第9話 対策と追憶

本来なら1日かかる距離だったが、スキルを最大限に使い、速攻でブランへと戻ってきたアスクは、ギルド本部に救助者達を預けて直ぐにハクアのいる騎士団本部へと向かった。


「話はアリアが通してあると思うが、魔族の侵攻の件でハクア殿に用がある。通っても大丈夫か?」


「はい、アリア殿から話は伺っております。どうぞ、お通り下さい」


門番の騎士に確認をとり本部内を進むアスク


日常的に本部に足を運ぶ事が多いアスクだが、このような非常事態にいつもの感覚で尋ねるほど、無神経な人間ではない。


一刻も早く対策を立てるために、ハクアの部屋である騎士団長室へと早足で向かう。


しかしアスクが部屋に着く頃には、既にある程度の対策が練られているようだった。


「我々の強さを知った上で侵攻してくるなら一方向からの侵攻は考えずらい。恐らく戦力を分散させる目的で全方位の門から攻めてくるはずだ」


「やはり部隊別に分けるのか?ギルドの冒険者たちにも救援を頼んだ方が余裕が出ると思うが」


「いや、門に戦力を集めるのも大事だが門以外にも壁をぶち破ってくる輩がいるかもしれねぇ。そういった場合の為にも壁を補強する鉱石類が必要だな。」


騎士団長であるハクアの他に副団長を務める騎士が三名、侵攻の報告を行ったアリアとユーリが部屋にいた。


「丁度いい時に来ましたねアスクさん、あなたに頼みたい事があります」


ハクアが部屋に入ってきたアスクに気付いたようで、部下の目の前ということもあってか敬語で話しかけてくる。


はっきりいって気味が悪いがハクアの面子の為にもグッと堪えたアスクであった。


「あなたには南門の守護を任せたいと思っています」


「団長!いくらプライベートで仲が良いとはいえ、Aランクの冒険者に任せきりにするのはいけません!」


ハクアの案に対して、副団長の一人であるヘリアが反対意見を出す。


「もちろん、彼らだけに任せるつもりはありませんよ。ヘリア副団長、君と君の部隊が一緒にいてあげなさい。いいですね?」 


「はい!了解しました!」


「東門はダルク副団長とベリル副団長の部隊に任せます。西門は私の部隊が担当します。ギルド所属の冒険者にも声を掛けて下さい、数はあればあるほどいい」


ハクアが順調に担当を決めていき、残りの北門を誰が守るかの疑問が残る。


「残る北門、ここはカルディナ東部からもっとも近い位置あるので敵の大半はここに攻め込んでくると思われます。故にここの守護は、リーダーであるアーサー殿が不在ではありますが〈円卓の騎士ナイツ・オブ・ラウンズ〉に任せます」



ハクアの考えは正しい、アルバが誇る最強クランに任せれば何も問題はないだろう。

作戦会議が終了して、ハクアはすぐさま作戦の概要を団員達に伝えるよう、副団長達に命令した。


「〈円卓の騎士〉には私自らが依頼しに行きます。

では、すぐに作戦に取り掛かれ!」


「「「はい!!!」」」


副団長達が退出した後にハクアがアスク達に話しかけてきた。


「すまないな、依頼が終わってすぐなのにこんな大変な事を頼んじまって」


「気にすんな、街の一大事なんだからこれくれいするのは当たり前だ」


「あぁ、なんとしてもこの街を守り抜く!と、その前に...」


「ん?どうした?」


ハクアが机の引き出しをあけてあるものを取り出した。


それはまるで白色にも見え、黒色にも見える不思議な鉱石の様なものだった。


「なんだそれ?」


「お前にGは必要ないからな、今回の依頼の前払いだ。家専属の宝石の専門家に見せたんだが、初めて見る物らしくてな。高値がつきそうだからそれやるよ」


「おいおい!何か分からないもんを俺に押し付けんのかよ!危ないかも知れないじゃねぇか!」


いきなり投げつけられた〈それ〉を受け取り不満げに話すアスクだったが、触れてみると何かが流れ込んできた。


「...んだ、これ。頭の中に何かが...」


(...は......だぞ!!なぜまだ.....だ!)

(それが.....の意思だ、お前....従って...)


(誰かが話し合ってんのか...?聞いた事ない声だが...)


「...スク、アスク!!大丈夫か!?」


「...ッ!何が起きた...?」


「あの石に触った瞬間、お前がいきなり倒れたんだ。大丈夫か?意識はハッキリしてるか?」


ハクアによると、どうやらアスクはあの石に触れた瞬間に倒れ、3分間ほど起きなかったとのことだ。


「大丈夫だ、それよりもお前はこの石に触って何もなかったのか?」


「あ、あぁ、俺が触った時は何もなかったぞ」


どうやら何者かの声が聞こえる現象は、アスクが触れた時にのみ起きる様だ。


「この石はどこで取れた物なんだ?」


「確か、山奥の村の洞窟で取れたとか言ってたな...

天使様が最後に降りたった村だ」


天使とは、創造神グラスティアによって、世界を人間の過ごしやすい環境にする為に創り出された存在。

5千年程前は人間達と直接交流していたが、ある時を境に突然姿を消し、今では神託を聞く教会で声のみが聞こえる存在となってしまっている。


(天使が最後に降り立った村か、侵攻が終わってから行ってみるか)


「何とも無くて良かったよ、ユーリ殿の慌てようが凄かったからな」


「そりゃ焦りもしますよ、いきなり倒れてしまうんですから...」


「心配かけちまったみたいだな、あんがとな勇者様」


アスクの無事が確認でき一安心したところで、各々は解散して目的地に向かった。


「俺たちは取り敢えず休息だな、体の傷を癒さねぇと。ハクアは〈円卓の騎士〉のギルドに向かうって言ってたが勇者様はどこに行ったんだ?」


「ハイドラ家に一旦戻ると言ってたぞ、今回の事を報告してから防衛に回るんだろう」


アスク達も、普段から使用している宿屋に着き、一先ずの休息を過ごした。


_____________________________________________


アスクが意識を失っていたのと同時刻。

天使が住んでいる天界で、一人の天使が〈それ〉の反応に呼応していた。


「どうかしたんですか、ミカエルさん?急に立ち止まって」


「今、何か懐かしい声が聞こえた気がしたんだ...

遠い昔に別れてしまったあいつの声が...」


「気のせいじゃないですか?私には全然聞こえませんでしたけど...」


「まぁ気のせいだろうな、なんせ5千年以上も前のころに起きたことだからなぁ...」


止めていた足を進めるミカエル。


天使長の一体であり中性的な見た目のミカエル。

彼(ここでは〈彼〉と表すが、天使達には性別が無く全員が中性的な見た目をしている)は5千年前は地上と天界を繋ぐ天門の守護をしていた。


しかしとある事件が起きてしまい、天門を閉じることになりそこを守護していた彼も役目を終え、天界に戻ることになった。


「あぁ、あの事件の時っすね。その頃の幻聴が聞こえるくらい疲れてるなら、少しは休んで下さいよ」


「お前はサボりすぎだ、ガブリエル。もう少し真面目に働け...」


ミカエルの隣を歩く天使、ガブリエル。


彼も天使長の一体なのだが、与えられた業務をサボりがちで、他の天使長達に見つかり連れ戻されては、大天使長のウリエルに度々怒られている。


「あの事件以降、真面目にやろうって意欲が湧かない

んスよ。人間を守る価値なんてあるのかなぁって...」


「それ以上はやめておけ、叱責だけでは済まなくなるぞ」


「はいはーい、分かってますよ」


遠い過去に思いを馳せつつ、2体の天使は天使長達が集う広間へと進む。


_____________________________________________


一方、どこか分からぬ場所。


ここでも1体の〈魔〉が〈それ〉に呼応していた。


「おやおや、懐かしく苛立たしい声が聞こえてきましたね」


「どうした〈しろ〉何かあったのか」


「いえいえ、何でも無いですよ。それよりも〈黒〉、〈赤〉や〈青〉達はどこへ?」


「奴等の居場所なぞ、俺が知るか。どうせ自分の領域に引き篭ってるか、受肉でもして地上に行ってるんだろうぜ」


彼等は〈起源きげんの悪魔〉。

天使達と同じく、創造神によって作られた存在。

人間に魔を教え、さらなる発展を遂げる為の存在、だった者達。


彼等は5千年前に創造神に反旗を翻し、その座を奪おうとした為、現在に至るまで力を奪われ封印されてしまっている。


「全く、協調性の無い奴ばかりで困りますよ。

これでは眷属達の苦労が偲ばれますね...」


「ハッ!アイツらもお前にだけは言われたく無いだろうな」


「何ですって?」


「何も間違っちゃいねぇだろうが、あぁ!?」


2体の〈起源の悪魔〉が一触即発の状態になり、周りに控えていたそれぞれの眷属の悪魔達が恐怖する。


「まぁいいでしょう。全員が集まらないならこの会合も、もう必要ありません。これからは各々自由に過ごすとしましょう」

 

「それに関しては同感だ、3千年程前から続けていたが最近は段々と来なくなってきたからな。俺も自分の領域で過ごすとするさ」

 

「ではお元気で〈黒〉、うっかり消滅しないで下さいね」


「心にも無いことを笑顔で言ってんじゃねぇよ...」


2体の悪魔が部屋から退出し、眷属達もそれに続く。


 



ある悪魔は地上を支配する為に


ある悪魔は今一度、神に叛逆する為に


ある悪魔は自分の楽しみの為に


着々と力を取り戻しつつある...

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