第5話 いざボス部屋へ

最下層にある一際大きな部屋、アスクの電気によるエコーロケーションでそこから生命反応を多くキャッチしたため三人は行く手を阻むゴブリンやオーガなどの魔物を倒しながらずんずん進んでいた。


「そろそろ着くぞ、いわゆるボス部屋だ」

「ここに調査員の方々がいるんですよね?」

「まだ分からねぇな、生命反応が多かっただけで魔物の巣窟かも知れねぇ。用心して進むぞ」


ユーリは剣を構え、アスクもいつでも戦闘体制に入れるように警戒しながら部屋の中へと入ってゆく。


部屋の奥、ほのかに蝋燭の灯りがつくその場所で机の上に突っ伏している男がいた。


「なんだ...あいつは...」

「調査員の方ではなさそうですね...」

「...」


ダンジョンの中とは思えないその光景に、先ほどよりも警戒しつつその男の元へと歩み寄る...


「やっと、撒き餌に食いついてくれたか〜」


「「!!!」」


男があくびをしながら立ち上がった。

ユーリとアスクはすぐさま身構える、起き上がった男の不気味な気配に、最大限のアラートが鳴り響く。


「どうも冒険者の方々、並びに勇者様。この度はわざわざ私の実験室に来ていただきありがとうございます...」

 

「何者だお前、なぜ俺たちの素性を知っている...」


アスクは頭の中で思考を張り巡らせる。


男の奥、暗闇の中で蠢くものがあった。

姿形からして恐らくはギルドの調査員であろう4人がいる。

しかし男を含めた5人しかこの部屋にはいないい、ならばあの生命反応の数は...?

男から発せられるこの禍々しい気配、恐らくは〈魔族〉。

ここはアルバにあるダンジョンの筈、なぜ魔族が、ここに、なんの目的で来ているのか...


そんな事を頭の隅で考えつつ、調査員を助け出すために男の情報を探りつづける。


「何者かと聞いたんだ、答えたらどうなんだ」

「私はエルミラ・バザール、高貴な魔族にして、天・才・科学者だ!!」


謎のポーズを決めつつ男が盛大に名乗りを上げる。

そのノリについていけないユーリはポカンとしていた、がすぐに気を取り直し剣を構え直す。流石は勇者だ。


「んで、その科学者さんがアルバのダンジョンのこんなところで何をしていたのかな?」

「勿論!実験だとも、実験の為のサンプルを集めていたのだがな、より強いサンプルを求めていたのでね、彼らには撒き餌となってもらったのだよ!」


セリフを放つ度にポーズをとるこの男に若干の苛立ちを感じつつもアスクは極めて冷静に事を進める。


(ユーリ、アリアと協力して人質を助けてやってくれ。あいつは俺が引きつける) 

(了解です、相手はAランククラスの調査員を人質にするような強敵です。十分に気をつけて下さいね。)


相手に聞こえないように小声でユーリに指示を出し、勘付かれないようにアリアがユーリに認識阻害の魔法をかける。


「おや、勇者はどこに...」

「余所見...」


いきなり存在が消えたかのように視界から外れたユーリを探す動作をエルミラがとった瞬間、アスクがエルミラへと飛びかかる。


「してんじゃねぇ!!!」


強烈な一撃が顔面に直撃し、壁へと叩きつけられるエルミラ。

上半身が壁に埋まったが軽い物を持ち上げるかの如くスムーズに壁から抜け出る。


「素晴らしい一撃だ!君のような相手をずっと待っていたぞ!!」

「そいつはどうも。悪いが速攻でぶちのめさせてもらうぜ!」


相手が魔物ではなく魔族でもアリアは手助けするきはない様子だ。


「さて、どんな勝負になるのやら...」


戦いの火蓋は切られた...

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