14.守護獣さんとじっくり話し合うために

 タロットカードで意思疎通はできるのだが、守護獣さんたちと私は細かなコミュニケーションが取れない。

 タロットカードでは聞くことは一つだけと決まっているし、微妙なニュアンスのことは聞くことが難しい。

 私はもっと守護獣さんたちと話し合いたいのに、タロットカードでは限界を感じていた。


 香織ちゃんの別れたパパのこともそうだ。

 もっと詳しく知りたかったけれど、私にはあれ以上の占いができない。

 スプレッドを変えて聞いてもいいのだが、結局、答えは同じになってしまう。


 黒い影に覆われそうになっていた香織ちゃんの別れたパパがどうなるのか、守護獣さんたちは分かっているのだろうか。


 どうしても気になった私は、お祖母ちゃんに電話で相談していた。


「守護獣さんたちともっとしっかりお話ししたいんだけど、どうすればいいかな?」


 私の問いかけにお祖母ちゃんは少し悩んでいるようだった。答えを知っているけれども口に出すのを躊躇っているような気配がある。


『方法がないわけじゃないけど、頻繁には使えないよ?』

「どうして?」

『守護獣はあたしたちとは違う世界に住んでいる。頻繁にやり取りをすると、そっちの世界に傾倒してしまうからね。程々の距離を保って接した方がいいのさ』


 守護獣さんたちの世界に傾倒するのはよくないとお祖母ちゃんは言っている。


「一回だけなら?」

『どうしても必要なときだけなら、その方法を使ってもいいかもしれないね』


 お祖母ちゃんが教えてくれたのは、夜眠るときにタロットカードを枕元に置いておくという方法だった。ポーチに入れたまま枕元に置いておけば、夜に夢の中に守護獣さんたちが来てくれるらしい。


 私は早速その夜にその方法を試してみることにした。

 枕元にタロットカードの入ったポーチを置くと、布団を被って目を閉じる。

 目を閉じると自分の心臓の音が聞こえて、リビングで旭くんが泣く声が聞こえて、なかなか眠りにつけない。

 守護獣さんと話すのだと身構えていたのがいけなかったようだ。


 なかなか寝付けなかったが、しばらくすると私は眠りの中にいた。

 眠っている私の周りに守護獣さんたちが来ているのが分かる。


 私の子犬さん、旭くんのセントバーナードさん、ママのパピヨンさん、パパのパンダさん、千草ちゃんの鶏さん、千歳くんの駝鳥さん、香織ちゃんの兎さん、沙織ちゃんのフレミッシュジャイアントさん……。


 目を瞑っていても私はその存在が感じ取れた。


「香織ちゃんの別れたパパは、これからどうなるの?」


 その問いかけには、香織ちゃんの兎さんが答える。


『向こうの家族からも捨てられて、仕事も失って、次の相手を探すでしょうね。ヒモになるんじゃないですか』


 素っ気ない物言いに兎さんが香織ちゃんの別れたパパを許していないことが分かる。


「旭くんのセントバーナードさんや、千歳くんの駝鳥さんはどこから来たの?」


『僕が自分の眷属を呼んで来たんだよ』

『私が厳選された眷属を呼びました』


 答えるのは私の子犬さんと千草ちゃんの鶏さん。


「沙織ちゃんのフレミッシュジャイアントさんは?」

『私が呼びました』


 誇らしげな香織ちゃんの兎さん。三匹に私はずっと持ち続けていた疑問を投げかけてみた。


「どうして、みんな大きいの?」

『大きい方が強そうじゃない?』

『その方が守ってくれそうだと思って』

『小さい子は守られなければいけませんから』


 三匹とも、大きい方が強そうで守ってくれそうだという答えをくれる。


「それなら、なんでセントバーナードさんも駝鳥さんも、子どもなの?」


 セントバーナードさんは大きいけれど子犬だし、駝鳥さんも大きいけれどまだ雛だ。その点について聞いてみると、私の子犬さんと千草ちゃんの鶏さんから答えが来た。


『小さい頃から一緒の方が、魂の絆が築かれるでしょう』

『主人が幼いと、どうしても守護獣も幼くなってしまうのです』


 小さい頃から一緒の方が絆ができるという私の子犬さんと、主人が小さいと守護獣も幼くなってしまうという千草ちゃんの鶏さんの意見は若干違っていた。

 どちらが合っているとかはなくて、どちらも正解なのだろう。


「香織ちゃんの別れたパパに憑いていた黒い影は、どうなると思う?」


 私の問いかけにパパのパンダさんが答える。


『あれは自業自得だね。自分で悪いものを呼び込んでしまった。破滅していったとしても、仕方がないだろう』

「それなら、香織ちゃんと沙織ちゃんの養育費はどうなるの?」

『それは絶対に払わせる。銀行口座を止めてでも』


 パパのパンダさんの力強い声に私は安心する。

 これだけ守護獣が集まっていると、守護獣同士でも会話が生まれていた。


『どうちて、たつけてくれないの?』


 旭くんのセントバーナードさんが子犬さんに詰め寄っている。子犬さんの方が体が小さいので、詰め寄られて小さくなっている。


『これも愛。強くなるための修行だからね』

『おてて、ぎゅっ、おちっぽ、ひっぱられる。いちゃいいちゃい!』

『それに耐えてこそ、立派なセントバーナードになれるんだよ』


 旭くんのセントバーナードさんはまだまだ子どものようで旭くんに掴まれたり、舐められたりするのに困っているようだった。それを子犬さんは助ける気がない。


『近寄ると、僕も被害に遭うし』

『ひどいの!』


 旭くんのセントバーナードさんが涙目になっているのに、私の子犬さんはそっと逃げ出していた。


『千歳くんは命に代えても守るのです』

『あい!』

『いざとなったら、根性で触れられるようにするのですよ』

『あい! ふれられるよーにすゆ!』


 千歳くんの駝鳥さんは、千草ちゃんの鶏さんに守護獣の心得を説かれていた。

 一生懸命聞いている千歳くんの駝鳥さんは、まだ羽も生え揃っていない雛だ。


「セントバーナードさんや駝鳥さんみたいに、子どもでもちゃんと守れるの?」

『わたち、つつく! かげ、ないない!』

『じょぶ!』


 千歳くんの駝鳥さんも、旭くんのセントバーナードさんもしっかりと千歳くんと旭くんを守っているようだった。


 目が覚めるまで、私は守護獣さんたちの話を聞いていた。


 目が覚めてから、私はお祖母ちゃんが頻繁にしてはいけないと言った意味を理解した。

 全く寝た気がしないのだ。

 夢の中で夜中話していたので、私は全然寝た気がしなくて寝不足だった。

 ベッドから起き上がるのが億劫でならない。


 よろよろとベッドから起き上がって、私は納得した。


「どうしても必要なとき以外はこの方法は使わないようにしよう」


 朝ご飯も眠くてなかなかお腹に入らない。

 私があまり食べていないのを見て、ママがすごく心配してくれていた。


「暁ちゃん、どこか悪いなら教えて。お腹が痛いの? 頭は痛くない? 喉は? 病院に行きましょうか?」

「大丈夫……ちょっと眠れなかっただけ」

「眠れないようなことが……あったものね」


 ママは私の顔に手を伸ばして、前髪を掻き上げるようにしておでこを撫でた。

 香織ちゃんの別れたパパの件は私にとってはショックだったのだろうと、ママにも伝わっている。


 私は香織ちゃんの別れたパパの周囲に黒い影を見たから気にかけていたが、ママには私が大人同士が揉める姿を見てショックを受けているように見えたようだ。


「眠れないときには、私のところに来てもいいのよ。旭くんの泣き声でますます眠れないかもしれないけど」

「ありがとう、ママ。旭くん、そんなに泣くの?」

「お腹が空いているみたいなの」


 もうすぐ一歳になる旭くんは、離乳も完了する時期で、ご飯だけでお腹を満たしたいけれど、胃が小さいのでお腹がすぐに空いてしまって、泣きながら夜に起きることが多いのだという。


「夜中におっぱいは飲ませているけど、おっぱいじゃ足りないみたいなのよね」


 おっぱいよりも食事を求める旭くんに、真夜中に離乳食を食べさせる習慣を付けさせるわけにもいかなくて、ママは困っているようだった。


「私と同じ食いしん坊さん」


 呟いてから、私は気付く。

 私は占いをした後や、子犬さんが活躍した後などにものすごくお腹が空く。

 旭くんは見えて、触れるくらいなのだから、そちらにエネルギーを使っているのかもしれない。


「旭くんも早く一度にたくさん食べられるようになったらいいのにね」

「そうね。そうなったら、おっぱいは卒業でしょうけどね」


 少し寂しそうにママが言う。

 おっぱいをあげるということは母親にとっては嬉しいことなのかもしれない。


 旭くんももうすぐ一歳。

 旭くんのお誕生日も迫っていた。

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