第25話 外伝~友人Aは空気を読む⑤~
オレンジ色の夕日が差し込み始めた大学廊下のベンチにて、日向葵は自分と真壁との出会いを旭陽太へと話し終える。
「……日向にとって、真壁は。特別な存在なんだな」
旭が静かに、日向へと言葉を紡ぐ。
(陽太の奴、何言ったら良いのか分かんねーんだろうな……)
二人の様子、そして立ち去るタイミングを完全に逃してしまい。結局、話を全て聞いてしまっていた空井英樹は思った。
だが、それも無理はないだろう。好きな人の、初恋の話を聞かされたら。どう反応したら良いのか……。
「確かに、俺にとって真壁は特別だけど。でも、それは。やっぱ友達としてなんだよな」
「真壁と付き合いたいとか……そういうのは、ないのか?」
旭が訊ねる。
「マジで全然ねーんだよな~。つーか、付き合ったとしても。一緒にBL買いに行ったり、作品について語ったりするくらいで何も変わんねーだろうし」
それに……と、日向は続けて。
「友達だったら上手くいくことでも、恋人になったら上手くいかないことってあると思うしな……」
そう、少し寂しげに言った。
「日向……」
心配気に日向を覗き込む旭。
「そんな内容の少女漫画と、BL漫画があったんだ」
「……そう、なのか」
しかし、その心配は日向の言葉で霧散した。
聞いてしまっていた空井も、静かにガクッと崩れてしまった。
「日向は……その、真壁に恋人が出来たら。イヤとかじゃ、ないのか?」
不意に訊ねた旭の質問に、日向も。そして、空井も息を飲む。
「うーん……そうだな……」
逡巡してから、日向は。
「真壁のこと、任せられる奴だったら……まあ、良いかな」
と、告げる。
「なんか、それ……」
旭は少し間を置いてから。
「父親みたいだな」
と、言う。
「あっはっはっは! 確かに! 友達ってか、親みてーだな!」
日向は声を上げて笑い出す。
「あっ、旭。この話、誰にも内緒な?」
すると、日向は旭へと顔を向けながら。人差し指を口許に添える。
「真壁にはもちろんなんだけどさ……この話、旭以外には誰にも言ったことがないんだ」
日向の言葉を聞き、空井は。
(ごめん、ヒナちゃん!! 盗み聞きするつもりは無かったんだ……この話しは、陽太にも言わないで墓場まで持っていくから許してね!!)
心の中で、謝罪の言葉を述べる。
「大丈夫、誰にも……ヒデにも言わない」
日向にそう返す旭に。
(いや、そこは「誰にも言わないから大丈夫だ」で良いんだぞ、陽太……)
今度は、心の中で自身の名を上げた旭に突っ込む空井であった。
「サンキュ! あっ、俺も。旭の気持ち、真壁には黙っとくからさ!」
笑顔で礼を言う日向が続けた台詞に、告げられた旭。そして、隠れる空井は同時に疑問符を浮かべた。
「旭、真壁のこと好きだったんだろ? それで、真壁と距離が近い俺に怒った……みたいな?」
日向の言葉に、旭は硬直。
(いや!! 陽太が好きなのは真壁ちゃんじゃなくてヒナちゃんんんんん!!!! 陽太が嫉妬してたのは真壁ちゃんで、ヒナちゃんが原因んんんんん!!!!)
叫びたい衝動をなんとか抑えて、空井は再び心の中で声を荒げた。
「いや、ちがっ……俺は――」
「良いって! つーか、旭だったら俺。安心して真壁のこと託せるし!」
刹那、旭はピシッと固まる。
「俺に出来ることがあったら何でも言ってくれよな! 協力すっから!」
無邪気に笑顔で言う日向の言葉はとても残酷で。
(陽太……ドンマイ)
旭陽太の恋路が、とても険しく困難な道であることを感じ。空井は、旭に居た堪れない思いを抱くのであった。
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