第14話 強くなれ
「...うぅん」
契約を終えたアスクはベッドの上で目を覚ました。
精神世界での時間が現実の時間との乖離がどれくらいなのかは分からないが、体が動かせるようになっていたことから数日は経過していたのだろう。
ベッドから出て動こうとした瞬間、部屋に入ってきた女性に止められてしまった。
「ちょっと!まだ動いちゃ駄目ですよ!」
「イッデェ!もうちょい優しく...」
「今からハクアさんを呼んでくるので、そのまま安静にして下さいね!」
アスクが要望を告げる前に女性は部屋を早足で出て行ってしまった。
安静にしてといいながら乱暴にベッドに寝かせるのは如何なものか。
「やっと起きたのか!体の調子はどうだ?」
慌ただしく入室してきたハクア、その後ろには自分と同等の傷を負っていた筈のヘリアがいた。
「動かせるくらいかな、ヘリアさんはもう大丈夫なんですか?」
「えぇ、おかげさまで。アスクさんも目を覚まして良かったです。あの戦いから3日も経っているんですよ?」
やはりというべきか。
精神世界では契約にそんなに時間を掛けた記憶もないのに、現実世界では3日も経っていた。
多少の時間乖離は仕方ないと勿体無い気持ちを胸にしまい、街や人々の被害状況を聞いた。
「それが...」
「まさか...甚大な被害が?」
「いやその逆なんだ。街に被害は無く怪我人も南門を守っていた人達だけで今回の侵攻は終わったんだ」
どういうことだ?
と頭の上に?マークが浮かんでしまう。
自分やヘリア、それに他の人員も大怪我を負っていた。街に被害が出ずとも他の門を守っていた人も怪我を負っていておかしくないはず。
「調べて分かったんだが攻撃されていたのは南門だけだった。どうやら空間を歪めるスキル使いがいたらしく、そいつのせいで増援の連絡が俺たちには届いてなかったんだ」
「その為私達からすれば他の門も同じような大群に襲われていると思い、団長達はどこの門も襲撃を受けていないと思う。という状況になっていたんです」
つまり敵は最初から兵力を分散させず、南門だけを突破するつもりで魔星将を2人も送り込んできたということだ。
アーサーの到着が遅れていたら、アスク達は全滅し街にも壊滅的な被害があったことだろう。
「そうだったのか...」
「取り敢えず、お前は休んでおけ。ドクターによるとあと2日程で完治するらしいから、それまでゆっくりしとけ」
そう言ってハクアが退室していった。
見舞いに来た親友を見送ってから残っているヘリアへと向き直る。
顔にはでていないものの、手をずっとモジモジさせていたことから何か話たいことがあるのだろうと思い、ハクアが出て行った後に話を聞こうとしていた。
「何か話したいことでもあるんですか?」
「あの...その...今回は、本当に助かりました。アスクさんの助けがなかったら恐らく...私は死んでいたでしょうから」
「今回の戦いで痛感しました、私自身の未熟さを。多分アスクさんも現状に満足はしていないでしょう」
「えぇ、アーサーさんの戦いをみて分かりました。それに悔しかった。自分1人で勝てないことも、最後までアイツを倒せなかったことも」
「だから...」
拳を握る。
最強を目指すなどと言っておきながら、これでは駄目だ。
もっと強く!
もっと強く!!
1人でアイツを倒せるくらいに!
あの人を...あの背中を超える為に!
「一緒に強くなりましょう!アスクさん!」
「あぁ!」
固く握った拳を合わせる。
2人が目指す場所は違くても、先の戦いで受けた傷も屈辱も、抱いた願いも同じだった。
今よりも強く!
1人は最強になる為に、1人は憧れの隣に立つ為に。
「あースッキリした。頑張りましょうね、同志!」
どうやらアスクはヘリアの中で知り合いから同志にランクアップしたようだった。
ヘリアが退室して少し経ってからベッドに寝転がり、己の頭の中にいるであろう悪魔に問いかける。
(成長の幅を増やしたのはいいがどうやって今より強くなればいいんだ?今まで通り地道に鍛錬すればいいのか?)
(いいえ、それでは駄目です。確かに鍛錬は大事ですが、ご主人様は鍛錬で成長できる段階をもう超えてしまっています)
(ならどうするんだ?)
(簡単ですよ。強い敵と戦えばいいんです。自分よりも強い存在と戦うことは鍛錬よりも過酷な修行になりますから!)
何ともまぁ簡単に言ってくれる、と心の中で思う。
確かに強い敵と戦うだけならば簡単だろう、しかしそれは同時に自分の命を危険晒せと言っているようなものだ。
強くはなりたいが、せっかく一度救ってもらっている命を捨てるような真似はなるべくしたくないのがアスクの本音だった。
(極限の状態でこそ人間は進化する。頑張ってね!ご主人様♡)
頭の中に声が聞こえてくるだけなのでグレイスの顔は見えないが、ウインクをしながら言っているのが目に浮かんできた。
「やってやるよ。まずは爆速で体を治してやらぁ!!」
「...診療所ではお静かに願います。ね?」
「あ、すいません...」
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