第10話 侵攻
対策を立てた日から4日後
エルミラからの情報が正しければ今日、カルディナの北大陸を統治している、魔王アウスラグの軍が侵攻してくる。
あれから冒険者ギルドの協力を得ることができ、壁も街の武具屋などが加工してなんとか補強することができた。
アリアとは街内部への結界を張る為に別れ、アスクは一人指定された南門へと到着した。
そこには既に副団長ヘリアとその部下達、さらに冒険者ギルドから派遣された冒険者達がいた。
「お、アスクも来たな!生き残ったら一緒にギルドで酒でも飲もうぜ!」
「戦う前からもう酒飲み気分かよ、タルク。死ぬんじゃねえぞ!」
アスクは顔見知り達と何度か話しながら、最前線に立つヘリアの元へと向かった。
騎士団員達は既に陣形ができている様で、最前線をヘリアが、その後ろの中衛を団員達、最後の砦をギルドの冒険者達に任せた形になっていた。
数でいえば冒険者達が圧倒的に多いので余程の事が無ければ門を突破されることは無いだろうとの事だ。
「ヘリア副団長、アスク殿が到着しました」
「分かった。アスク殿!少しいいか?」
「何か作戦がある感じですかね?あるなら俺はそれに従いますけど」
「いや、作戦という作戦は特に無い。私と貴殿の二人体制で最前線を抑える形になるというだけだ」
アスクは驚いた。
何故なら4日前の態度からして絶対に信頼されて無いと思っていたからだ。
多分後衛に混ぜられるだろうなぁ、と思っていたアスクは何故かとヘリアに聞いてみる。
「何故信頼できるのか、ですか?そんな事決まっているではないですか。ハクア団長が貴殿を信頼している、それだけで私が貴殿を信頼するには十分すぎます。あの時反対したのは、仮にも、冒険者だけに任せてはいけないという、騎士団としてのプライドの問題ですから」
どうやら嫌われていた訳ではないと安心したアスク。
次に何故この陣形にしたのかが気になったので聞いてみる。
「確かに、雑魚が来るのであれば団員や冒険者の方々に任せればいいでしょう。ですが、事前情報で魔星将が来ると分かっている以上、我々二人がかりでしか止められないという判断をしたからです。」
成程、とアスクは納得した。
魔星将
五つある魔王軍にそれぞれ3人ずつ存在するとされている、軍の最高戦力。
その実力はSランク冒険者に匹敵する者もいると言われている。
そんな奴がもし、この南門を攻めてきた場合。
一般団員達を前衛に置けば、確実に全員が殺害される。
そんな最悪の事態を起こさない為にも、実力が頭抜けている二人が最前線に立つ陣形にするのは当然だろう。
「安心してくれ、城壁の上から弓部隊の援護もある。我々が取りこぼした雑魚は後ろに任せれば良い。
我々二人は目の前の相手だけに集中するぞ、いいな」
「オッケー、了解っす。テメェら!気合い入れて!街を死守するぞ!!!」
「「「「おぉぉぉぉぉ!!!!!」」」」
「来たぞ!」
街道の遠くに、転移門が開かれる。
そこから多数の魔族と共に、普通の魔族よりも3回り程巨大な魔族が現れた。
「魔王軍、進軍せよ!目の前に立ち塞がる虫共を、一匹残らず殺しつくせぇ!!!」
ざっと数えて1000体程もいる魔族が、巨大な魔族の号令で一斉に襲いかかって来る。
「くたばれヒューマン共ォ!!」
「根こそぎ殺しつくせぇ!!」
向かってくる魔族達を、アスクとヘリアは最小限の動きで仕留めつつ、後方に流れる量をなるべく減らす様にしていた。
雑兵達に体力を使っていては、巨大な魔族や魔星将が来た際に体力切れでの敗北をする恐れがあるからだ。
それでも1000体の魔族を2人だけで全て、最小限の動きで倒すことは不可能だ。
どれくらいの時間が過ぎたか分からないが結構な数を倒した。
が、こちらに向かってくる魔族達の数がまるで減っている様には見えなかった。
現時点で、後方の騎士団は3分の1、冒険者は2分の1もの数の負傷者が出ていた。
状況を変化させる為にアスクは一つの提案をした。
「ヘリアさん!ここで俺達2人が粘っていてもジリ貧になるだけだ!」
「何か考えがあるのですか?」
「ヘリアさんは橋に残って門を死守してくれ、どうやらあのデカブツは魔星将じゃねえようだし、俺は最高速度で奴をぶちのめしてくる!」
「無謀すぎます!相手の力量すら分からないのに無闇に突撃すべきではありません!」
「だとしても、このまま膠着状態が続けば潰されるのは俺たちだ!ここを守らなければ沢山の市民達が犠牲になる!だったら多少無理をしてでも!」
「ここを守っていれば、他の部隊が来る手筈になっています。無理は禁物です!」
「これ以上どう守れって言うんだ!俺達だけで前線を張っても後方に何体もの魔族が流れてる!既に何人も負傷者が出ているんだ!現状を変えなきゃ全員死ぬぞ!」
「ですが...!」
この状態が続けば確実に全員が死ぬ。
そんな事はヘリアも分かっている。
だが、アスクにそんな重大な仕事を任せていいのだろうか
そんな考えがヘリアの思考を邪魔している。
中々決断を下せないヘリアに、アスクは目を見て言い放った。
「俺を信じろ!!」
「ッ...!」
真っ直ぐにこちらを見てくるその目に、ヘリアは既視感を感じた。
あぁこの人はどこまでも、〈団長〉に似ている
と
「分かりました、信じます。門は私が必ず死守するので貴方は奴を、倒して来てください!」
「了解!!」
許可を得た
「威勢の良い奴が来たな」
雷の襲撃に、巨体が動き出した。
「こいやデカブツ、地面に倒れる覚悟はできてるぁ!?」
自分の体よりも3周程大きな敵に対しても、アスクは満面の笑みを浮かべ飛び掛かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます