第9話
「ココで会えたのも何かの縁だしさ、ちょっとそこの喫茶店でお茶でもしようよ!」
買う物も買った私と日向が本屋を後にしようとした時、友人Aがそう明るい笑顔で告げた。
「えっ、いや……」
正直、私は嫌だった……だって、別に旭君とも友人A君とも話す事無いし。帰って早く新刊読みたい。
「私は――」
言い掛けて、けれど私は言葉を止めた。
私はさっさと帰りたい、けれど日向はこの二人と仲が良いと認識している。なので、ここでの最善選択肢は「私は用事(新刊の拝読)があるから先に帰るよ! 三人で気にせず行って来て!」だ。
けれど、そのルート選択だと……カフェ in 旭×日向を拝むことが出来ないのだ!!
これは、究極な選択である。かといって、仲の良い友人達。しかも、男子三人の中に異物(私♀)が混入されるのはリスクが高い。
BLには、よっぽど身の程を弁えた良識的善人で無ければ女子キャラはお呼びでないのだから!!
「真壁ちゃんって、橋本先生の授業取ってたよね?」
「えっ、あ、うん……」
私がメチャクチャ悩んでいると、友人Aが声を掛けてくる。
「俺もその授業受けてるんだけど、今回の課題テーマがムズくって……旭、その授業取ってないし。お願い、真壁ちゃん相談に乗って!」
「えっ、あー……えっと……」
「空井、あんま真壁に詰め寄んないでくれ」
すると、日向が私を庇うように空井の前に立った。
えっ、要らない。このシュチュ私も誰も求めて無い。
「真壁、男子苦手なんだよ」
「えっ、そうなの? けど、ヒナちゃんとはしょっちゅう一緒にいるじゃん?」
「そ、それは……まあ、同高だったし……付き合い短くねーし――」
「私にとって日向は男子じゃなくて、性別“日向”なんで」
「真壁、お前な……」
何だよ、一番傷つかない言い方してやったんだぞ。感謝しろ。
「そうだったんだ、ごめんね真壁ちゃん」
友人Aは見た目のチャラさとは裏腹に、本当に申し訳なさそうな表情で私に謝った。
「あ、ううん……別に、大丈夫」
「じゃあさ、お詫びにドリンク奢らせてよ! 四人でちょっとダベろうぜ!」
そう明るく言った友人A――もとい、空井君にほぼ押し切られ。私と日向、空井君と買い物を終えた旭君は隣接していた喫茶店へ移動することと相成った。
「真壁ちゃん何頼むの?」
「いや、自分で買うから……」
「さっき迷惑掛けちゃったお詫びお詫び! 奢らせて!」
再び押し切られ、私は空井君と一緒に注文カウンターに立つ。
「じゃあ、トールソイダークモカフラペチーノライトシロップウィズチョコチップエクストラパウダーホイップ多めで」
私はいつも注文する、言いなれた内容を店員さんに伝える。
「真壁ちゃん……呪文使いだったんだね」
「?」
すると、メチャクチャ驚いた表情の空井君が私を凝視していた。
「えっ、普通じゃない?」
「いや――」
空井君が戸惑っていると、店員さんが「ご注文は以上で宜しかったですか?」と尋ねてきた。
「あっ、あと……あの……」
空井君は少しメニューを見回してから。
「この、期間限定ので……」
と、答え。その後も、サイズと持ち帰りの有無を訊かれては少し戸惑いながら答えていた。
……なんか、チャラ男のこの慣れてない感じ可愛面白いな。こんな受けは絶対推せる! いや、不器用系攻めというのも有り寄りの有りだな!
「空井君って、こういうお店慣れてるかと思ってた」
「こういうオシャレなお店?」
「うん」
注文した商品が来るのを待っている間、私は何気なく空井君に話し掛ける。
どうやら、さっきのアタフタした応対で、彼に対しての警戒心が一気にほぐれてしまったらしい。
「カッコ悪いトコ見せちゃったなぁー、皆には内緒にしてね?」
「そんな事を言う“皆”なんて居ないから安心しなよ」
私、陰キャ腐女子ヲタだから交友はかなり少ない方だし。
「それに、別にカッコ悪いなんて思わなかったし」
意外な姿ではあったけど、慣れてない様子ながらも。店員さんに対して、空井君はとても真摯に丁寧に受け答えをしていたのだ。その姿は、人間的に好感の持てる態度であった。
「あ……」
空井君は少し言葉を溢してから。
「ありがとう……」
と、私に言葉を送ってくれた。
お礼を言われるような事を言ったつもりも、したつもりも無いんだけどな……。
そんな事を考えていると、旭君と日向が私達の並ぶ列にやって来た。
「陽太、何注文したんだ?」
空井君が、旭君にいつもの笑顔で訊ねる。
「日向と同じやつ」
「おぉー! お揃い!」
片想いしてる子と同じ飲み物飲む……だと!?
それは、好きな子がどんな味が好きなのか知りたいということですねっ!! はい、ありがとうございますっっっ!!
「何て名前のやつ?」
「……」
旭君は少し黙り込んでから。
「呪文」
と、告げた。
旭君もこういうお店、慣れてないんだな……。
「旭、お前なぁ……」
呆れながら、旭君に自身が注文した内容を言う日向。そんな日向の告げた注文に、目を丸くして固まる旭君と空井君。
私はその様子を眺めながら、「尊い」とは別の感情を湧き上がらせながら。思わず顔を綻ばせてしまうのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます