第12話 魔星将の強さ
タバスを撃破したのも束の間、アスクの目の前に突如として魔星将の1人〈要塞〉が現れる。
(体力は相当消耗しちまってるが...やるしかねぇ!)
「オラァァァァ!!」
左足に力を込め一瞬で敵の目の前へ飛び込むアスク。
そのままの勢いで殴りかかる算段だったのだが、それは叶わなかった
「フンッ!」
アスクの右拳での攻撃を避けた〈要塞〉は、お返しとばかりにアスクの腹部を右拳で殴った。
自分の攻撃とは比べものにもならない、凄まじい威力の拳にアスクは吐血した。
「な...なんて奴だ、俺の攻撃を軽く避け、たった一撃でここまで..」
その場のヒューマン全員が魔星将の圧倒的なパワーとスピードに驚愕していた。
「流石は〈要塞〉様だ!この戦いは俺たちの勝利だぜ!!」
「...ッこいつら!急に勢いづきやがったぞ!」
魔星将の登場により勝利を確信した魔族達が士気を高め一気に殲滅しようとしてくる。
「ヘリア副団長!他の部隊に増援を頼んだのですが、応答がありません!恐らく他の門も同等の軍勢に襲撃されていると思われます!」
じつはタバスが動き出した時点で魔道具を使い、他の門を防衛しているハクア達に増援を依頼していたのだが一向に返事が来なかったのだ。
(どうする...アスク殿を助けに向かわねばならん、だが今ここを離れれば部下達が...!)
「ヘリア副団長!悩んでいる場合ではありません!今アスク殿を失えば魔星将は次に我々を狙うでしょう!ですから!」
結局のところ誰から死ぬかの問題なのだ。
だが、今ここを部下に任せ、アスクと共に魔星将と戦えば希望があるかもしれない
部下を助け、手を貸してくれた冒険者達を助け、強敵を倒してくれたアスクを助ける、そんな叶うはずのない考えを捨てずにはいられなかった。
悩んだ末にヘリアは選択した。
「お前達、ここを頼んだぞ!」
部下達を
(そうだ、何時も戦場で団長を信じていた様に...
「ハァ...ハァ...噂に違わぬ強さだ。Sランク冒険者にすら匹敵するというのはどうやら本当の様だな」
「お褒めに預かり光栄だ。悪いが、こちらもあまり時間を取る訳にはいかない状況でな。直ぐに息の根を止めてやろう」
走れ!走れ!!走れ!!!
彼を守る為に!!!
「さらばだ!」
「...クソッ!」
無情にもアスクへと振り下ろされる拳。しかしその拳が目標へと命中することは無かった。
青き髪の剣士が、そこには立っていた。
「ヘ、ヘリア副団長どうして...」
「貴殿を救うことが、この状況を打開する唯一の策なんだ。さぁ立ってくれ、一緒にこいつを倒すぞ!」
満身創痍だった筈の体に力が溢れてくる。仲間と共に戦うことがこんなにも安心できるなんて、ずっと1人で戦ってきたアスクには初めての経験だった。
他の誰かに自分の力を期待されて、信頼される。
たったそれだけの事なのに、不思議と立ち上がれる。
この信頼に応えなければ、という気持ちになる。
ずっと戦っていたヘリアも、タバスと戦い強敵との連戦になるアスクも、もはや満身創痍。
万全の状態ならまだしも、Sランク冒険者に匹敵する魔星将にボロボロの状態で勝てる筈ない。
だが2人は、不思議と負ける気がしなかった。
隣に並ぶ相手を信じていたからだ。
「行くぞ!アスク殿!!」
「あぁ!!」
2人が同時に飛び出す。
右からアスク、左からヘリアが仕掛ける。
「水流剣!!」
「雷迅拳!」
同時に攻撃を当てる2人だったが〈要塞〉はビクともせず、無傷で2人の攻撃を受け凌いでいた。
少しのかすり傷がつくことも無かった為2人は驚愕し、反撃を警戒して一度離れる。
(全くの同時に攻撃を当ててくるとは...さっきの口ぶりからしてこいつ自体はSランク冒険者ではない、そしてもう1人の青髪の女は確かここの騎士団の副団長。
本来なら私に敵うはずもないが...念の為1人ずつ確実に殺すとしよう!)
どうやら〈要塞〉は既に消耗しきっているアスクを先に殺すことにしたようだ。
だが、〈要塞〉は直ぐにその判断を間違えていたと認識することになった。
「激流斬!」
「何!?」
アスクを攻撃しようとすればその隙をついてヘリアが攻撃してくる。
ヘリアを攻撃しようとすればアスクが攻撃をしてくる。
思う様に動くことができず、徐々にダメージを負っていく〈要塞〉だったが、この状況を覆す為に動きだす。
「どれだけ攻撃を浴びせようとも、我が肉体に傷はつかん!〈要塞〉の名を受けし者として簡単に負ける訳にはいかん!そして、茶番もここまでだ!貴様ら2人纏めて、あの世に送ってやる!」
勢いに乗っていたアスク達も、目の前の敵が突如として発した圧倒的な威圧感に気圧される。どれだけ攻撃を浴びせようとも、状況は未だアスク達が不利。
肉体的なダメージが酷く、本来の力の半分も出せないこの状況。既に疲労の極致ともいえるこの体ではまともな攻撃すら出せない。
だが、そんな訳にはいかない!
2人の気持ちは重なっていた。
例えボロボロの体だったとしても、守らねばならぬものがある。叶えねばならぬ野望がある。
「騎士団の副団長として!」「最強になる為にも!」
「「ここで貴様を/お前を討つ!!」」
次の一撃に全てを込める事しか2人にはできない。
まさに、乾坤一擲となる一撃。
2人の心はまるで凪の様に穏やかだった。
自分の隣に、共に戦ってくれる人がいるから。真っ直ぐに自分と同じ敵を見据えていると分かるから。
「ハァッ!」 「ダァッ!」
二つの蒼光がまるで流星かの様に、一直線に敵へと切り込む。
その光を迎え討つべく、〈要塞〉も突撃する。
激突した三者が数メートル先で止まる。
と、次の瞬間、膝をついたのはアスク達だった。
やはり力及ばず、敗北する結果となってしまった。
「敵ながら見事だった。Sランク冒険者に迫る、素晴らしい一撃だったぞ」
〈要塞〉が2人に近づく。確実に止めを刺す為の歩みだったが、その慎重な考えが〈要塞〉に痛手を負わせることとなる。
「何をもう勝った気でいるんだ?」
「お前達がもう立てないことは分かる。無駄な足掻きはよせ」
「無駄な足掻き?それはどうかな?」
そう、敗北したのはあくまで力のぶつかり合い。
〈要塞〉の立っていた場所の頭上、遥か上空に巨大な水球があった。
それがヘリアの合図と同時に降り注いだ。
「
「な、何という勢い!立つことが...できん!!」
圧倒的な水量に押しつぶされては、流石の魔星将も立つことができないようだ。
そう、これこそがアスク達の作戦だった。
正面からぶつかってはどう足掻いても勝ち目がないと分かっていたアスク達は、ヘリアのスキル
「そして、水は雷を通しやすいよなぁ!!」
「ま、まさか...!最初からこれを...!!」
「喰らえ!
アスクが指を振り下ろすと、〈要塞〉目掛けて雷が降り注いだ。
圧倒的な水量+放電により感電し、倒れる〈要塞〉。
直後、アスク達も力を抜き、地面へと崩れ落ちた。
極度の疲労と、直前まで作戦がバレてはいけないという緊張からの解放で気が抜けて立っていられなくなったのだ。
「やりましたね、ヘリアさん」
「えぇ、私達の勝利です」
拳を合わせる2人。
安堵の表情を見せ合う2人だったが、その表情が長く続くことはなかった。
「な、何ぃ!?」
「あれを受けて...まだ立つのか...」
そう、〈要塞〉は倒れただけで死んではいなかった。
「ふぅ、危なかった。私でなければ今ので死んでいただろうな」
〈要塞〉は瀑布を喰らいアスクの大放電を受け、感電しながらも仁王立ちの構えをとった。
そして発動するスキルこそ、〈要塞〉たる所以なのだとアスク達は知ることになる。
「私はある構えをすると一定期間、無敵になるのだ。このスキルこそ、私が〈要塞〉と呼ばれる所以。
これこそが私が魔王様より授かった力だ!!」
「クソが...!」
とは言っても、無敵になるまでに受けたダメージが消えるわけではない。
息を切らしながら〈要塞〉は目前の2人を見下ろしながら称賛した。
「実に、見事な作戦だ。自分で言うのも何だが、私にここまでのダメージを負わせるのはそう簡単なことではない。これをあの世で自慢するといい」
〈要塞〉が拳に魔力を込めながら2人の元へと歩き出す。
ヘリアに止めを刺そうした瞬間、右腕にピリッと電流が走った。最後の力を振り絞ってアスクが殴ったからだった。
「殺すなら、俺からにしな。女を先に死なせたんじゃ男が廃るって師匠に教わったからよ...」
「いいだろう、先に貴様から殺してやる。せめてもの情けだ、痛みなく一瞬で殺してやろう」
目標を変え、アスクの目を見据える。再度拳に魔力を込め直す。
その行動一つ一つに相手に対する敬意が表れていた。
「さらばだ、強き戦士よ...!!」
万力の力を込めた拳がアスクの腹部に突き刺さる直前、パリンと何かが砕ける様な音がした。
次の瞬間、〈要塞〉の右手が切り落とされていた。
あまりにも一瞬の出来事だった為、速さに自信のあるアスクですら視認できなかった。
瞬きを終えたアスクの目に映ったのは、銀の鎧に身を包んだ1人の騎士だった。
「まさか、もう戻ってきたのか...!」
「ヘリア副団長と、もう1人の君は確かアスク君だったね。僕が到着するまで良く持ち堪えてくれた。
ここから先は任せてくれ」
聖剣に選ばれた騎士、最強のクランを率いる冒険者。
Sランク2位のアーサーが戻ってきたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます