やって来たウサギ

 小夜と別れて俺は呆けていた。


 あれは何月何日の事だったか。正直そんなに気にしていなかったから正確な日付がわからない。


 それ位あの頃の俺は小夜の事しか考えていなくて、自分の何が悪かったのかを毎日ひたすら自問自答していたんだ。



 あの日の深夜1時過ぎ。俺は当たり前に寝ていた。

 ………が電話で起こされた。


 ブーブーブーブー


 鳴り続けるスマホのバイブ音。手探りで探したが表示された名前が誰かを一瞬思い出せない。

 それは、数ヵ月前に偶然再開した中学の同級生の名前。


 ひたすら嫌な予感しかしなかった。


「もしもし、井上? どした? 」


 電話の理由は聞かずとも想像ついたけれど一応聞く。前に会ったのは初夏の暑い日だった。今は冬になりかけの秋。深夜は冷える。一体どこにいる?


「っひっく。おだくぅん、完全に追い出されちゃったぁ。ひっく……」


「今どこ? 夜だし外は危ないから、とりあえず俺ん家来なよ? どこいんの?」


「お金ないし、電車ない、どぉしよぉ……」


「はぁ?……とりあえずその辺にいるタクシー捕まえて、乗ったらスピーカーフォンにして? ドライバーに住所言うから。タクシー代は着いたら立て替えてやるから」


「おだくん……」


「はい、もういいから早くタクシー捕まえて?」


 スマホ画面に表示された時刻は1時48分。こんな時間に女の子を外に放り出す何て最低な男だ。


 部屋を見渡す。小さなソファーにシングルベット、テレビ。最低限の私物。物が少ない分、片付いているし見られて困るものはない。


 ただ、年頃の男女が2人で過ごすには狭すぎる。


 まぁ、あいつは妹みたいなもんか。見た目は美優と同じ位だもんな。

 美優は年の離れた中学生の妹。昔は可愛かったのに最近生意気言うようになってきた。



 そう、この後、過度な間違いなんてなかった。それはやって来たウサギが俺の『彼女』になってからも、俺がいつの間にか彼女の事を好きになってからも同じこと。


 だって、俺はまだ彼女に1回目の『好き』を言っていないんだから。




【余談】

 朔也の妹の美優の話は別小説の『えんれん!』に書いています。ポップなラブコメです。

『えんれん!』幼馴染みの美少女の距離感が近すぎるので遠距離練習始めました。

https://kakuyomu.jp/works/16817139556453425125

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る