17.お祖母ちゃんに相談と写真撮影
お正月には着物を着た千草ちゃんが挨拶に来てくれた。
私も着物を着せてもらったが、袴を着つけてもらって、格好よくしてもらった。
後ろは短めで前髪だけ長めに切っている髪を固めてもらって、歌劇団の男役のようにしてもらう。
袴姿の私と着物姿の千草ちゃんで写真を撮ってもらった。
「歌劇団の付属学校に入学したら、和服も自分で着られるようにならないといけないのよ」
「練習しないといけないわね」
「暁ちゃんと千草ちゃんが寮生活をするなんて、寂しくなるわ」
まだ二年以上先の話なのに、私のママと千草ちゃんのママはしんみりとしている。私と千草ちゃんが二歳のときから歌とダンスの教室にピアノの教室と、ママも千草ちゃんのママも、私と千草ちゃんにものすごく手をかけてくれていた。
歌劇団の付属学校の合格は私と千草ちゃんの願いではあったが、そうなると猟に入って気軽に家に帰れないし、旭くんとも引き離されてしまうのだけが私にとってはつらかった。
「月穂ちゃんに話があって来たのよ」
遂に千草ちゃんのママは私のママに打ち明けるつもりのようだ。
パパの作ったお節料理を摘まみながら私と千草ちゃんは耳を澄ませる。
「千草ちゃんのことを二歳から教えてくれているピアノの先生とお付き合いをすることになったの。千草ちゃんを妊娠中には元夫の不倫が分かって、夫との結婚生活は冷めていたし、ピアノの先生はそんな私をずっと気にかけてくれていたみたいなのよ」
千草ちゃんのママの告白に、私のママが目を輝かせている。
「よかったわ。千枝ちゃんはもう男のひとは信頼しないのかと思ってた」
「そう思った時期もあった。でも、ピアノの先生は誠実なひとだし、千草ちゃんが二歳のときからのお付き合いだから、信じてみようと思えたの」
千草ちゃんのママの前向きな様子に、私のママも喜んでいた。
「千草ちゃんのは申し訳ないけど、担当の先生は変わってもらうことにしたのよ。それで、私とピアノの先生の仲は隠さないことにしましょうって話になっているの」
「私は平気よ。ずっと教えてくれてた先生だから残念だけど、ママが幸せになる方がいいもの」
千草ちゃんのママとピアノの先生は婚約するのだという。
周囲にはっきりとそれを示しておけば、千草ちゃんが陰口を叩かれることもない。
「それだけの覚悟があるのね」
「そのつもりよ。私も、月穂ちゃんが羨ましくなって」
「どういうこと?」
「赤ちゃん、もう一人欲しいなって思っちゃったの」
千草ちゃんのママがピアノの先生との交際を早く進めたい理由には、赤ちゃんのことがあった。
私の頭をよぎったのは太陽のカード。私のタロットカードでは鶏の絵だが、ベーシックなタロットカードでは赤ん坊が馬に乗って向日葵を背にしている絵柄だ。
ママの妊娠が分かったときにもあのカードが出た。
千草ちゃんのママを占ったときにもあのカードが出た。
千草ちゃんのママのお腹にも赤ちゃんが来るのではないかと私は期待していた。
旭くんは二か月を越して、きょろきょろと丸いお目目をよく動かしていた。
そこにセントバーナードさんや、私の子犬さんや、千草ちゃんの鶏さんや、パパのパンダさんや、ママのパピヨンさんがいるから、やはり間違いなく旭くんは見えているのだろう。
旭くんも私もお祖母ちゃんに似たようだ。
お正月にお祖母ちゃんの家に行ったときに、私はそのことをお祖母ちゃんに話した。
「旭くんは守護獣が見えているみたいなの。きっと、怖い黒い影も見えているんだわ」
怖い黒い影が来ると旭くんは泣き出してしまうことが多い。その前にセントバーナードさんが追い払おうとするのだが、セントバーナードさんも大きいけれどまだ子犬なので、追い払えないことがある。
そういうとき、私の子犬さんが駆け付けるまで旭くんは泣いている。
「それじゃ、旭くんが大きくなったらタロットカードを買ってあげないといけないね」
「私のと同じのにして」
「それがいいだろうね」
お祖母ちゃんは旭くんがもう少し大きくなったらタロットカードを買ってくれる約束をした。
「私が見える家系なんだろうね。息子は見えなかったけど、暁ちゃんと旭くんは見えるように育ってるみたいだね」
「私はお祖母ちゃんに似たのね」
「きっとそうだよ」
お祖母ちゃんは歌劇団のことは詳しくないけれど、占いのことは詳しい。
私は太陽のカードについて聞いてみることにした。
「ママが妊娠が分かる前に太陽のカードが出たの。太陽のカードはベーシックなタロットカードでは赤ん坊が馬に乗っているでしょう? 私は赤ちゃんが来るんじゃないかなって思ったのよ」
「それは当たっていたね」
「今度は千草ちゃんのママを占ったんだけど、そのときも太陽のカードが出たの。千草ちゃんの守護獣は鶏さんだから、私の太陽のカードには鶏が描かれているからそれかと思ったんだけど、違う気もして」
私の話を遮らずに最後まで聞いてくれてお祖母ちゃんは深く頷く。
「そういうときは、暁ちゃんの直感を信じていいんだよ」
「そうなの?」
「占いは、カードの絵を見たときの直感を信じて占っていいんだよ」
私は私の直感を信じてよかった。
千草ちゃんのママにも赤ちゃんが来るかもしれない。
私は早く千草ちゃんに教えたくて、携帯電話を手に取っていた。
メッセージアプリでお祖母ちゃんが言ったことを伝える。
『占いはタロットカードの絵を見たときの直感で占っていいんだってお祖母ちゃんが教えてくれたの。私、前に千草ちゃんのママを占ったときに、太陽のカードが赤ちゃんに見えたんだけど、もしかすると、千草ちゃんのママに赤ちゃんが来るかもしれないわ』
『そう言ってたけど、本当にそうなるかもしれないわね。そうなったら嬉しいなぁ。ちなみに、男の子かな? 女の子かな?』
千草ちゃんに聞かれたので、私はお祖母ちゃんの机を借りてタロットクロスを広げてタロットカードを混ぜる。
タロットカードをよく混ぜて出てきたのは、皇帝の正位置だった。
意味は、社会だが、性別でいえば男の子に違いない。
「お祖母ちゃん、これって、男の子って意味かな?」
「暁ちゃんがそう思ったんならそうだと思うよ」
「ありがとう!」
お礼を言って私は携帯電話のメッセージアプリで千草ちゃんに返す。
『男の子な気がするよ』
『旭くんと親友になれそうね』
私には旭くんという可愛い弟がいて、千草ちゃんはそれを本当に羨ましそうにしていたから、私の答えに千草ちゃんは喜んだようだった。
可愛いスタンプが送られてきた。
冬休みは短くて慌ただしかったけれど、私とママとパパは、旭くんと写真を撮りに行った。
写真のスタジオで私は着物と袴を着つけてもらう。着付けの練習のために、最初の方は自分で頑張ってみたけれど、やっぱりママの手を借りないと着付けをすることはできなかった。
旭くんは白いベビードレスを着てパパに抱っこされている。
ベビードレスの袖が気になるのか、一生懸命舐めて吸っている旭くんは、ちょっとお腹が空いていたのかもしれない。
それでも泣いたりせずに旭くんは写真撮影を終えた。
出来上がった写真はお祖母ちゃんの家にも送るとパパとママは話していた。
「ママ、千草ちゃんのママが妊娠したら、どうするの?」
今はママが休んでいて、千草ちゃんのママに私の送り迎えも頼んでいるが、千草ちゃんのママが妊娠すればそれも変わってくるだろう。
私が言えば、ママは旭くんの方を見る。
旭くんはお腹が空いたのか手をしゃぶって泣き始めていた。
「旭くんをベビーシートに乗せて、私が送り迎えするわ」
「ママ、大丈夫なの?」
「千枝ちゃんにはたくさん助けてもらったもの。今度は私が助ける番よ」
ママは胸を張って言っている。
「僕も手伝うからね」
パパも穏やかに微笑んで言っている。
旭くんが生後半年になれば、パパの育児休暇も終わってしまう。その後に千草ちゃんのママが妊娠すれば、ママはまた忙しくなるだろう。
「私、ご飯を作るのはできるわ」
「暁ちゃんも頼りになるわね」
「ママ、離乳食ってどうやって作るの?」
赤ちゃんが離乳食を食べなければいけないことは私も知っていたが、作り方までは知らない。
聞いてみると、ママは真剣な顔で答えてくれる。
「最初はスープみたいなものから。そのうち軟らかく煮た野菜や白身魚を潰して食べさせるのよ」
「味付けは?」
「お出汁だけで、あまり強い味付けはしないの」
味覚の発達する時期にはまだ強い味付けはしないとママは私に教えてくれる。
私も旭くんの離乳食を作れるだろうか。
旭くんのことなら、何でもしたい。
私は旭くんのお姉ちゃんなのだから。
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