16.旭くん初めてのバーベキュー

 私がバーベキューが大好きなので、パパはこの物件がベランダでバーベキューをしてもいいという規約になっていることを喜んでいた。

 それでも、旭くんが小さかったので一年以上はバーベキューをしていなかった。


「暁ちゃん、今度の日曜日にバーベキューをしようか?」

「香織ちゃんと千草ちゃんも呼んでいい?」

「香織ちゃんのお母さんと沙織ちゃんと、千草ちゃんのご両親と千歳くんも呼ぼうか」


 夜の眠る前の時間、ノンカフェインのフルーツティーを飲みながら提案されたことに、私はワクワクしていた。


「旭くんもバーベキューで焼いたものを食べられるようになったからね」


 十一月のバーベキューはちょっと肌寒いかもしれないが、私はとても楽しみにしていた。


 バーベキューの当日には、千草ちゃんと千草ちゃんのパパとママと千歳くんがやって来た。千歳くんはまだ首が据わりそうなくらいで、縦抱っこが好きなようで、抱っこされてきょろきょろと周囲を見ていた。

 香織ちゃんと香織ちゃんのママと沙織ちゃんも来た。


「さおたん、にく、じゅうじゅう」

「目の前で焼いたお肉を食べられるって聞いて、沙織ちゃん、すごく楽しみにして来たのよね。今日はよろしくお願いします」

「おねちまつ」


 ぺこりと頭を下げる沙織ちゃんに、パパがベランダでトングをカチカチと鳴らしていた。


 牛肉、豚肉、鶏肉に、烏賊も焼いて、海老も焼く。

 焼けた熱々のお肉や魚介を頬張って、私は旭くんのためには吹き冷ましてあげていた。


「ねぇね、あちっ! ふー」

「ふーふーしたよ」

「んまっ! ねぇね、んまっ!」


 美味しいと訴えて来る旭くんについついお肉や魚介を取ってあげてしまう。

 海老の殻を剥いている間も、旭くんは涎を垂らしていた。


 お肉や魚介が焼かれた後には、我が家ではおにぎりが焼かれる。

 味噌とみりんとバターで味付けしたおにぎりを網の上で焼いていると、香ばしい香りが漂ってくる。お腹がいっぱいで倒れていた旭くんも起き上がって、網の方をじっと見ている。


 千歳くんはベビーベッドに寝かされていたので、千草ちゃんも千草ちゃんのパパとママもたっぷり食べられていた。

 千草ちゃんはそんなに食べないので、途中から千歳くんを抱っこしていた。


 香織ちゃんは沙織ちゃんがバーベキューの火に近付き過ぎないように気を付けながら、沙織ちゃんにお肉や魚介を渡していた。

 香織ちゃんのママも香織ちゃんも沙織ちゃんもたっぷり食べたようだ。


 みんなのお腹がいっぱいになる頃に焼けてくる香ばしい焼きおにぎり。

 誘惑に負けて沙織ちゃんが香織ちゃんに言っている。


「ねぇね、さおたん、あれ、ほちい!」

「沙織ちゃんは食べ過ぎよ」

「ほちいの!」

「それじゃ、ねぇねと半分こにしましょ」

「あい。はんぶん」


 香織ちゃんはパパから焼きおにぎりをもらって半分に割って沙織ちゃんと食べている。


「一個はちょっと多いのよね」

「千草ちゃん、半分にする? 食べれる分だけ食べて、僕に渡してくれればいいよ」

「パパ、ありがとう!」


 千草ちゃんは千草ちゃんのパパと半分ずつにすることになったようだ。


「旭くん、多いから私と半分にしない?」

「やー!」

「旭くんのお腹、ぱちんって破けちゃうかも」

「やー! ねぇね、やー!」


 旭くんはあくまでも一個食べると言って聞かない。

 困った私がママの方を見ると、ママは笑っていた。


「旭くんは私と食べるから、暁ちゃんは自分の分を食べていいわよ」

「ありがとう、ママ」


 ようやく自分の分を取りに行けて、私はカリカリに焼けているおにぎりをお皿に乗せてもらった。

 熱々の焼きおにぎりをハフハフ言いながら食べていると、旭くんは途中から崩して遊んでいた。

 お腹がいっぱいになると食べ物で遊んでしまうのも仕方がないのだろう。まだ旭くんは一歳なのだ。


 食べ終わった私たちはお皿を片付けて、火の処理をしているパパにお礼を言いに行った。


「今日はバーベキューをしてくれてありがとう、パパ」

「とても美味しかったです。ありがとうございます」

「沙織ちゃんまでありがとうございます」


 お礼を言う千草ちゃんと香織ちゃんがちらりと見ると、お腹がいっぱいになりすぎて、旭くんと沙織ちゃんはソファで二人で倒れていた。

 旭くんのセントバーナードさんも、沙織ちゃんのフレミッシュジャイアントさんも、お腹がいっぱいでひっくり返っていた。


 私の子犬さんを見ると、気持ちよさそうにひっくり返っている。子犬さんもお腹がいっぱいになったのだろう。


 私が食べると子犬さんも満たされる。

 子犬さんが頑張ると私のお腹が空く。


 私と子犬さんは連動しているようだった。


 バーベキューの後は大人たちはリビングでお茶を飲んでいて、旭くんと沙織ちゃんはリビングで遊んでいて、千歳くんはベビーベッドに寝かされていた。

 私と千草ちゃんと香織ちゃんは私の部屋に行く。

 最近しっかりと千草ちゃんと香織ちゃんと話せていなかったので、私は二人に話したいことがあった。


「夢で守護獣さんたちとお話しする方法を教えてもらったのよ」

「夢の中でお話しできるの?」

「タロットカードは使わないの?」


 千草ちゃんと香織ちゃんの疑問に、私は答える。


「タロットカードを枕元に置いて寝るの。そしたら、夢の中に守護獣さんが出て来てくれるのよ」


 お祖母ちゃんが教えてくれた方法。

 千草ちゃんと香織ちゃんには何も隠すことはなかった。


「夢の中にはどの守護獣さんが来たの?」

「私の子犬さん、千草ちゃんの鶏さん、香織ちゃんの兎さん、旭くんのセントバーナードさん、千歳くんの駝鳥さん、沙織ちゃんのフレミッシュジャイアントさん、私のパパのパンダさん、私のママのパピヨンさんが来たわ」

「ものすごく多いのね」


 千草ちゃんの問いかけに答えると、香織ちゃんが驚いている。

 私も一度にあんなにたくさんの守護獣さんと話したのは初めてかもしれない。


「香織ちゃんのお別れしたパパのこととか色々聞いたけど、この方法は頻繁には使っちゃいけないって言われてたの」

「私の別れたパパのこと? どうだった?」

「破滅しても仕方がないって言われてたわ」

「そりゃそうね。自業自得だわ」


 別れたパパに関しては香織ちゃんはとてもドライだった。


「頻繁に使えないってどういうこと?」

「起きてから気付いたんだけど、一睡もしなかったような感じだった。疲れが全く取れてないの。朝ご飯が喉を通らないくらいだったのよ」

「暁ちゃんがご飯が喉を通らない!?」


 私が説明すると千草ちゃんがものすごく驚いている。いつもお腹を空かせている私がご飯が喉を通らないというのがイメージできなかったのだろう。


「それは大変な方法だったのね。軽々しくできないわね」

「私もものすごく重要なことがなければしないようにしようと思ったわ」


 深刻な顔になっている千草ちゃんに、私も重々しく頷く。


「それでもタロットカードで足りないときに守護獣さんと話す方法を知ることができてよかったと思っているのよ。重大なことが起きたら、私は守護獣さんたちと話し合える」

「無理はしないでね」

「暁ちゃんの体が一番大事だからね」


 千草ちゃんも香織ちゃんも心配してくれるが、私は私の家族や千草ちゃんや千草ちゃんの家族、香織ちゃんや香織ちゃんの家族など、大事なひとに何か起きたときにはこの方法を躊躇わず使おうと思っていた。

 それが私にできることだ。


「ところで、私の兎さんはどうしてる?」

「お腹がいっぱいで、横になって寝てるわ」

「やだ、食べ過ぎたのがバレちゃう」

「安心して、香織ちゃん。私の子犬さんも、旭くんのセントバーナードさんも、沙織ちゃんのフレミッシュジャイアントさんも同じだから」


 みんなお腹がいっぱいになりすぎて床に落ちているように倒れている光景を伝えると、香織ちゃんは笑い出した。


「見える世界って大変そうだけど、楽しそう」

「大変なこともあるけど、楽しいこともあるわ」


 特に、千草ちゃんや香織ちゃんのような理解者に恵まれた私は幸せだ。

 幸せを噛み締めつつ、私はいっぱいになったお腹を撫でた。

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