ウサギが『彼女』になりました。
それからどうなったか?
井上の彼氏は予想以上の最低男だった。
彼女のお金を嘘をついて貢がせて騙しとって、最終的に
「俺やっぱり大人な感じの子の方が好き。そんなに毎日好き好き言われても萎えるわ」
と言って、井上よりも年下だけど、見た目は年上の美人と同棲を始めたそうだ。
井上はぽいっと捨てられたんだ。寒い深夜に1人。
前は重いと感じた彼女の鞄は、数ヵ月暮らした筈の荷物だと考えたらやたら軽かった。
目が溶けるんじゃないかと思うほど泣くので、温かいココアを飲ませて、頭を撫でて……でも彼女のこの言葉には怒りしか感じなかった。
「っぐすっ、あっくんのこと、本当に好きだったのに……」
「おいっ、んな訳あるか! 馬鹿みたいに好き好き言ってて本当に好きじゃないだろ? 」
俺が小夜を好きだった気持ちと、井上がくそ男を好きだった気持ちは同等にして欲しくなかった。
それに俺が大事に大事に言わずに温めていた言葉を軽々しく口にして欲しくない。
「本当だよ!
私は自分の言葉に嘘ついたことなんてない。確かに……織田くんから見たら馬鹿だったかもしれないけど。
多少嫌なことされても許せる位好きだったのっ」
全然多少ではないと思うが……。泣いて弱々しかった井上からこんなに気持ちが入った言葉のパンチが飛んでくるとは思わなかった。俺が苛ついたのはただの八つ当たりだ。
「あっそ。でも、もう懲りただろ? うんこやろーとの恋は終了。
さっさっと忘れて、今度はちゃんと井上の良さを分かってくれる人を好きになれ。
毎回、男を見る目が無さすぎるのが井上の欠点。世の中、良い人ばっかりだったら井上がこんなに辛い思いすることもないのになー」
「うん。あっくんのことはもう諦める……
ありがとう。織田くんは本当に優しいね。織田くんの彼女さんが羨ましい」
無邪気な笑顔と本音の言葉が俺の胸を抉る。
「あー、ごめん。俺、彼女とは別れたんだ」
「えっえっえっ? ……だって、あんなに大事そうに見てたのに――」
ああ、やっぱりこいつは自分のことよりも人の事を心配する。
あんだけ出てた涙が今回も止まった。俺には真似できないけれど、井上の事は嫌いじゃない。嫌いじゃないからこんなことを言ったんだ。
「気持ちだけで上手くいけば皆苦労はしないんだろーな。
まぁ、だから嫉妬してくれる彼女もいないし、彼女じゃない子には手は出さないから、次に行くとこ決まるまでうちに居てもいいよ? 狭いけどな」
ほんの軽い気持ちだった、彼女の顔を見るまでは。
「えっ、いいの? 本当にいいの? えっ、嬉しい~。織田くんは本当にやさし~ね!」
心から嬉しそうに安心しきった顔で笑う井上。こんな顔が見れるなら、別に多少手狭になる位は我慢しようと思った。
それから、1ヶ月位経った後、
「織田くん~、お母さんが小包送ってくれるって言ってるんだけどどうしよう~?
お母さんは私が彼氏のところにいると思ってるの。最近は『楽しそうだからずっとそっちにいたら? 』って応援してくれてて……。どうしたらいいかなぁ? 」
井上が俺の顔色をそわそわと伺いながら、こう言ってきた。
別に井上との生活に支障はなくて、生活費も入れてくれて助かっていたので俺はこう答えた。
「んじゃそういうことにしといたら? 」
これは決して告白じゃない。
便宜上の『彼氏』の役を引き受けただけ。
いつも悪い男に恋をするこのウサギが、今度こそ良い恋をするための見張り役。
俺は『好き』なんて言わないし、彼女が俺に恋するように仕向けたりもしない。
多少邪険に冷たくしておく位でいいだろう。
これが俺の『恋するウサギの守り方』
さてここからは本題だ。
俺ん家の同居動物はいつ俺の事を好きになって、俺はいつ彼女が好きになったのか。
これから、この同居生活の中でどんなことがあったのかを思い出す。
大事な事だから、もしわかったら教えて欲しい。よろしく頼む。
★作者より★
次の話からこの2人のラブコメスタートです。
朔也が『わかったら教えて欲しい』って言ってますが、これはコメントのおねだりではありません。最後に彼が何でそう言ったのか回収される予定です。
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