3.告白
「斎藤よ。お前、あと少しで出所らしいな。何年になる」
「はい。十年になります」
目線を下にしながら斎藤は答えた。
「そうか」
男は呟くと手に持った小さなケースから煙草を一本とりだして咥え、火をつけた。
二人の男を隔てる透明のアクリル板に、白い煙がゆらゆらとまとわりついていく。
「それで」
男が言った。
「俺に何の用だ」
斎藤は、ほんの少し顔を上げると男の顔を見つめ、
「刑事さん」
と、その重い口を開いた。
「私はこの十年の間、罪を償ってきたつもりです。人を一人殺したのですからね。当然の報いです。しかしですね、それも本当の意味で償ったとはいえません。なぜといって私は、実はもう一人殺しているのです。冗談だとお思いでしょう。それならば私の言う場所を掘り返してごらんなさい。あれは確か十五、六の少年でした。こんなこと本当は黙っているつもりだったのです。しかしですね、いざ出所となったとき、私はこの罪を告白しないではいられなくなってしまったのですよ」
後日、死体が掘り起こされ、斎藤は再び逮捕された。
この話はたちまち刑務所内の噂に上った。
「お前もとんだ馬鹿な真似をしたもんだ。黙っていればすぐ出所できたものを」
ある囚人が斎藤に言った。それを聞いた斎藤は微笑むと、声を潜めてこう答えたのだった。
「いえ、私はここが気に入ってしまったのです。元々、世俗に飽き飽きしておりましたからね。こういうこともあろうと思って、多めに殺しておいたのですよ。ここが気に入ったら延長するつもりで、今まで黙っておいたのです。しかもですね、ここだけの話ですが、私は実はさらにもう一人殺しているのです。なぜって、また次延長したいと思うかもしれないじゃあないですか。でも、告白するかは決めていません。今度は死刑にされてしまうかもしれませんからね。ま、念のためというやつです。ははは」
水槽 ユウスケ @aisuke56
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