19.卯崎さんとの交流
私がタロットカードで占いたかったのは、旭くんとセントバーナードさんのことだった。
早く寝たので早く目が覚めた私は、朝ご飯をパパと一緒に食べた。ママは夜中におっぱいをあげていたようで眠っていた。
旭くんはご機嫌でおもちゃを舐めて遊んでいる。
旭くんはそろそろ離乳食の始まる時期になる。その頃にはパパも育児休暇が終わりかけているだろう。
離乳食を始める目安としては五か月くらいからだが、首がしっかりしてお座りができる、大人の食事などを見て食べ物に興味を示す、スプーンなどを口に入れても舌で押し出すことが少ない、などの要素が揃えば、離乳食を始めてもいいと言われている。
離乳食の初期はペースト状でどろどろのお粥から始めて、そのうちにペースト状にした野菜も食べさせる。
「旭くんの離乳食はいつ頃始めるの?」
「そろそろかなぁ。お粥から始めないとね。一日一回かな」
朝ご飯を食べながらパパは教えてくれた。
「最初はどろどろで、七か月から八か月くらいになると歯が生え始めるから、豆腐くらいの硬さをもぐもぐ噛ませるんだよ。一日二回になるね」
「その次は?」
「バナナ程度の硬さを一日三回になるね。スティック状のものを持たせて食べさせることもできるようになるね」
「その次は?」
「一日三回とおやつで、ハンバーグくらいの硬さは食べられるようになる。一歳を過ぎたら僕たちと同じようなものが食べられるね」
そうなったらどれだけ楽しいだろう。
旭くんと同じものを食べられる毎日を考えると、それだけで期待してしまう。
パパに抱っこされている旭くんは、パパが食べ物を口に運ぶたびに、口を開けて物欲しそうにしている。
旭くんも私と同じで食欲がある方なのかもしれない。
パパがピザパンを食べると、旭くんの口から涎がたらりと垂れる。
「パパ、旭くんも食べたそう」
「まだ早いよ。食いしん坊さんになりそうだね」
「私と似てるのかもしれないわ」
旭くんは私の弟なのだから私と似ていてもおかしくはない。
中学校に行くまでに時間があったので、私は机についてタロットクロスを広げてタロットカードを丁寧に混ぜる。
タロットカードを三枚出して、スリーカードというスプレッドで見ることにした。
私のことと旭くんのこと、どちらも占いたかったけれど、まずは旭くんのことを占う。
一枚目の過去のカードはソードの四の逆位置。
意味は、回復。
逆位置だと休息を終えて動き出すという意味がある。
『これまではいっぱい寝て育っていたけれど、ちょっとずつ動き出して、成長していく時期になるね』
子犬さんが私に教えてくれる。
旭くんは首も据わって、お座りも少しずつできるようになってきた。
私が抱っこして、お風呂に入れることもできるようになった。
お風呂に入ると旭くんはご機嫌できゃっきゃと笑っている。
旭くんはお風呂が大好きなのだ。
二枚目のカードを捲ると、ソードのエースが正位置で出た。
意味は、開拓。
新しいことに挑戦するという意味がある。
『セントバーナードも来ているし、これからは色んなことに旭くんは挑戦していくよ。僕たちのことが見えているようだしね』
子犬さんの言葉に私は思う。
やはり旭くんは子犬さんやセントバーナードさんが見えていた。
私の考えている通りだった。
三枚目のカードを捲ると、ペンタクルの十の正位置が出た。
意味は、継承。
受け継いだもので、繁栄するという意味がある。
『暁ちゃんのお祖母様から受け継いだ能力に、これから周囲から与えられる愛情と、僕が呼んだセントバーナードさんに守られて、旭くんはこれから健やかに成長していくよ』
子犬さんに太鼓判を押されて、私は安心した。
旭くんが見えているのではないかという疑問は知ることができた。
続けて自分を占う。
スリーカードで私は占うことにした。
春のミュージカル公演についてだ。
一枚目のカードはペンタクルの七の正位置。
意味は、成長。
やっていることの見直しが必要だという意味もある。
『暁ちゃんは今の演技に納得していないね。暁ちゃんは、もっといい演技をしたいと思っている。歌の音が低く出ないのを気にしているでしょう』
子犬さんに言われて、私は図星を突かれた気になった。
私は低い音が上手く出ないことがずっと気になっていたのだ。
ぎりぎり音は出るのだが、美しい音色にならないのだ。
次のカードを捲ると、ソードの七の逆位置だ。
意味は、裏切り。
逆位置になると、万全の備えが功を奏してうまくいくという意味合いがある。
『難しいところはあるかもしれないけれど、ちゃんと備えているところだね。この備えがとても大事。今は準備の時期だね』
練習をして準備をするのが子犬さんは大事と伝えている。
最後のカードはカップのクィーンだった。
意味は、寛容。
自分の芯を持ちながら、周囲と調和を保てるという意味がある。
『ちゃんと準備をしていたら、周囲といい関係が築ける。暁ちゃんはもう気付いているだろう?』
気付いている。
私は卯崎さんと仲良くなりたいと思っている。
卯崎さんが私に声をかけてくれた日から、卯崎さんと仲良くなって、千草ちゃんと同じように三人で歌劇団の付属学校への入学を一緒に目指したいと思っているのだ。
「卯崎さんに、声をかけてみよう」
卯崎さんは今回のロミオとジュリエットのティボルト役でもすごくいい演技をしている。
私は卯崎さんに声をかけてみることを考えていた。
中学校が終わると歌とダンスの教室で練習がある。
休憩時間には、私は千草ちゃんに声をかけてみた。
「私、卯崎さんと仲良くなれるんじゃないかと思っているんだ」
「卯崎さんと?」
「このミュージカルの公演が終わる頃には、卯崎さんとも仲良くなれるって、タロットカードで子犬さんが言っていたんだよ」
私の言葉に千草ちゃんは頷いている。
「私はいいと思うわ。卯崎さん、私と仲良くなれるかな?」
「きっと千草ちゃんとも仲良くなれるわよ」
千草ちゃんに私は頷いた。
休憩時間が終わる前に、私は卯崎さんに声をかけた。
「卯崎さん、一緒に練習しない?」
「休憩時間には、一緒にお弁当を食べない?」
私も千草ちゃんも普段の練習の日の休憩時間にはおにぎりを持ってきて食べている。
土曜日の長い時間の練習にはお昼ご飯のお弁当を、私はいつも千草ちゃんと一緒に食べていた。
「私も一緒でいいんですか?」
「クラスメイトでしょう? 仲良くしましょう」
「同じ学校を目指す仲間でもあるわ」
私と千草ちゃんが言えば、卯崎さんは戸惑っている。
「私、ずっと高羽さんと狛野さんに憧れていたんです。仲良くなれるなんて嬉しいです」
「敬語とか使わなくていいよ」
「香織ちゃんって呼んでいい?」
私と千草ちゃんの言葉に、卯崎さんの表情が明るくなる。
「嬉しい。よろしくね、暁ちゃん、千草ちゃん!」
「こっちこそ、香織ちゃん」
「よろしくね、香織ちゃん」
手を取り合って私たちは微笑み合う。
私たちの足元では私の子犬さんと、千草ちゃんの鶏さんと、香織ちゃんのウサギさんがじゃれてぐるぐる回っていた。
その日から中学校でも香織ちゃんと私たちは一緒に行動するようになった。
香織ちゃんは妹の話をしてくれた。
「
沙織ちゃんが小さいので、香織ちゃんは歌劇団の付属学校のための習い事をすることができないと思い込んでいた。
それが、思い切って香織ちゃんのママに打ち明けたのが、私が千草ちゃんの件で離婚家庭の話をした後だった。
「私のママも妊娠中にパパと別れたの。離婚の件ですごく傷付いてたから、暁ちゃんが千草ちゃんを庇っているのを聞いて、私も救われた気がした」
それで私に憧れて、香織ちゃんは勇気を出して香織ちゃんのママに相談できたのだという。
「香織ちゃんの夢の手助けに私がなったならよかった」
「暁ちゃんも、千草ちゃんも、私の憧れよ」
「憧れなんて照れるわね」
照れると言っているが、千草ちゃんもまんざらではなさそうな顔をしていた。
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