2.計画
園内は、ボールやかっけっこなどで遊ぶたくさんのこどもたちの声で賑わっていた。
女は、敷地の端にポツンとあるベンチに座り、手に持った文庫本にじっと目を落としていた。
端的にいえば、女は
さて、お分かりかもしれないが、今、この女は本を読んではいない。そのふりをして、男児たちを眺めているのだ。そればかりではない。その男児をさらうことを思案しているのだ。男児の選別、連れ出し文句、親の位置、周囲の環境……。
この「計画すること」は、女が唯一手出しできる確かな現実であった。
あの、ボール遊びしてるこ、かわいい
あのこの母親は、あの人かな
あ、母親が親同士で立ち話をはじめた
そのうち親はきっと話に夢中になって、こどもから目を離す。そこがチャンスね
話しかけるときは、「楽しそうだね」でいいかな
そうだ、そこからボール遊びに混ざって、わざとボールを遠くに飛ばしたあと、「競争!」って言ってかけっこをしよう。親の目の届かないところまで行ったら……
でも、いきなり話かけるのは不自然かな
小さいこだから、なんとかなる気もするけど
でもそこでつまずいたら、一気にダメになっちゃいそう
そこだけ、そこだけ……
その時、女はトンッと左足に何かがぶつかった気がして我に返った。
足元をみると、ボールが転がっている。顔を上げると、たどたどしい足取りで、遠くから男のこが走ってきているのが見えた。
心臓がドキンと跳ね上がる。
女は、両手でゆっくりとボールを拾い上げた。
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