ダイイングメッセージ
仙台駅と一ノ関駅の間にあるトンネルに差し掛かった頃、アルバートは突如眉根を寄せた。
「今、妙な音がしなかったか?」
「音? いや、トンネルの音ならするけどさ……」
弘貴がそう答えた直後、甲高い女性の悲鳴が周囲に響き渡る。
「何だよ、今の声……」
「隣の車両からだ」
アルバートが慌てて席を立つ。弘貴もその後を追った。他の乗客たちが動揺する中、現場へ向かった二人の前には、廊下で気絶している女性と、扉の向こうには胸から血を流した男性が倒れていた。床にはワイングラスの破片が散乱していた。男性の胸元には血で汚れた金色のハンカチが落ちている。
弘貴は瞠目した。
「コイツはさっきの! おい、しっかりしろ!」
弘貴が真壁の体を揺さぶろうとすると、アルバートはこれを制止する。
「従業員を呼ぼう。警察も。事件だ」
「俺、ダイニングカーから人を呼んでくる!」
血相を変えた弘貴は、ダイニングカーまで走って戻る。
「すみません、人が倒れているんです! すぐに来てください!」
アルバートはポケットから携帯電話を取り出し、警察に通報した。
「上野駅からカシオペアに乗った者です。ええ、日本語は少々」
ひと通り話し終えた彼は電話を切り、床に落ちたハンカチに目をやる。
「血だらけだ。ん?」
腰を落とし、注意深く足元を観察する。
「血文字のようだ。T、V、Zと、それに……
およそ十五分後、地元警察の刑事たちが到着した。車内は物々しい雰囲気となる。
「チッ、容疑者は乗客と従業員全員か。もう少ししぼれないのか?」
苛立たし気に話す刑事の声で、先程まで気絶していた女性が目をあけた。
「ワインを注文されたので、『ルームサービスはスイートルームのお客様が対象です』とお伝えしたのですが、かなりご立腹の様子で」
「持って来たのか?」
女性は頷いた。
「はい、おかわりのご注文も受けましたので、お持ちしたのですが、ノックをしても応答がなくて。扉を開けたら……」
「そうしたら、この男が倒れていたわけだな」
刑事が遺体を指さすと、女性は今にも卒倒しそうな勢いで廊下の壁に寄り掛かった。
「で、被害者と、アンタの名前は?」
「真壁様です。私は、
「被害者が真壁。夏木美里、カシオペアの従業員。第一発見者、と」
刑事はメモに書き出した後、隣の部屋のドアをノックする。
「警察だ、ドアを開けろ」
「なんすか? この時間に」
あくびをしながらドアを開ける男性。
刑事は訝しげな表情を浮かべ、男性に尋ねる。
「物音に気付かなかったのか?」
「物音? いえ、寝ていましたし。久々にぐっすり眠れましたよ。このところ、仕事に追われて、ろくに眠れていなかったもので」
「チッ、お前の話はいい。名前は?」
「
「隣室の男が亡くなっていた」
「隣室って、店長が⁉」
驚いた天池が隣室へ立ち入ろうとすると、刑事が制止した。
「やめろ。現場検証の邪魔だ。店長ってことは、アンタはコイツの部下か」
「はい、都内で宝石店を営んでいるオーナーの真壁です。ですが、何だって店長が……」
「宝石店だと? この部屋、二人用だな。同室の者は?」
「ああ、
「十二号車ですね。行ってくるわ」
同行していた女性の刑事がラウンジカーへと向かう。
「ああ、頼む。で、その上は? 二階建てなのか、この列車。おい、警察だ!」
「は、はい! ……何か?」
気弱そうに小さくドアを開ける男性に対し、刑事は自身の警察手帳を見せる。
「刑事さん! さっき、外で大きな音がして……」
「ってことは、聞いていたんだな。銃声を」
「はい、何かが爆発したような音が聞こえて、怖くてベッドの上で震えていたんです」
「アンタ、名前と職業は?」
「
「バーテンダーか。部屋の中を改めさせてくれ」
四号車にいた乗客を中心にひと通り聞き取りを終えた刑事は、被害者と事件当時アリバイのない乗客たちの名をメモに書き出した。
被害者。宝石店店長。翌日の昼に札幌で開催されるオークションに出展するため乗車
第一発見者及び事件の目撃者。従業員
被害者の部下。部屋で寝ていた
被害者の部下。天池と同室だが、ラウンジカーにいた
バーテンダー。銃声に怖気付き、部屋から出られないでいた
大学生。剣道大会の帰り。竹刀を所持
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