12.お祖母ちゃんの占い結果
お祖母ちゃんと三人だけで話がしたくて、シャワーを浴びた後で私と千草ちゃんはお祖母ちゃんの部屋に行った。
タロットカードとタロットクロスの入ったバッグを持って部屋に来た私に、お祖母ちゃんは机を貸してくれる。
お祖母ちゃんと千草ちゃんは椅子を持ってきてそこに座っていた。
机の上にタロットクロスを広げて、タロットカードを混ぜる。混ぜながら私は千草ちゃんの誘拐事件のことをお祖母ちゃんに話した。
「千草ちゃんを守ってくれてる鶏さんが黒い長い尾羽を引き抜いて、道に置いていてくれたの。そのおかげで、私は千草ちゃんがいる場所が分かったのよ」
「千草ちゃんの守護獣の鶏さんは、尾羽が長いのかい?」
「そうなの。千草ちゃんの肩に乗っても地面に尾羽がつくくらい長いよ。時々、子犬さんが踏んでる」
子犬さんはわざとなのか、千草ちゃんの鶏さんの尾羽を踏むことがある。そのたびに鶏さんは飛び上がって子犬さんを突いているので、二匹は仲がいいのだろう。
そんな話をしていると、お祖母ちゃんがタブレット端末で検索した画像を見せて来た。
若冲の絵だ。
尾羽の長い鶏さんが描かれている。
「この鶏さんよ」
「私のために尾羽を抜いてくれたのね」
「お尻に差してたら、元に戻ったみたいだけど」
私と千草ちゃんが話していると、お祖母ちゃんが教えてくれる。
「これは、尾長鶏という日本古来の鶏の一種だよ。千草ちゃんの守護獣は尾長鶏なんだね」
「尾長鶏! 普通の鶏さんじゃなかった!」
「でも光ってるのよね? 尾長鶏は光るの?」
千草ちゃんの疑問にお祖母ちゃんが答える。
「尾長鶏の姿をしている、もっと上位の存在なのかもしれないね。千草ちゃんはそういう存在に守られていて本当によかった」
千草ちゃんのパパに誘拐されたときも、鶏さんは尾羽を抜いてまで千草ちゃんを助けようとしてくれた。尾羽を抜くという決断は、長く美しい尾羽を誇る尾長鶏である鶏さんにとっては苦渋のものだっただろう。
「鶏さんの尾羽は抜けても消えなかったし、光って道に落ちてた」
普通の尾羽ではないので風に飛ばされることはないが、あんなに光っていたのは今考えても不思議な気がする。
「千草ちゃんの居場所を暁ちゃんに知らせようと必死だったのかもね」
お祖母ちゃんはそう言っていた。
元々お祖母ちゃんのタロットカードなので、私はお祖母ちゃんにタロットカードを触らせることに抵抗はない。
席を替わってお祖母ちゃんを机につかせて、タロットカードを混ぜてもらう。
「懐かしいねぇ。若い頃はこれで何度も占った。結婚して子どもが生まれてからは、離れたし、他のタロットカードも使ったけど、このタロットカードが一番だね」
言いながら混ぜたお祖母ちゃんは、ヘキサグラムという六芒星を模したスプレッドでカードを配置した。
七枚のカードが占う内容は何なのだろう。
一枚目の過去のカードは、運命の輪の正位置だった。
意味は、宿命。
逃れられない運命が回り出すという意味がある。
「千草ちゃんと暁ちゃんは運命的なもので結ばれているね。二人が同じ学年で生まれたのも意味がある。千草ちゃんは次の年度に生まれるはずだったのが、早産でうまれているからね」
千草ちゃんが次の年度で生まれるはずだったのに、早産で生まれていることは私も知っていた。千草ちゃんは未熟児で生まれてきて、生まれて数週間は病院から出られなかったと聞いている。
二枚目の現在のカードはソードの七の逆位置だ。
意味は、裏切り。
逆位置になると、万全の備えが功を奏していい方向に向かう暗示がある。
「千草ちゃんはお父さんとのことで大変だったね。鶏さんの万全な備えのおかげでなんとかなったようだけど。これからも鶏さんは守ってくれそうだね」
「私の鶏さん、頼りにしてるわよ」
千草ちゃんが微笑むと、千草ちゃんにもお祖母ちゃんにも見えていないが、鶏さんは誇らし気に胸を張っていた。
三枚目の近未来のカードはペンタクルのクィーンの正位置。
意味は、寛容。
相手を育てることで自分も成長するという意味もある。
「これから生まれて来る赤ちゃんを育てていくことで、暁ちゃんにも千草ちゃんにも、成長が訪れるよ。二人にとってはかけがえのない家族になるだろうね」
お祖母ちゃんの言葉に、私も千草ちゃんも生まれて来る赤ちゃんのことを考えてしまう。
「男の子かな? 女の子かな?」
「どっちでも可愛いと思う。あーでも、男の子な気がするんだよな」
私が言うとお祖母ちゃんも千草ちゃんも身を乗り出す。
「なんで男の子なの?」
「何か見たのかな?」
言われて、私は占ったときの太陽のカードを思い出していた。
太陽のカードのスタンダードな絵柄で馬に乗っている赤ちゃんは男の子なのだ。
「前に赤ちゃんを占ったときに太陽のカードが出たのよね。男の子に見えたから、男の子かなぁって」
「弟かぁ。羨ましいなぁ」
「千草ちゃんの弟みたいなものでもあるよ」
私と千草ちゃんが話していると、お祖母ちゃんは占いを再開した。
四枚目のアドバイスのカードで出たのは、ソードの三の逆位置。
意味は、痛みだ。
逆位置になるとショックな出来事に混乱しているという意味になる。
「千草ちゃんは平気そうに見えて、お父さんの件はかなりショックだったみたいだね。心の整理がつくまでに時間がかかるかもしれない。暁ちゃん、しっかりとそばにいてあげなさい」
「はい。大丈夫だよ、千草ちゃん」
「ありがとう、暁ちゃん」
怒っているように見えても、千草ちゃんはまだ十二歳で、実の父親に誘拐されるような事件が起きたのだから、ショックでないはずはない。
私はしっかりと千草ちゃんを癒せるように傍にいようと思っていた。
続いてのカードは相手の気持ちだ。
出たのはペンタクルの七の正位置だ。
意味は、関係性。
相手に何かしてあげたい気持ちが高まっていることを示す。
「暁ちゃんも千草ちゃんも、暁ちゃんのお母さんを助けてあげたいって思っているんだね。本当に優しいいい子たちだ」
お祖母ちゃんは相手の気持ちを私と千草ちゃんの気持ちで見たようだった。
六枚目のカードは質問者の気持ち。
ペンタクルのキングの正位置が出た。
意味は、貢献。
他人に何かをしてあげたい気持ちを暗示している。
「あたしは暁ちゃんと千草ちゃんの味方だからね。いつでも困ったら連絡しておいで」
質問者の気持ちは、お祖母ちゃんの気持ちだったようだ。
「お祖母ちゃん、ありがとう」
「お世話になります」
私も千草ちゃんもお礼を言う。
最後の七枚目の最終結果のカード。
カップの九の正位置が出た。
意味は、願望。
念願が叶うという意味がある。
「暁ちゃんも千草ちゃんも、このまま頑張って行けばきっと願いはかなうよ。大丈夫」
お祖母ちゃんに言われて、私も千草ちゃんも安心していた。
「お祖母ちゃんはいつ頃から守護獣が見えなくなったの?」
ずっと聞いてみたかったことを口にするとお祖母ちゃんが答えてくれる。
「子どもが生まれて、子育てに追われるようになってからかね。それまでは、自分や周囲のことを見ておかなければいけなかったけれど、子どもが生まれたら、子どもに集中しなければいけなくなる。目を離したら子どもはすぐに死んでしまうからね」
お祖母ちゃんの言葉に私は怖くなる。
「赤ちゃんって、そんなに死にやすいの?」
「昔は特にね。今でも、色んな事故がある。赤ちゃんはちゃんと見ておけば大丈夫だけど、すごく注意しないといけないのは確かだよ」
弟か妹が生まれると無邪気に喜んでいたが、赤ちゃんとはそんなに簡単なものではないようだ。
私はお祖母ちゃんの話を聞いて身を引き締める。
「私、赤ちゃんのお世話、頑張るわ」
「私もお手伝いする」
私の宣言に千草ちゃんも一緒になって言ってくれた。
「頼もしいお姉ちゃんたちがいるから、生まれて来る赤ちゃんは幸せだね」
お祖母ちゃんが目を細めて言ってくれる。
「出産っていいイメージしかないけど、いつの時代も命懸けだからね。お母さんのことは大事にするんだよ」
「はい! 大事にするわ」
「暁ちゃんのママを助けるわ」
お祖母ちゃんに言われて、私たちはママをますます大事にする決意を新たにしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます