第3話
大学一の有名人でモテ男・旭陽太による、我が友人・日向葵への片想い模様を二十四時間体制で見守りたい私ではあったが。現実は色々な事情でそういうワケにもいかず。今、私は憂鬱な気持ちしか向けることの出来ない授業の課題を片付けるため、大学内の図書室にて。参考文献を漁っていた。
日向とは違う選択授業の課題なので、一人寂しく対峙中だ。
あと参考になりそうな本は……と、私が本棚へと目を凝らしていると。
「――あっ、クソ! 届かない……」
少し控え目な声で悪態を吐く友人、日向の声が聞こえて来る。
彼は男子大学生の中でもかなり小柄な背丈なので、高い位置の物を取る際に。いつも苦労を強いられているのだ。
「どれ?」
すると、別の声も聞こえてくる。
低いトーンのイケボは、短い台詞でも一発で。旭君である事を察しさせた。
そういえば、日向も選択授業で厄介な課題を出されたって言ってたな。旭君と同じ授業だったんだ……と思いながら、私は自身の口元が緩むのを感じ取る。
「あの一番上の棚の真ん中の……」
日向の声を聞きながら、私は本棚の隙間から――敷き詰められた本達の上部にある、微かな空間から向かい側を少し見ることが叶ったのだ――息を殺して視線を覗かせた。
「この本か?」
「そう、それ!」
垣間見た二人の姿。日向は少しボリュームの大きな声を出してしまい、慌てて自身の口を押える。
そんな日向の様子に、旭君は微かな笑みを溢した。
「ありがとな、旭」
日向は小声で、旭君にお礼を告げてから。
「あぁ……マジ背が欲しい……」
と、誰にともなくボヤいた。
アイツ同じ台詞、高一の時からずっと言ってんな……。
「……れば」
すると、今度は旭君が物凄く小さい声で何かを呟く。
私と同じく聞き取れなかったらしい日向が、不思議そうな表情で旭君を見上げると。
「その……言ってくれれば……俺がいつでも取る、から……」
そう、ぎこちない様子で旭君は日向へ伝える。
「いや、でも。毎回、こんな事で旭に頼るのは悪いからさ。今度は諦めて、脚立に頼るよ!」
明るい顔で言う日向に対し、旭君の表情はその言葉を聞いて少し曇ったのを私は感じとった。
「脚立に頼るなら……俺に頼れよ」
「えっ? なんで? 悪いじゃん」
「何も悪くない」
「えっ!? でも、いつも旭が一緒なワケでも無いし……」
「電話して。直ぐ行くから」
「本取る為だけにっ!?」
そう小声で言葉を交わし合いながら、二人はその場を後にして行く。
私は遠ざかっていく声をギリギリまで、聴力に意識を集中させて聴き取りながら。
(尊い……!!)
と、心の中で叫び。ニヤけが止まらない顔を両手で覆うのであった。
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