予期せぬ当たり

 二〇一二年七月、東京都港区にある商店街。

 水越みずこし弘貴ひろきは、一枚の応募券を手に抽選会場へ足を運んでいた。大学の帰りに立ち寄った喫茶店で、「夏の大抽選会」と題された応募券を手渡されたのだ。

 平日の夕方ということもあり、弘貴の他にも応募券を持った老若男女が列を作り、順番を待っていた。ガラポンの音が次々に鳴り、「参加賞のポケットティッシュです」の言葉が機械的に発せられる。

 本当にこの中に当たりはあるのだろうか、と言わんばかりに不安そうな目でガラポンを見つめる人もいれば、カップルや家族連れでおしゃべりをしている人の姿もあった。賞品は特賞の他、商品券や買い物券などそれなりに豪華なものであったが、そんな中で弘貴は、「ポケットティッシュでもいいから、もらえる物はもらっておくか」と、軽い気持ちで並んでいた。


「次の方どうぞ」


 とうとう自分の番になり、ガラポンを勢いよくぐるりと回す。

 カラカラ……。

 玉が出た瞬間、それまで機械的に発せられていたスタッフの声が裏返る。


「お、おめでとうございます!」


 弘貴は一瞬何が起きたか分からなかった。ただ、目の前に落ちた玉の色が、ポケットティッシュの時に落ちていた色――白とは違うということだけは理解していた。落ちていたのは、金色。


「特賞出ました! チケットの引換券をお渡しします。乗車の際は、事前に駅で本券とお引換ください」

「特賞? チケット? 乗車?」


 弘貴は混乱したが、抽選会場に置かれた看板に目を向け、読み上げた。


「寝台特急カシオペアの旅、ペアご招待」


 直後、スタッフは思い出したようにベルを鳴らし始めた。

 ベルの音が鳴り響く中、チケットを受け取った弘貴。周囲の視線が彼へと集まる。それを感じ取るや否や、彼は逃げるようにその場から離れた。駅の近くにあるトイレへと駆け込み、嘆息した。


「ペアって……誰と行けばいいんだよ」

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