第18話 やっぱり場違いでは?

流れで服を買ってもらい、翌日に流れでバリツを出発し、王都バルディゴまでやってきたアスク。

本来なら3日程かかる筈だったのだが、山を突っ切るという御者の荒技で何とか1日で移動する事ができた。

ここに着くまでの間に馬車の中で気になっていた、招待状をなぜアーサーが持っていたのか問いただした所、動ける様になって直ぐにアスクがバリツに向かってしまった為、診療所に招待状を届けに来ようとしたハクアが気を利かせてアーサー宛に招待状を送ってくれたからだった。

自分のせいでまたもや借りを作ってしまったアスクはアーサーに謝罪と感謝を述べると共に、恐らくこれから自分に説教するであろう親友にどう言い訳しようか考えるばかりであった。


「今から王城に入るっていうのに、なんだ?その面は」


「いやぁ、ハクアと顔を合わせずらいなぁって思ってさ。つうかいつのまにかそんなドレス、用意してたんだよ」


「昔からパーティーや式典に呼ばれることは多かったからな、こういったドレスは何着か揃えてある。

...何か言うことがあるんじゃないか?そこまで甲斐性なしでも無いだろう?」


「...ハァ、勿論似合ってると思ってるさ。それ以上に招待状の件がだな...」


ワインレッドのタイトドレスに身を包んだ相棒を褒めると同時に、懸念していた男の声が聞こえてきた。


「あ!見つけたぞアスク!動ける様になったからと言って直ぐに別の街にまで行く奴があるかぁ!!」


噂をすればなんとやらと言うが、こうもタイミング良く現れると運命的なものかと勘違いしてしまう。

招待状を本人に直接送れなかったことよりも、アスクの体の心配を先にするあたりにハクアの優しさが垣間見える。


言われていることが正論すぎて反撃の余地もないアスクは、王城前の人目がつく場所でガミガミと怒られていたのだが、その様子を不憫に思ったアーサーが間に入りハクアを落ち着かせたお陰でその場は丸く収まった。


しかしハクアは相当心配していた様で、城に入ってからもしつこくアスクに説教していた。


「大体、何日も動いてなかった奴がいきなり模擬戦なんてするもんじゃないだろうが」


「あの戦いを間近で見て、早くアーサーさんと戦ってみたかったんだよ。お陰で俺は前よりも強くなったって実感が湧いた、だから直ぐに戦って正解だったんだよ!」


「早く戦わなくても一緒だろうが!万全の状態で戦ってこそ、自分の未熟な部分も見つけれるだろ!」


「まぁまぁ、アスクさんもハクアさんも落ち着いてください。もう城の中ですから、ね?」


「ハクアはアスクが大怪我して帰ってくるといつもこうだ。まるで恋人だな」


「やめろ!」 「やめて下さい!」


ギャーギャーと騒ぎながらも長い廊下を抜け、パーティー会場となっている広間についた。


アスクからすれば城かと見間違えるほどの〈円卓の騎士〉のクランハウスも十分に広い間取りの部屋が多かったが、流石に本物の城はレベルの違う広さと煌びやかさだった。


「取り敢えず俺は父上に挨拶してくるから、お前は大人しく用意された飯でも食べてろ。いいな?」


「私も少し挨拶に回ってきますね。また会いましょう、アスクさん」 


そう言ってハクアとアーサーは人混みの中へと消えていった。

残ったアスクとアリアは王への謁見までテーブルの上に用意された料理を少しずつ食べ進めることにした。


と、言ったものの、非常に美味な料理をゆっくりと味わう暇も無く...


「おや、アリア殿に、そちらの方は確か...あぁ!この間の防衛で活躍したアスク殿でしたな!いやぁ本当に見事な活躍だったそうで...」


防衛で活躍したアスクを褒めたたえる、様々な宝石で出来た装飾品を身につけた貴族や...


「アスク殿はやはりSランク冒険者を目指すのですか?でしたらわたくしの提供するポーションを是非...」


将来有望と見込んで自分の作る商品を勧めてくる商人や...


「アスクさん、活躍は聞き及んでいます!Aランク冒険者なのにとても強いそうですね。どうですか?私達のクランに入りませんか?」


クランメンバーに招待してくる冒険者達に囲まれてしまい少々イライラが募ってきたが、今後のことも考えてなるべく温和な雰囲気を出して会話に専念していた。

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クランメンバーへの招待はやんわりと断り、商人や貴族とはコネを作るためにもじっくりと話したが、何十人とも話していれば流石に疲れも溜まってしまい、アスクは酒に酔ったふりをして風に当たってくると口実をつけ、一人でゆっくりと過ごすためにバルコニーへと向かった。


ようやくゆっくりできる、と心の中で呟くアスクだったが、ふと右を見ると深い青色のドレスに身を包んだ銀髪の女性がそこにいた。

どうやらあちらもアスクに気づいたようで、話そうとしてか距離を詰めてきた。


「あの、アスクさんですよね?兄様から話は聞いています。私は...」


「あ、兄?それよりも、ち、近くないですか?もうちょっと離れても話はできますよ?」


「す、すみません、はしたなかったですね。こほん、私はエルトレス・グランツ。ハクア・グランツの妹です」


「え?ハクアの妹ってことは...」


「はい、この国の王女です」


彼女の言ったことに驚き、一瞬動きを止めてしまったが、脳が理解した瞬間、瞬時に跪いた。

アーサーとの戦いで成長した反射速度が初めて役に立つ瞬間だった。


「申し訳ありません!王女と知らぬ事すら無礼であるのにも関わらず先程の言葉遣い、なんと詫びればいいか...」


「あぁ!大丈夫です。兄様への接し方と同じにして下さい」


「し、しかし、ハクア...様は友人ですので、エルトレス様へ同じ様に接する訳には...」


「では今から我々は友人です。これでいいでしょう?」


「え、えぇ...」


己の親友よりも強引に話を進める目の前の女性に若干戸惑うアスク。


7年前、アスクが冒険者になる為にブランを訪れた時のことだが、友人になってからハクアがこの国の王子であることを聞かされ、その時も今と似た様なやり取りをしたことを思い出してアスクは少し微笑み、王女の要求を呑んだ。


「分かりました。これからはエルトレス様も友人として接しますね」


「エルトレスじゃ呼びにくいでしょうから気軽にエル、と呼んでください」


「分かった。エルはハクアからどんな風に俺のことを聞かされてたんだ?」


「兄様には内緒ですよ?実は...」


友人になって直ぐの時は「初めての友達だぁ!」と城の中を駆け回ったこと。

自分が騎士団長を任命されてからは、アスクの隣で戦える!と喜んでいたこと。

アスクが冒険者になってからはアスクの為に危険すぎない依頼をギルドまで持っていったこと。

アスクが大怪我をして帰ってきた時は、城に戻ってきてからも怒りつつ、心配で書類仕事が手についてなかったこと。(これはアスクが成長してからも毎回らしい)


どうやらハクアはアスクの事が友人として大好きな様で、ハクアがずっと自分のことを考えてくれていたことを知ったアスクは「あのバカ...」と呟きつつも満面の笑みを浮かべつつ赤面していた。


「これからも兄様と仲良くして下さいね?それと、兄様だけでは無く私とも仲良くして下さいね?」


「えぇ、勿論ですよ。友人、ですからね」


身分など忘れゆったりと談笑をしていた二人だが、どうやら広間中央ではすでに、今回のメインイベントでもある舞踏会が始まっていた。


自分には縁がないな、と思いそのままバルコニーにいようとしたアスクだったが、エルトレスに手を引かれ広間中央へと連れてかれてしまった。


「ちょ!俺はダンスなんて分からないぞ?」


「大丈夫ですよ、私がエスコートしてあげますから」


「はぁ...兄貴よりも無茶振りが過ぎる王女様だな」


流れには流されてしまえと言わんばかりにそのまま踊るアスク。

踊れないといいつつも、お得意の反射速度を生かしてエルトレスの足を踏む事なくステップを踏み続ける。

内心では早く終わってほしいと思いつつも、目の前の友人があんまりにも楽しそうに微笑むので仕方なく柄にもないダンスを、途中アリアとエルトレスが変わるアクシデントもあったが、何とか続ける事ができた。


(踊れないです、とか言ってご主人様も何だかんだ楽しんでるけど...気づいてるのかな?3つの魔力反応が近づいてきてる事に...)


_____________________________________________


「ターゲットは?」


「今は呑気にダンス中だ。奴が1人になり次第、3人で一気に殺るぞ」


「「了解」」


絢爛なる舞踏会に、闇に紛れて3つの影が潜んでいた。

彼らが狙っているのは果たして...

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