢理合コン参加させられる羽目になっちゃったんだよね……相手の男子グループに、私が来るって写真とか送っちゃったらしくて』
「最低だな、オイ!」
『彼氏居るって言ってるのに、聞く耳も持ってくれないし。けど、まあ。その場だけ、テキトーに流して終わらせて退散しちゃえば良いや! って思ってね』
「まあ、話は大体分かったけど……それで、なんで私も行くことになるわけ?」
『そりゃあ、だって……』
見えない電話の向こうで、瑞野さんが小さく笑い声を漏らし。彼女の口角が吊り上るのを容易に感じ取った。
『気にしてないけど、ムカついてないとは言ってないから』
笑いながらも、怒りをあらわにする瑞野さんに私は言葉を失ってしまう。
『なので、万里にはちょーっと。ご協力をお願い致しますね!』
続けられた瑞野さんの台詞に、私は返答を出せずにいたが。これは絶対断れない……ということだけは。旭君の時と同じく、絶望と共に確信を持つのであった。
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