第2話


友人である日向葵へ、学校の注目の的である旭陽太が恋をしていることを不可抗力で知ってしまったその日。

自宅へ帰宅後。ロマンティックなシーンを、喜びを噛み締め脳内でリプレイしながら入浴をしていた。


(あっ、そういえば。前にも、日向と旭君が話してたことがあったな……)


私は湯舟に浸かりながら、記憶を昨日より以前へ遡らせる。

それは春――まだ桜がピンクの花びらを風に踊らせる、新たな生活が始まったばかりの頃であった。


「――あっ、旭!」


桜の木が並ぶ大学敷地内の通路を、私と共に歩いていた日向が。「悪い! ちょっと待ってて」と、旭君の元へと駆けて行ったのだ。

旭陽太は入学した時から、男女問わず注目を集める人気者。そんな彼に、日向が何の用だろうか……そう考えてから、そういえばこの前。旭君に落とし物を拾って貰ったとか言ってたな。

それで、知り合いになったのか。

私は何となく気になって、二人へ距離を近づけ。傍にそびえ立つ、大きな桜の木の陰に身を潜めさせた。


「旭、この前はありがとな!」


日向が太陽のように輝く笑顔で、旭君に告げる。

彼は私よりは背が高いが、大学生男子にしては小柄で。しかも、童顔なのも手伝って実年齢よりもかなり幼く見える容姿であった。

本人はその事をかなりコンプレックスに感じているので、口調や言動はとても男っぽく粗暴な感じを努めているのを旧友である私は知っている。


「……別に。大したことは……」

「いやいや、アレを他の誰かに見られたあかつきには……俺の学校生活終わってた……」


あっ、日向のヤツ。自身のバイブル(BL本)落としたな……。


「そんなに大変なことなのか? あの本を……」

「大変に決まってるだろ!! 女子ならともかく、男子があんな本読んでたら……」


あー……日向を腐男子にしてしまったのは私だから、罪悪感あるな……。


「でも、好きなんだろ?」

「そりゃあ……そうだけど……」

「別に、誰かに言ったりしない。それに――」


すると、旭君は微かに目元を緩ませて。優しい声で。


「日向が好きな物を、否定したり嫌悪したりも」


そう告げていた。

旭君は、彼に興味を一切抱いていない私の目から見てもかなりのイケメンだ。遠目でもそう思うし、人込みの中にいてもパッと見つけられてしまう華やかさがある人なのだ。

けれど、彼は誰と一緒に居ても。いつも無表情で、顔に感情を出している場面を私は一切見た事が無かった。

そんな旭君が、日向に微笑んだのだ!


(なんだコレは……!? ソシャゲのガチャ、推しではないキャラの星5が引けた時と同じような妙な嬉しさが……!)


その時は、そんな風にしか思わなかったが。今、思い起こすと。もっと凄く、幸せで奇跡的瞬間を私は目撃していたのだろうな……と、私は思いながら。大分火照った身体を、肩まで湯舟に沈めるのであった。

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