第16話
季節はゆっくりと、けれど確実に移ろい始め。暑い夏が近づきつつあった。
「あー……もうすぐテストだ……」
暗い表情で項垂れながら、日向葵は重怠い声で言った。
「やめてくれ、私まで憂鬱になるだろーが」
高校の頃からテストというものは、私と日向にとって今も変わらぬ強敵であったのだ。
「まあ、諦めて勉強するしかないっしょ……」
「そう言って、真壁はギリギリまでBL読んでるんだろ?」
「ハッハッハ! 何を言う、日向君。君も同類ではないか!」
「それな!」
二人で笑い声を上げながら、大学内の廊下を歩く。
すると、曲がり角へと差し掛かり。そこから現れた人物に、注意力散漫になっていた日向が激突してしまう。
「って!!」
ぶつかり、倒れそうになった日向に。私は彼の名前を呼びながら、手を伸ばすが。日向の身体は、衝突した人物が伸ばした手に腕を掴まれ。そして、彼――旭陽太の方へと引き寄せられたのだった。
(ぬぅおおおおお!!!! 神イベ展開キタコレェェェェェ!!!! 間近鑑賞、マジ感謝感激雨アラレちゃん!!!!!!)
私は友人への心配を完全に忘れ去り、一人。棚ぼた幸運に身悶えてしまう。
「大丈夫か、日向?」
「ああ……悪ィ、旭」
心配そうに、自分の胸部に頭を埋める日向を覗き込む旭君と。彼へと顔を上げて返す日向。
「……けど、ぶつかったのが旭で良かったわ」
すると、日向が旭君から身体を離しながら。天真爛漫な笑顔で言った。
「あっ……やっ、うん……」
私は察していた。日向は、“知らない人”にぶつかるより。知人で友人である旭にぶつかって良かった……的なニュアンスで言ったのであろう、と。
けれど、あんな可愛らしい笑顔で。日向に好意のある旭君に言うのは、とても罪深い行為である。
(日向のヤツめ……実は、天然小悪魔要素があったとはな)
私は、向かい合い。無邪気な笑顔を向ける日向と、微かに照れた様子の旭君を眺めながら。完全に廊下の壁と同化するのであった。
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