第20話 夜に輝くもの

(クソッ!どうにかして奴らの連携を崩さねぇと...)


「...所詮この程度か。さっさと殺すぞ」


「「了解」」


3つの影がアスクへと襲いかからんとしたその時、突如として現れた剣によって2つの影が叩き落とされた。


「無事ですか?アスクさん」


「...!!ランスロットさん!?どうしてここに?」


アスクを助けたのは、鎧姿ではなくアスクと同じように燕尾服に身を包んだランスロットだった。

パーティー会場で見かけなかった人物の登場に驚くアスクだったが、目の前の敵へと集中しなおした。


「実は僕とガウェインも個別に招待状を貰っていてね。僕達はまだやらなきゃならない依頼があったから君達よりも遅れて、さっき会場に着いたんだ」


「そうだったんですね。でも、なんで俺が戦ってるって分かったんですか?」


「僕は生まれのおかげで人よりも魔力の探知が上手いからね、この子達が魔力を抑えていようが関係ないのさ。リーダーやガウェインにも声を掛けようとしたけど、今の状況を見るにそんな時間無かったみたいだし」


どうやらランスロットはアスクの危機に急いで駆け付けてくれたようだ。

まるで御伽話の王子様の様な登場に一瞬心が奪われそうになるアスクだったが、直ぐに正気に戻り横目でランスロットの右手に注目した。


その手には一振りの、銀色に輝く剣が握られていた。


〝アロンダイト〟ーーアーサーが持つエクスカリバーと打ち合っても刃こぼれしない程の頑強さを持つ魔剣。この剣はランスロットにしか扱うことができず、他の者は持ち上げることすら出来ない。

また使用者の望んだ形に変形するという特殊な機能が備わっている。


(あれがアロンダイト...円卓の騎士が持つ魔剣の一振り...)


「君達がどこの魔族であることはその角を見れば分かるが...1つ言っておこう。王城にまで侵入するなんて大体な真似をしたんだ、此処で命を落とす覚悟もしてきているんだろうね?」


ランスロットが放つ圧倒的なプレッシャーと殺気に暗殺者達だけではなく、アスクまで冷や汗が出てきた。


まるで自分よりも遥かに巨大な存在に上から睨み付けられるかのようなそれに、ランスロット以外の全員の時間が止まったかのような状況に陥っていた。


(退却するぞ。円卓の騎士の中でも最強と噂されるランスロットの相手なぞしてられん)


(了解、スキルを使って俺が時間を稼ごう。2人は先に脱出しろ)


プレッシャーを跳ね除けたのか、1人の暗殺者がアスクに肉薄した瞬間に煙と化し、残りの2人は窓へと全速力で向かっていく。


「こいつは俺が対処します!ランスロットさんは残りを!」


「分かった、そっちは任せたよ!」


近づいてきた相手に一瞬気を取られたランスロットだったが、直ぐに窓へと向かう2人の暗殺者へと向きを変えた。


瞬間移動と言われたら信じてしまうほどの速度で暗殺者達の前へと回り込んだランスロット。

暗殺者達はもはや逃げることはできないと悟り再び戦闘体制へと移る。


2人の内1人が上空へと飛びランスロットの脳天を狙い、もう1人は足を狙ってナイフを振るったが、どうせ避けるだろうという2人の予想は瞬く間にひっくり返された。


ランスロットは足元への攻撃は避けずに頭上の相手目掛けてアロンダイトを振るい首を刎ねた後、足への攻撃を身動きせず受け止め、傷を作るどころか逆にナイフを破壊してしまった。


(鎧を着用していたならいざ知らず、防御力が全くない筈の燕尾服にへしおられただと?)


と死ぬ瞬間まで勘違いしていた暗殺者だったが実際は違う。


ナイフが破壊されたのは燕尾服が頑丈なのではなく、ランスロットの肉体自体が頑丈であったためだ。


彼と戦った人々は、鎧を着ずに戦う事を勘違いしている場合が多いが、ランスロットは普段から動きやすい服装を好んでおり鎧を着るのはお偉いさんとの謁見などでアーサーに恥をかかせない為の配慮である。

戦闘時には鎧を脱いで身軽な状態で戦うのだがその理由は鎧よりも自分の肉体の方が遥かに硬い為鎧を着る必要性が全くないからだ。

それ故、初見の相手は油断していると勘違いして躊躇なく攻撃を仕掛け、返り討ちにされるというパターンが絶えない。


一瞬で敵を片付け、アスクを手助けしようとしたランスロットだったが「俺1人でやります!」という目を見て、アスクの実力をじっくりと観察したいという個人的な目的もあり手助けせずに傍観する事にした。


(奴は詠唱もせずに自分の体を煙に変えた。つまり煙化は魔法ではなくスキルによるものか...)


元々魔法放つには詠唱というプロセスが必ず必要になる。

これは魔法を開発した悪魔達も例外ではなく、簡単に言えば〈魔法を放つ〉結果を〈詠唱を行う〉契約で行っているからだ。

そのため魔法を使うには必ず何か言葉を発しなければならず・・・・・・詠唱をせずに魔法を使うことは不可能・・・・・・・とされている。


「よくも仲間を...!!ランスロットォォ!!」


煙から人の形へと戻った暗殺者がナイフを片手にランスロットへと突っ込もうとした。が、アスクがその間に割って入った。


「お前の相手は俺だ」


「どけぇぇ!!」


アスクは暗殺者が振りかぶったナイフの側面に拳を当て、そこから雷を流した。

バチッ!と大きな音が鳴ったと同時に、暗殺者はその痛みからナイフを手放してしまった。


再び煙へと変化して距離をとろうとする相手の隙を、アスクは見逃さなかった。


(ランスロットさんに届かないくらいの範囲で...)


放雷サンダーバースト!!」


アスクは腕を交差させ体の一点に雷を溜め込み、大きく腕を伸ばすと同時に溜め込んだ雷を一気に拡散させた。


「体が...痺れ...る...」


「やっぱりな!お前のスキルは自分の体を煙に変化させる能力。拡散した煙に攻撃を当ててもお前自体にはかすり傷程度の大したダメージにはならない。だが!拡散した煙全て・・・・・・・に攻撃すればお前の体全体に攻撃したのと同じだ!」


「そんな...力ずくの方法で...!!」


体が痺れながらも未だ反撃しようとする敵だったが、アスクのスピードには敵わず頭を鷲掴みにされ地面に叩きつけられてしまった。


「終わりだ!雷爪!」


「ガッ...!アァァァァァァ!!」


頭に直接電撃を流され、暗殺者は白目を剥いて気絶してしまった。


(聞こえちゃいねぇだろうが取り敢えず安心しろ。お前には聞くことがあるからな、まだ殺しはしねぇよ...)


突然の強襲はアスク達の勝利で幕を閉じた。


彼らが何故アスクを狙ってきたのか、何故アスクが此処にいることを知っていたのかなど聞かなければならないことがある為、一先ず生捕りにした1人をハクア達の元へと運ぶことにした。


_______________________________________________


「...ッ!此処は...何処だ...」


目を覚ました暗殺者は、体の身動きを封じられ玉座の間へと連行されていた。

そこには己の仲間を殺したランスロットと己を負かしたアスクだけではなくアリア、アーサーとガウェイン、そして王とハクアもいた。


自分では到底敵う相手ばかりではないこの空間で、暗殺者は自害するために奥歯に仕込んでおいた毒薬を飲み込もうとした。が、不審な挙動に気付いたガウェインによって、手を口に突っ込まれ毒薬取られてしまった。


「できれば穏便に済ませたいのです。自害などはなさらぬよう、どうかお願いします」


温和な性格を思わせる優しい言い方ではあったが、その裏には圧倒的な〈圧〉があり、暗殺者は萎縮してしまい体を振るわせ恐怖した。


「ガウェイン。あまり怖がらせては可哀想でしょう?」


「リ、リーダー!怖がらせるつもりなどなかったのですが...」


「ただでさえガウェインは体がデカいんだからさ、そんな奴に圧をかけられたらそりゃ怖いよね」


「揶揄わないでください!ランスロット!」


「そこまでにせよ...」


ワーギャーと円卓の騎士が騒いでいたが、王の言葉によって玉座の間全体が一瞬にして静まった。


静かになった空間で、王は謎の水晶を手にして暗殺者への尋問を開始した。


「魔族の暗殺者よ、答えてもらうぞ。何故アスク殿を狙ってきたのかね?」


「答える訳...ッ!」


当然ながら喋ってしまっては裏切りになってしまう為「答える訳がない」と発言しようとした暗殺者だったが、王が手に持っていた水晶が光ると同時に、何故か途中で発する言葉が変わってしまった。


「魔王様の、そして我が師である魔星将〈銀狼〉様に、これから先脅威になるであろう冒険者をしまつしろと命令されたからだ...」


(何故私は喋ってしまっているのだ...!!)


「ふむ...では次の質問だ。何故、アスク殿が今日此処にいると分かったのかね?」


「そ...れは...密偵から...今日此処で開かれるパーティーに...多数の有望な冒険者を招くとの情報があったからだ。そいつを最初に狙っただけで上手くいけば他のAランク冒険者も始末する予定だった...」


「つまりアスク殿だけを狙ったわけではなく、偶々最初に狙ったのがアスク殿だっただけだということかね?」


「そうだ...」


「そうか...もう十分だ。地下牢に連れて行け」

 

質問が終わると同時に、光り輝いていた水晶はその光を閉ざしてしまった。

王が持っていた水晶は〈真実の宝玉〉と呼ばれる、〈神造兵器しんぞうへいき〉だ。


〈神造兵器〉とは、神によって造られた武器や道具であり、稀にダンジョン内に隠されていることしか判明していない。

難易度の高いダンジョンにはより強力な〈神造兵器〉が隠されていると予想されているが、現在でも攻略されていないダンジョンは多く、回収してきた冒険者は莫大な名誉を授けられることになっている。


しかしどの〈神造兵器〉も強力な力を秘めているが、使用するのに莫大な魔力を使用するのと、強力すぎるが故に、頻繁に使ってしまっては民からの反感を買いやすいとのことからどの国も使用することは中々ない。


「あれがこの国が持つ〈神造兵器〉の1つか、初めて見たな...」


「あいつ、対象の相手に真実しか喋られなくするっていう凄い効果なんだが、使うたびに私の魔力の4分の1くらい持っていく大喰らいなんだよな...」


「あれ、たしか相棒の魔力量って...」


「最近測ってないからなぁ...まぁ〈神造兵器〉1つ使うだけでとんでもない量が必要になるって事だけ覚えときな」  


尋問が終了して1段落着いたアスク達の元にアーサー達とハクアがやってきた。


「悪かった、アスク。城の中で起きていたというのに気づかなくて...」


「我々もです。ランスロットが気付いていなかったらどうなっていたことか...」


「2人とも謝罪は必要無し!ですよ。何とも無かった訳ですし...それにあいつらの大量虐殺を未然に防いだ訳ですから!」


ちからこぶを作るポーズをして気丈に振る舞うアスクだったが、ハクアの目には疲れが溜まっているようにしか見えなかった。


「じゃあ俺は戻りますんで。あ、今度の依頼、一緒に頑張りましょうってガレスさんとガヘリスさんに宜しくお願いします!」


そうアスクが言い終えると、アリアがアスクの肩に手を置き魔法を唱える準備をした。


「じゃあ転移するぞ。いつもの宿でいいな?」


「ちょっ!ちょっと待て相棒!俺はまだ気分が優れ...」 「飛べ」


一瞬にして消えてしまった友人のこれから先の事を考えると可哀想という感想しか浮かび上がってこなかったが、ハクアはガウェインの方へと向きこう告げた。


「アスクとガレス達は仲良くできると思うか?」


「大丈夫ですよ。なんせ私の兄弟達ですからね」


ニコッ、と太陽の如き笑顔を浮かべるガウェイン。

その後ろではランスロットが腕を組んで難しい表情をしていた。


(アスクさんがスキルを使った時のあの雰囲気、何処かで感じたような気がしたんだが...)


不安とはまた違った、不思議な感覚に包まれるランスロットだった。


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