第15話 外伝~友人Aは空気を読む③~

本屋、カフェを経て。真壁の他に、自宅に帰宅した男が二人――旭陽太と空井英樹は、今。同じアパートの旭の部屋にて、夕飯を共にしていた。


「いや~! やっぱ、陽太の飯最っ高だわ!」


空井は旭との距離が縮まってから、ほぼ毎日。旭の家に上がり込んで、彼の料理をご馳走になっていたのだ。


「いつも悪いな、旭に作って貰ってばっかで」

「いや、別に……材料費折半だし、実家に居た頃は姉貴に毎日作らされてたから」

「ああ、おっかないっていう噂の姉ちゃん!」


カラっと笑いながら言った空井の言葉に、噂の出所である旭は微かに眉を動かした。


「まあ、俺も妹居るから少しは分かるよ!」


空井自身も、妹には精神的優位を万年奪われており。頭が上がらなかったのを良く覚えている。


「妹なら、可愛いんじゃないか?」

「可愛くないわけじゃねーけど、俺の前で可愛げはねーからさ」


空井の言葉に、旭は難しい表情をした。そういうものなのか……と。


「まあ、そんな話は良いじゃん! それよりもさ、今度ヒナちゃんをウチに招いて手料理振る舞う計画でも立てようぜ!」


刹那、旭の表情だけでなく。全身全霊、指先までの動きがピシッと硬直した。


「陽太ってさ、結構分かり易いよな……」


あんましゃべんねーのに……と呟いてから、空井は吹き出して笑い声を上げる。


「……近所迷惑」

「あー、悪ィ悪ィ!!」


収まらない笑い声を上げ続けながら、空井は旭に一応の謝罪を述べる。


「ほら! もうすぐ夏休みもあるんだし、ヒナちゃんとお泊り会! なんて最高じゃん?」

「いっ、いきなり泊りとか……ハードル高い、だろ……!!」


そう、顔を赤らめながら。歯切れ悪く告げる旭。

その言葉に、空井はいつもの楽天的な思考が止まり。元々、携えていた思慮深さが顔を出す。


(あー、まあ。泊りってことは、ヒナちゃんと旭が同じ屋根の下。同じ部屋で寝るワケだよな……)


無防備な姿の日向が、自身に好意を持つ旭の傍で……その瞬間、空井の脳内で日向が羊の姿に。そして、旭が狼の姿へと自動変換されてしまう。


「あー……えっと、うん……この件は、もう少し熟考するか!」


空井は旭の人柄を充分に信用している。彼は顔だけの男ではなく、不器用な性格だがとても優しく真っ直ぐな人物だと。

しかし、こと男の本能の部分においては。例え友人といえども、どんな本性を秘めているかは知らないし知らなくて良いし……と、空井は思った。


「……変な事をして、日向に嫌われたくない」


沈んだ表情で言う旭に、空井は少し呆れた笑みを浮かべた。


「俺はお前が。ヒナちゃんに、嫌われるようなヒドイことしでかすとは思えねーけどな?」


一抹の不安を感じはしたものの、空井は。旭が日向を傷付けるようなことを、実際に実行はしないだろうとも思っていた。

しかし、空井の言葉に旭は。


「……分からない」


と、告げる。


「日向が、真壁と一緒に居るのを見ると……どうしようも無く、胸が締め付けられるんだ」


旭から出た意外な言葉に、空井は驚きの声を出した。


「えっ、真壁ちゃん?!」


空井の言葉に、頷く旭。


「二人を見てると……何だか気持ちが焦って、日向を、その……連れ去りたくなるというか……」

「あー、いや……いやいや!! 今日の真壁ちゃんと日向の様子見てたら、二人がそういう関係でも感じでもないって旭にも分かっただろ?」


大体、空井が本日。真壁を交えて日向とカフェに行ったのは、そのことをきちんと確かめる目的があったのだ。

さり気なく、自身のキャラを最大限に生かして色々尋ねたり話してみて。真壁と日向に色恋の気配があるかどうか……空井はそれを、白と判断した。


「真壁ちゃんも、日向も。お互いのこ――」

「日向は」


空井の言葉を遮り、旭の重く鋭い声が響く。


「日向は、多分……」


そして、悲しい色を潜ませた瞳を伏せ気味にして。


「真壁のこと、好き……なんだと思う……」


そう、告げたのだった。

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