第8話
そんなこんなで、私と日向が話に花を咲かせているうちに。行き付けの本屋へと到着する。
「真壁、今日は何の新刊買うの?」
「異世界ケモ耳男子達のファンタジーラブロマンス最新巻」
「あれ、可愛エゲつなくて良かった。読んだら貸して」
「オッケー。じゃあ、日向が今日買う。主人公が幼馴染と生徒会長に狙われるドロついた三角関係の新刊、読んだら貸して」
「何で俺の目当て把握してんだよ」
言いながら、私達は行き慣れた漫画コーナー。その中でも、特殊で独特な雰囲気を醸し出す一角――BLコーナーへと直行した。
「あ、色々新連載の一巻発売されてるな……」
私と日向は、自分のお目当ての新刊を片手に。本棚に平置きされている新刊及び、オススメ注目作品へと視線を向ける。
「日向は多分、この作品が好きだと思う」
「えっ、真壁。もう読んだの?」
「ネット広告でオススメされてて、コミックサイトの無料立ち読みで読んだ。王太子が片想い相手の王国騎士を監禁するハード純愛ロマンスがなかなかに美味だった」
「くっ……そそるな、それ。てか、そのシュチュなら真壁も好きそうじゃん」
「私は買うにしても、もうちょっと続刊出てからにするかな。続き読んでみて、ストーリーの面白さが色褪せないかどうか……二、三巻目以降が実は一番の見極めの境目だからね」
「まあ、BLってだけでも。漫画小説作品沢山ありすぎて、全部買ってられないしな……」
「そういうこと。なので、今回はこちらにします」
私はオススメのポップが飾られた棚から、冊子を四冊取った。
「もうすぐアニメ放送予定の原作! 子供の頃に出逢った主人公に恋した御曹司が、数十年の年月を掛け策略を巡らせて。徐々に自分の手に落とさんとする緻密な物語構成のサイコラブストーリーがなかなかにハマる! 現在既刊、四巻です!」
「真壁、お願い! 読んだら貸して下さい!!」
「今日中に読むから、明日持っていくぜよ!」
などと熱い会話を繰り広げながら、私と日向はレジへと向かい会計を済ませ。店を後にしようとした時……。
「あれ? ヒナちゃんと真壁ちゃんじゃん!」
ヤッホー! と言いながら、旭君と良く一緒に居る友人A(いまだに名前を把握していない)がハイテンションで私達に手を振って来た。
「二人も本屋で買い物? 奇遇だね!」
彼の少し後ろには、旭君が控えている。
「よっ、旭!」
「ああ」
旭君に日向が声を掛け、旭君が短く返す。
「二人共、何買ったの?」
すると、友人Aが私に屈託の無い笑顔で尋ねてくる。
「漫画です」
私は淡泊に短く答えた。
「へぇー、何の――」
「漫画は漫画です」
強めの圧を掛けた言葉に、友人Aは怯んだらしく。
「ひ、ヒナちゃん。何の漫画――」
と、日向に尋ねるが。
「漫画、またの名をコミック」
無下にあしらわれるのであった。
「俺達のことより、二人は本屋に何買いに来たんだ?」
少し落ち込んだ様子を見せる友人Aを余所目に、日向が尋ねる。
「俺は、雑誌」
日向の質問に、旭君が答えた。
「好きなバンドのインタビュー記事が、今回掲載されるから」
「ああ! 旭が良く聴いてるロック系バンドな!」
日向の言葉に、旭君が「うん」と頷く。
「俺はね、お気に入りのメンズファッション雑誌買いに来たんだー! 夏のコーディネートの参考にしたくって!」
嬉々として言う友人A。
「へぇ……」
「そうなんだ……」
相槌を打ちながら、私と日向は何とも言えない気まずい思いを。苦笑いで必死に隠す。
(同学年、同年代なのに……本屋一軒で、こんなにも購入する品物が違うとは……)
これが、陰キャヲタと陽キャの相違か……と、私。そして多分、日向も少し切ない気持ちになるのであった。
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