花粉症って大変と思った≪春≫
段々暖かくなってきて、もう一緒に寝なくてもいいんじゃないかと思えてきた春。
ティッシュの消費量が増えた。俺じゃない、ひまりの。どうやら彼女は花粉症。
鼻の下が真っ赤、目も真っ赤。うるうるのずるずる。それでも自分は花粉症じゃないと言い張る。
ある日、友達と猫カフェに行ったひまりは酷く鼻水を垂らしながら帰ってきた。
「さっくん、なんかだるいよぉ……」
そのまま寝込んだので看病する。あまりに酷い鼻炎にひまりは耳鼻科を受診した。
原因は猫アレルギー。そして、そのときのアレルギー検査で彼女は正真正銘の花粉症ということが判明した。
「知りたくなかったよぉ。にゃんこもGも花粉もアレルギーなんて……」
夜中にずびずびうるさいからちゃんと自覚して、継続的に薬を飲んでいただきたい。1人でソファーで寝ようとしても身体をはって止められる。何故だ。
元々シングルベットで2人で寝るのは狭いのに、ひまりは最近俺の方にくっついてくる。暑い。朝起きると抱き締められていることもしばしば。
ソファー座っていても肌が触れる程、距離感が近い。油断していると振り返った時にうっかりキスしてしまうんじゃないかと思うくらい。
それでなくても、最近小夜が抱きついてきてキスをしてくる夢を良く見る。そのせいか朝起きると、ひまりが俺に抱きついているだけじゃなくて、俺もひまりを抱き締めていることも多い。
「ひまり、もう暖かくなってきたし、別々に寝よう? ほら俺、無意識に抱きついちゃってることあるし……」
朝起きて距離が近いのに気づく度、ひまりが気づかない内にそそくさとベットから起きていた。ひまりからは何も言われない。でもその頻度も頻繁になってきていて、そろそろやばいと思っていた。
目が覚めて腕の中にいるのが小夜ではなくてひまりでも、全然嫌ではなくなっていたけれど。
「さっくん、私はそれでもいいから一緒に寝たいなぁ。1人で寝るのは寂しいよ」
おねだりするような目で見られてそれ以上何も言えない。そして事件は起きるべくして起きた―――
俺は寝ていて少し動いたんだ。そしたら唇に温かい感触が触れて、目を開けたら俺はひまりにキスをしていた。
「……んっ!? 」
あわてて口を離して起き上がったら、ひまりが起きた。
「さっくん? 」
「わー、ひまり、ごめん。寝てて動いたらキスしちゃった。ほんとごめんっ」
俺は平謝り。事故でキスとか最低だ。
「私は嬉しかったよ。やっとさっくんからしてくれて。そんなのいつでもしていいから寝よ?」
ひまりの言葉の意味を処理できなくて、俺の寝惚けた頭の中はハテナでいっぱいになる。
起こした身体を引き寄せられて、腕の中に入り込まれた。
「ふふっ、さっくんの腕の中好き~」
俺の身体はカチカチに固まって身動きができなかったけれど、ひまりはそのまま安らかに寝てしまった。
朝、ひまりに
「昨日のキスごめんな。俺は彼氏でも何でもないのに」
と謝罪した。
「さっくん、キスならわんことかにゃんこにもするでしょ?ハグだってそう。だからさっくんが嫌じゃなければ私はもっといっぱいしたいな。さっくんのこと好きだから」
「……なんだそれ?」
記憶の中に残っているひまりの俺に対する『好き』はこれが最初で、この日から彼女は遠慮なく毎日『好き』と言ってくるようになったし、スキンシップは増えた。
あまりに自然にそうしてくるので、俺もなれてきて――自分からもするようになってしまった。だって、あまりにも嬉しそうだから。
◇◇◇
思えば俺はこの頃にはひまりの事が好きだったのかもしれない。いくら理由をつけようと好きでもない子にキスするとか、今考えたらあり得ない。
ひまりは人肌恋しかったのだろうか?それとも誘惑か?
でも、『好き』と言われて俺が心の中でその言葉に答え始めるのはもう少し先のこと。
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