第19話 闇に紛れる者
(じゃ、私はもう少し食事を楽しむから、謁見は宜しく〜)
などとダンスパートナーの立場をエルトレスから奪った挙句、終わり次第テーブルに並んだ豪華な料理の元へと戻っていった相棒の言葉を頭の中で反芻する。
傍から見れば音楽に合わせてリズム良くパートナー交換をしたように見えるが、エルトレスの目線からすればまるで「こいつは自分のだ」と言わんばかりの顔で強引に交代させられたようなものだった。
本来であれば王女相手にこんな扱いは許されないが、エルトレス自身が許しているということはつまりそういうことなのだろう。
そんな嫉妬などまるで知らないアスクの頭の中は王への謁見で埋め尽くされていた。
「悪い、遅くなった」
「ん。気にしてねぇから大丈夫」
舞踏会の会場だった広間から出て直ぐにハクアと合流して案内してもらい、王が待っている玉座の間へと向かう。
歩いても中々玉座の間へは着かず、どうやら無言の空気が嫌なようで、アスクは強引な王女様とのことを話題に出した。
「そういや、お前の妹とダンスを踊ったんだが、中々のおてんば王女様なんだな」
「まぁな...って踊った!?お前が!?エルと!?何で!?」
「バルコニーでばったり会ってな、話してたら「友人になりましょう」っていきなり言われたたんだよ。そのまま成り行きでダンスしたんだが...何か問題あったか?」
「いやぁ...問題ではないんだが...」
(俺から紹介しようと思ったのに、まさかあいつが自分から声を掛けるなんて...)
なぜかハクアの頭の中ではアスクに家族を紹介するプランがあったらしく、妹の手によってその計画が台無しになってしまったことがどうやらショックのようだった。
自分が紹介したい、という願望は良く分からないが、まぁ初めての友人であり親友のアスクに対して距離感がバグっているだけだろう。
そんなこんなで話しているとあっという間に玉座の間の扉の前に到着した2人。
アスクは目前まで来たせいか緊張しており、肩を何度も上下させて落ち着かない様子だが、そんな事は気にも留めずにハクアは扉を開けてしまった。
部屋に入りまず目に入ったのは、当然だが玉座に座る王だった。
何度か演説しているのをギルドに置いてある魔道具の中継で見た事はあったアスクだったが、本人を目の前にして浮かんできたのはシンプルな考えだった。
(この人...クソ強え...)
この間戦ったばかりだからこそ分かる、アーサー程ではないにしろ今の自分よりは確実に強いと直感で理解したアスク。
王の目の前まで歩き、ハクアより少し遅れて跪いた。
「父上、Aランク冒険者のアスク殿をお連れしました」
「うむ、ご苦労だったハクア。さてと...」
「...ッ!」
「顔を上げよ、アスク・レギオン」
言われた通り顔を上げるアスク、少しの沈黙が流れた後国王は満面の笑みでアスクへと語りかけた。
「そう緊張するな、君のことはハクアから耳にタコが出来る程聞いている。倅とは随分仲良くしてくれているようで助かっておるわ。何しろこいつは友人が少なくてな...」
「父上!その話はおやめ下さい!」
その友人の目の前で、自分が家族に対してどれだけ話しているかをバラされたハクアは余程恥ずかしかったのか、顔を赤く染めて国王の話を遮った。
「ハッハッハッ!すまんすまん!では本題に移るとするか」
先程の笑顔が消え、真剣な表情になる国王。
再び玉座の間に緊張が走る。
「まずは勇者の護衛任務について。よくぞ勇者を魔族の手から守ってくれた、感謝するぞ」
「私のようなものにわざわざ礼など...恐悦至極でございます...」
「護衛任務に続いてブランの防衛までして過酷な状況が続いているが、其方には新しい依頼を与えたい」
「...」
ゴクリ、と息を呑むアスク。
まさかまた国王直々の依頼が来るとは思ってもなかったため、アスクは少々混乱しつつも一言一句聞き逃さないために集中して国王の話に耳を傾ける。
「次の依頼は、勇者ユーリを連れて魔王軍の調査に出向いて欲しいというものだ」
「...えっ?」
思わず疑問が口から出てしまったアスクだったが、流石にそれだけで終わりではなく、国王は続けてこう述べた。
「勿論危険な依頼なのは理解している。なので其方だけではなく〈円卓の騎士〉のメンバーであるガレスとガヘリスも共に向かってもらうことにしている。よいな?」
「は、はい!その依頼、喜んで受けさせていただきます!」
「そうか、受けてくれるか!良かった良かった!」
「依頼の詳細は後で俺が届けに行く。今日はなれないパーティーで疲れているだろうし、さっさと休むといい。城下町の宿をとってあるからそこに行くといい」
「あぁ、サンキュー。では、失礼します!」
立ち上がり、礼をして玉座の間から去っていくアスク。
そんなアスクの気持ちの良い返事が気に入ったのか国王は笑顔で息子に語りかけた。
「彼は良い子だな、友人として大事にしてやるんだぞ」
「勿論です父上。あ、それとエルなんですが...」
友人と妹が仲良く踊った事を少し大袈裟に報告するハクア。
「何ぃ!?もうそこまで進んでいるのか!?」
そんな話を聞いた国王は、激怒するかと思われたがそんな事はなく、気に入った男が息子だけでなく娘とも仲良くしていると知り先程よりも笑顔になっていた。
「あのヤンチャ娘がそこまで気にいるとは...どうやら孫の心配はせずにすみそうだな...」
「父上...流石にそれは早すぎるかと...」
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一方アスクはというと、そんな事は露知らずに城から出る為に一度広間へと向かおうとしていた。
が、初めて来たのと玉座の間へと向かう途中で話していたせいで道を忘れてしまい迷子になってしまった。
恥ずかしいが1度戻ってハクアに道を教わろうとしたその時だった。
何者かが背後からアスクに近づき腕で首を締めた!
「...グッ...ガッ...」
「王城の中だからといって、油断が過ぎるんじゃあないか?Aランク冒険者のアスクさんよぉ」
正に敵の言う通りで油断していたアスク。
体内へ酸素が送れず意識が消え始めるが、力を振り絞り電撃を体から放った。
「グッ!報告通りのスキルだな...」
「ハァッ...ハァッ...お前らのその角、魔族だな。確か西の魔族の特徴だったけな、角があるのは...」
「フンッ!そんな事を知っても何の意味もないぞ?
貴様はどの道此処で死ぬんだからなぁ!」
暗殺が失敗したため携帯していたナイフで切り掛かってくる魔族。
暗殺者らしく素早い動きではあったが、強敵との戦闘が続いたアスクにとってこの程度の敵は軽くあしらえるものだった。
「どうした、その程度か?どーせ暗殺が失敗したら、実力で殺せばいいとでも思ってたんだろ?甘ぇんだよ!」
敵のナイフを簡単に捌き、相手の腹部目掛けて連続で拳を打ち込む。
(コイツ...報告より遥かに強いじゃないか!)
さっきとは打って変わって優勢になり、暗闇に紛れる漆黒の服に身を包んだ相手を見据る。
バッグなどは背負っておらず、ポーチなどもない事から恐らく得物はナイフだけと推測して一気に畳み掛けようとするアスク。
情報を得るために殺さず生け取りにしようと考えていたが、突如背中に2つの激痛が走った。
「何だと...!」
「いつ俺が1人だけだと言った?」
襲撃者は1人だけではなかった。
完全に相手が1人だと思い込んでいたアスクは再び劣勢になってしまった。
「魔力の探知もできないヒューマンに、俺達が負けるかぁ!」
3人の襲撃者がアスク目掛けて突っ込んでくる。
絶対絶命のピンチと言ったところだが、アスクは敵の発言が気になっていた。
魔力の探知。
そんな事など考えたこともなかったアスクは死が間近に迫っているというのにも関わらず、そんな事を考えていた。
この状況を打開するためには恐らくその魔力の探知が鍵になると、そう感じていたのだ。
(魔力の...探知だと...?そんなことが...)
(できるよ〜)
(うおっ!ビックリしたぁ!頭の中とはいえ声がいきなり聞こえたら驚くわ...)
(ごめんごめん。でもご主人様は魔力探知出来ないんだね)
(まぁ考えた事もなかったな。自分でもあんまり魔力使わねぇし)
(まぁヒューマンならしょうがないか。今から私が教えてあげるよ)
頭の中で、グレイスとの会話を続けるアスク。
戦闘を行いながら覚える必要があり集中するのが難しい為、早く覚えなければと考えていた。
敵は3人で全員が暗殺者である以上、目を離した隙に1人くらいはまた闇に紛れて奇襲をしかける筈。
ならば敵の姿が見えずとも、名前からして魔力の場所が分かるであろう魔力探知は必須ともいえる手段であろう。
そんな技術を教わろうとするアスクだったが、目の前に大きな障害が存在していた。
(簡単だよ。周りの空気に集中して、ゾワゾワ〜っとした場所が魔力のある場所だよ。)
(そんな...)
(ん??)
(そんな抽象的な表現で、出来るかぁ!!)
自分の頭の中で契約した悪魔を怒鳴りつけたアスク。
そう、グレイスは他人に技術を教えるのが絶望的に下手だった。
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