第8話 雷

「グハッ...!」


(バカな、耐久面に問題はない筈。一体、奴の肉体に何が起きたというのだ...)


腹部を貫かれ、吐血しつつ思考するエルミラ。


スピードでもパワーでも押していた筈、だというのに突然の落雷と奴の肉体の変化。

つまりこれは...


と、そこまで考えたがエルミラが結論に至ることは無かった。


「さっきはよくもやってくれたな!このやろう!」


「あ...」


なぜなら...


「おらぁ!!」


「グボゲバァ!!」


思考するよりも早く、目の前の敵の攻撃を食らってしまい、頭部が吹き飛んでしまったからだ。



「え、えぇ...」

「ふむ」


その一部始終を見てしまい、表情を見れば分かるが若干引いているユーリ。

何か思うところがあるのか顎に手を当てて冷静に見ているアリア。


二人の反応の差が凄まじいことになってしまっていた。


「なんて惨いことを...」

「そうか?あれくらいは普通だと思うが」

「な、何を言うんですか!いくら敵とはいえ命を奪う必要はない筈です!」


そーんな甘ちゃんな意見を聞いたからなのか

アリアの口から思わず溜息が出てしまう。


「こ〜の甘ちゃんが。そんなんじゃいつか痛い目を見ることになるぞ。」

「命を救うのが勇者です。例え痛い目を見ようとも、僕は自分の信念を曲げることはしません。」



ジト目でユーリを見るがどうやらユーリも自分の意見を曲げる気はないようだ。


そんな風に話していると、戦いに勝利したアスクがエルミラの体を持ちながらアリア達に近づいてくる。


「あ〜痛ぇ、ダメージ食らいすぎたなこりゃ。まぁ勝ったからよしとするか」


「あのぉ、その魔族はまだ生きているんですか...?」


短い付き合いだが、アスクがいたずらに遺体を持ってくるとも考えにくかったユーリはアスクに問いかける。


「生きてるっつーか、多分こいつそもそも魔族じゃねぇな」

「え!?」  「やはりか」 


ユーリは驚くがアリアは分かっている様子だった。


「バレてしまったか」


「え!?」

「ム...」


首から上がない状態で喋るエルミラに二人が反応する中、アスクだけが冷静に対応した。


「やっぱりな、お前、遠隔操作された人造人間だったんだな」


「正解。このモデルは自信作だったんだが、仕方ない

廃棄処分するとしますか」


恐らく体内にあるであろう音声装置からそんな声が聞こえるが、アスクはエルミラの胸ぐらを荒々しく掴み、持ち上げた。

どんな目的でここまで来たのかを調べるためだ。


「お前、何しにここまで来た。わざわざ人造人間を使ってまで来るんだ、魔王から依頼された内情調査とかの重要な任務か?」


「違う違う、さっきも言ったじゃないか。実験だよ、実験。魔王軍と私は何も関係ないよ」


ペラペラと喋るあたり本当に関係がないのかも知れないが、はっきり言って信用ならない。


アスクがそんなことを考えているとエルミラはアスクに対してこう告げる。


「信用ならないって顔してるから一ついいことを教えてあげよう。近々、ヒューマン反対派の魔王〈アウスラグ〉が軍を君たちの国へ進める予定らしい。早めに対策をしておいた方がいいんじゃないのかな?」


「何だと!それは本当なのか!」


流石にこの情報にはアスクも驚き、後ろで話を聞いていた二人もそれぞれ驚いた表情をしている。


「本当だよ、だからヒューマン達が殺されてしまう前に実験サンプルを、と思ってここまで来たのさ。

自分自身で来ても良かったんだがね、つい最近完成したこいつの試運転もついでに試そうと思ってたのさ。

そしたら運良く君たちと遭遇した訳だよ、OK?」


「まずいな、この変態が言うことがマジなら早くハクア達に伝えねぇと...!

その侵攻はいつ頃始まるんだ!答えろ!」


「あの様子だと、あと4日後くらいじゃないかな。結構な精鋭達が揃ってたよ、魔星将もいたからね。

アウスラグは今回本気であの国を攻め落とすつもりのようだよ」


「相棒!ユーリを連れて直ぐにハクアにこのことを伝えてくれ、こいつとギルドの調査員達は俺に任せろ!」


「あぁ分かった、行くぞ少年。私に捕まれ」


「え、あ、はい。分かりまし...」


ユーリの返答が終わる前に二人はアスクの目の前から消えてしまった。


「彼女は瞬間移動の魔法が使えるのか、素晴らしい才能だね。魔法なんて古臭い物を使っているが、やはり才能があるとあの領域までいけるんだねぇ」


「正直てめぇにはまだまだ聞きたいことがあるが、今回はこれで見逃してやるよ。お前本人じゃねぇなら拘束する意味もねぇしな」


そういってアスクがエルミラを地面へと落とす。


「君の寛大な心に感謝するよ、次に再会する時は私本来の姿をお見せすると約束するよ...フフフ」


「そんな約束いらねぇよ、お前みたいな変態は二度と御免だぜ。じゃあな」


熱烈なエルミラを傍目に、気絶している調査員達を担いでアスクはダンジョンを後にした。


「いいや、私達はまた会うことになるよ愛しのアスク君。その時は必ず君を私の物にしてみせるさ!!

フフフフフ、ハーッハッハッハッ!!!」


一人だけとなったダンジョンに、変態の笑い声だけが響いていた。

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