二〇一三年十一月一日 武蔵野より武良前野へ

拝啓

 そういえば、もう学園祭の季節なのですね。残念ながら仕事の都合がつかず、遊びに行くことはできません。きちんとOGらしく酒樽をもって後輩たちを襲撃すべきだったのに、それはまたの機会とします。君もまだ少なくとももう一年はいるでしょう?


 さて、京の都に琵琶湖の水をもたらしたのが琵琶湖疎水だとすると、江戸の町に多摩川の水をもたらしたのが玉川上水です。羽村からいくつかの段丘を這い上がるようにして武蔵野台地の稜線に至り、そこから尾根筋をたくみに引きまわして四谷大木戸まで到達する。国木田独歩の言う雑木林の趣を作り出したのも、この玉川上水でしょう。


 私が通っていた私立の中高一貫校の近くには、玉川上水が流れていました。最寄りの駅から学校までは、車の行きかう街道沿いを行くか、玉川上水沿いを行くかの二択でした。夏なんかは虫刺されもひどいし、天気が悪いと足元がぬかるむというので、慣れた生徒たちは皆街道沿いの通学路を選択するようになっていきます。しかし私は虫に刺されようと靴が泥だらけになろうと、玉川上水沿いを歩きました。

 あまり気の合う友達もいなかったから、自然と人気のない方を選んだのかもしれません。しかしそれもまぁ、今となっては良い思い出です。以前にも書いたかもしれませんが、武蔵野と呼ばれる地域で仕事をしていると、ふとしたときにこの玉川上水と雑木林に遭遇します。君の言う「断片的に遭遇する水の流れ」というやつですね。私もなんとなく、その気持ちはわかります。点と点がつながって線に……というより、一つの流れになる。それが心地よいのですね。


 さて、肌寒くなってきました。お体にはお気を付けください。若いからと言ってあまり無茶をしてはいけませんヨ。

                                    敬具

  二〇一三年十一月一日

                                  鈴木文子

田中淳太様

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