第17話
私は今、思考する壁となっていた。それは、とてつもなく幸福な状況で。目の前には、眼福な光景が――
「おい、真壁」
はっ!!
「ん? 何だい、日向君」
眼前で繰り広げられていた日向と旭君の絡み――もとい、微笑ましい交流に。完全にトリップしていた私を日向が呼び戻した。
「お前が何だよ、ボーっとして……」
「ああ、うん。まあ、気にするな!」
「何だよ、それ……まあ、良いや。早く次の教室行こうぜ」
「あー……そうだね」
くっ……至福の時はもう終わりか。なんて儚く、あっという間なんだ。
私がそう思いながら、旭君の顔を盗み見ると。彼の表情は私に負けず劣らず、暗く沈んだ様子であった。
(旭君、日向と別れがたいんだな~)
偶然にも、好きな子と会えて……しかも、まさかの接触事故。気持ちが高まって、短時間しか一緒に居れないことが。更なる寂しさを募らせているに違いないっっっ!!
そう思いながらも、頭の片隅では「まあ、BL小説の知識なだけであって。旭君に対しての根拠は全くないんだけどね~」と
「あっ、ねえねえ旭君!」
私は突如、頭に浮かんだアイディアの勢いに任せて。擦れ違い、去って行こうとする旭君へと声を掛けた。
(ヤバい……この前、カフェ一緒に行った時でさえ全然話したことないのに。いきなり声掛けちゃった……)
そう気が付いた瞬間、一気に緊張が沸き上がってきたが。もう後には引けない。
「もし良かったらさ、日向の勉強見てあげてくれないかな? ほら、もうすぐテストあるからさ!」
よし! 何とか言えた!
「おい、真壁! いきなり何だよ!?」
私が胸を撫で下ろしていると、日向の驚愕の声が上がる。
「いや、だってさ、ほら! 日向、テスト不安だ~って言ってたから! 旭君、頭良いって聞いたし。折角だから見て貰ったら~」
会話の対象が日向になり、私は先程よりも気軽に言葉を述べることが出来た。
「いや、でも……んな事、いきなり言い出しても旭に迷惑だ――」
「良いよ」
すると、日向の声を遮って。旭君が私達に歩み寄りながら。
「俺で良かったら……そんで、日向が良ければ……だけど」
と、告げる。
「あ……その……」
旭君の言葉に、戸惑い。困惑した様子で逡巡し始める日向。
向かい合う二人の傍で、私は再び壁へと変貌していく。
「まあ、あの……旭が迷惑じゃ、なければ……」
視線を彷徨わせながら、日向はそう紡いだ。
よっしゃっ!! 新イベ発生成功ー!!
もう、これで私の今日の仕事は終わったな……帰ってお風呂入って、寝ても許されるくらいの働きをしただろう。
そう安堵した瞬間。
「おい、真壁……お前、何一人でニヨニヨ笑ってんだよ……」
完全に自分は壁と同化した居ないものであるとして、油断した際に言われた日向の言葉。私は流石に、恥ずかしさで本当に消えたくなったのであった……。
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