アルバート・マイヤーの回顧録

櫻井 理人

上野発カシオペア殺人事件

時効

 深夜二時。公園の近くに停車している一台の自動車。車内ではウインカーの音とラジオの音が響いていた。スーツを着た二人の男女が、窓の外を見つめている。


「いたな」


 男の声に、女も頷く。


「案外、今日のヤマはあっさり片付きそうだ。七年前の詐欺と違って」

「七年前の詐欺事件っていうと、ブルー・ダイヤの?」

「ああ。時効になるのが来月。しかも、その日に札幌で宝石のオークションが開かれることになった。意外とひょっこり現れたりしてな」

「まさか。危険を冒してまで現れるような輩とは思えないけど」

「そのまさかかもしれねぇぞ。中にはスリリングな追いかけっこを望む野郎どももいるからな」


 男はそう言ってから、息を殺した。

 女はラジオの電源を切り、男の合図を待つ。


「いくぞ」


 低く響く男の声とともに、車のドアが開け放たれた。

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