第4話 正に奇跡の料理です!

「ユーリ、テント組み立てられたか?」


アスクが鍋をコトコトと煮込みながらユーリに声をかける。

先程のオーガとの戦闘を終えた三人は地下2階層の比較的開けている場所でキャンプの準備をしていた 。


「問題ありません、テント二つ組み立てられました!」

「よーし、あとはアリアが結界を張り終われば...」

「もう終わっている、早く食事としよう」


どうやらアリアも自分の仕事を終えたようだ。

この付近に魔物が近寄らないように結界を張ってきてくれたらしい。


「こっちも丁度完成したぜ、〈グリフォン肉入りのシチュー〉だ」


アスクが三人分の皿にシチューをよそう。

見た目からして美味しそうなのだが、ユーリには一つ懸念点があった。


「作って頂いた手前言いづらいのですが...

グリフォンの肉って食べて大丈夫なんですか?」

「一回食べたけど普通の鶏肉よりも筋肉質で硬いくらいかな。そこくらいだ、問題なのは。味は美味いから大丈夫だ」


そう言ってアスクはシチューを食べ進める。

アリアは既に一杯食べたようでもう二杯目をよそっている。


躊躇しつつも口に入れるユーリ。


「...美味しい!魔物であるグリフォンの肉がこんなに美味しいなんて...」

「魔物ってだけでみんな食べないからな、意外と美味いんだぜ、そこらの肉よりな」


確かにグリフォンの肉は美味だったがそれ以上にシチューの味付けが完璧だった、とユーリは思う。

普段は貴族であるが故に一流のシェフが料理した高価な牛肉だったりを食べてきたユーリだが、それらを凌駕する味だった。

匂いからして食欲をそそる匂いなのだが、味付けで入れたのであろう塩コショウは少なすぎず、入れすぎでもない絶妙な配分で一口食べれば直ぐに二口目を食べてしまう。

たかがシチューだというのにユーリには奇跡の料理に感じられた。


「アスクさんは料理がお上手なんですね」

「まぁアリアと会うまでは一人旅だったからな、あとは自分でも食うのが好きっていうのはあるな」


黙々と食べ続けるアリアをよそにユーリはアスクに対していくつか質問をぶつける。


「アスクさんが今まで倒してきた中で一番手こずった魔物ってなんですか?」 

「一番はなんだかんだスライムの上位種だな、下位種のスライムなら余裕なんだが上位種は打撃を無効化するし体全体に魔法的な絶縁耐性があるから何故か俺の電撃も通らない。所謂天敵ってやつだな」

「それなら次は...」

「そいつはだな...」


シチューがなくなる頃にようやくアスク達も話に一段落ついたようだ。

アリアが水の魔法で鍋を洗い、持っていた小さなポーチに入れた。

明らかに鍋よりも小さなポーチに鍋が収納されたのを見てユーリは興奮する。


「そ、それって、魔法の小鞄マジックポーチですか!?一個買うのに30億Gはかかるという幻のアイテム...」

「そ、私でも買うのに苦労したけどそれだけの価値があるアイテムだよ」


魔法の小鞄は内部が完全な別空間になっておりどんなサイズのものでも、どんなに量が多くても収納してしまうポーチ。

取り出すときは所有者が取り出したい物を思い浮かべながらポーチに手を入れることで取り出しが可能になっている。

盗難防止のために所有者登録した者しか使用できないという機能付き。


というもはや小さな世界を内包しているかのような至れり尽くせりのアイテムのため、値段も異常なまでになっている。


「さ、もう寝ろ。明日も早く起きなきゃならんからな」


そう言われてテントに入るアリアとユーリ。

だが、アスクだけはテントに入るつもりは無さそうだ。


「アスクさんは寝ないんですか?」

「俺はアリアの結界を信じてはいるが万が一があるかもしれない。そんな時に対処できるように見張りはいなくちゃな」


なるほど、とユーリは納得する。

アリアは念の為にAランク以下に分類される魔物が入らないように結界を張ったが、万が一結界を壊して侵入してくる可能性がある。

アスクはそんな万が一に備えて寝ずの番をするのだ。


「ありがとうございますアスクさん、お休みなさい...」

「おう、お休み勇者様...」


何事もなく2日目の夜が過ぎようとしていた...

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