未来視の能力を獲得して時止めの力を持った学園一の美少女と結婚するまでに校内で死ぬほどイチャイチャすることになった話

風見源一郎

未来視の能力を獲得して時止めの力を持った学園一の美少女と結婚するまでに校内で死ぬほどイチャイチャすることになった話

 俺は図書館の片隅で、一人で『相対性理論入門』を読んでいた。周りの喧噪を遮断するように、ページをめくる音だけに集中していると、突然、頭上から声が降ってきた。


「ねえ、その本貸して」


 声の主を見上げると、そこにはクラスメイトの藤崎が立っていた。長い黒髪が肩から滝のように流れ落ち、整った顔立ちと大きな瞳が印象的だ。制服の中で主張する豊満な胸や、スカートから覗く白い太ももに目を奪われそうになるが、慌てて視線を戻す。


「あ、ああ……」


 俺は無言で本を差し出した。藤崎は本を受け取ると、にっこりと笑顔を見せた。


「ありがとう。あなた、たしか……綾小路くんだよね?」

「え……覚えてたのか」


 驚きを隠せない俺に、藤崎は首を傾げた。


「そんな珍しい苗字してるんだもの。 覚えやすいわよ」


 そう言われて、俺は少し恥ずかしくなった。たしかに珍しい苗字ではあるけど、俺みたいな目立たない奴のことを覚えているとは思わなかった。


「それにしても、こんな難しい本を読むなんて、綾小路くんもすごいね」


 藤崎は俺の机の上に積まれている他の本、『時間の物理学』や『量子力学の不思議』、そして『並行世界の可能性』を見て、興味深そうに微笑んだ。


「いや、正直言って、読むのを諦めかけてたんだ」


 俺は少し照れくさそうに答えた。


「だから、もし君が必要なら、どうぞ」


 藤崎は驚いた表情を浮かべたが、すぐに微笑んだ。


「ありがとう、綾小路くん。じゃあ、遠慮なく借りるね」


 藤崎が本を手に取ると、その瞬間、俺の視界がぼやけた。ここ最近よく起こる現象だ。目の前に藤崎の姿が映る。藤崎が図書館の出口で転びそうになり、本が床に散らばる。そして、周りの生徒たちが彼女を笑う──


「綾小路くん? どうかした?」


 藤崎の声で我に返る。俺は慌てて首を振った。


「い、いや……なんでもない」

「そう? じゃあ、私これ借りてくるね」


 藤崎が立ち去ろうとしたその時、俺は咄嗟に彼女の袖を掴んだ。


「ちょっと待って」

「え?」

「その……靴紐が解けてる」


 藤崎は驚いた表情で自分の足元を見た。確かに、右足の靴紐が解けかけていた。


「あら、本当だわ。気づかなかった。ありがとう」


 彼女は靴紐を結び直すと、俺に笑顔を向けた。


「綾小路くん、すごく観察力がいいのね」

「いや、たまたまだよ」


 俺は照れくさそうに答えた。藤崎は不思議そうな顔をしたが、すぐに笑顔に戻った。


「じゃあ、またね」


 藤崎が去っていく後ろ姿を見送りながら、俺は深いため息をついた。


 これは俺の秘密の能力だ。時々、突然未来の出来事が見えるんだ。でも、それを変える力はない。いつも、見えた未来が現実になるのを、ただ見ているしかなかった。


 でも今回は違う。藤崎の転倒を防ぐことができた。なぜだろう?


 その疑問は、次の日に答えが出た。


 放課後、俺は教室へ忘れ物を取りに戻っていた。誰もいない教室で、ふと窓の外を見ると、校庭で藤崎が一人立っているのが見えた。


 その瞬間、また未来が見えた。藤崎の後ろに不審な男が忍び寄り、彼女を襲おうとする──


「くそっ!」


 俺は全力で走り出した。階段を駆け下り、校庭に飛び出す。藤崎の姿が見えた。そして、その後ろに忍び寄る男の影も。


「藤崎!」


 俺が叫んだ瞬間、世界が静止した。


 風の音が消え、鳥の鳴き声も止まった。空に浮かぶ雲さえも動きを止めている。


 そして、目の前には……動いている藤崎の姿があった。


「え?」


 俺は驚きのあまり、その場に立ち尽くした。藤崎は俺の方を向き、同じように驚いた表情を浮かべていた。


「綾小路くん? なんで……あなたも……動けるの?」

「藤崎……君が時間を止めたのか?」


 二人は互いに驚きの表情を交換した。そして、藤崎の後ろに迫っていた不審な男の姿が目に入った。そいつは時間停止の中で、まるで彫像のように動かなくなっていた。


「そいつが、君を襲おうとしてる」


 俺は藤崎の手を取り、不審な男から遠ざけた。


「え、ああ……そうね。ここから離れましょう」


 藤崎は混乱した様子で、しかし、状況をすぐに察してくれた。俺たちは校舎の中に逃げ込んだ。そこで、藤崎は時間の流れを元に戻した。


「綾小路くん、あなた……私の能力のことを知ってるの?」

「いや、今知ったばかりだ。でも、俺にも言わなきゃいけないことがある」


 俺は自分の未来を見る能力について話した。藤崎は驚きの表情を隠せなかった。


「そうだったの……だから図書館で、私の靴紐のこと……」

「ああ。君が転ぶのを見たんだ」


 二人は互いの能力について話し合った。藤崎の時間停止能力と、俺の未来視の能力。藤崎の方は、その時間停止の能力を自覚してからは、何かと不幸なことが起こるようになったらしい。まるで互いを補完するかのような不思議な組み合わせだった。


「でも、どうして私たちにこんな能力が……」


 藤崎が不思議そうに呟いた。


「わからない。理由があるのかな」


 その日から、俺たちの関係は一変した。放課後、人気のない場所を見つけては二人で能力について話し合った。


「ねえ、綾小路くん」


 ある日、藤崎が少し恥ずかしそうに言った。


「私たちの能力、もっと面白い使い方ができないかな?」


 藤崎はわりと飽きっぽい性分のようだった。お互いに難しい書物を読んで、なぜこのような能力を授かったのか、どのような原理でこれが起こっているのかを解明するために一緒の時間を過ごしていたはずなのだが。


「面白い使い方?」

「うん。例えば……」


 藤崎は少し考え込んだ後、顔を赤らめながら続けた。


「二人きりの時間を作るとか」


 俺は思わず顔が熱くなるのを感じた。


「そ、それは……どういう風に?」


 藤崎は俺の耳元に近づいて囁いた。


「例えば、プール授業のときに……」


 次の日、体育の授業でプールに入ることになった。藤崎と目が合うと、彼女はウインクをして微笑んだ。


『時間を止めるわ』


 藤崎の口の動きで、そう言っているのがわかった。

 突然、周りの喧噪が消えた。水しぶきも、クラスメイトの動きも、全てが止まっていた。


「綾小路くん、こっち」


 藤崎が手招きをしている。俺は少し躊躇したが、静止した人々の間をすり抜けて彼女の元へ向かった。


「んふっ。捕まえた」


 藤崎は俺の手を取り、プールサイドの真ん中に俺を引き上げた。


「ちょ、ちょっと待って」


俺は慌てて言った。


「これって……」

「大丈夫よ」


 藤崎は優しく微笑んだ。


「キスだけ……ね?」


 時間を止めたり、未来を見たりしながら過ごした時間は、それだけで二人の関係を特別にしていた。吊り橋効果が最も顕著に現れた例ではないだろうか。特に藤崎の方は、その端正な顔に似合わず、そういう他人に言えないイチャイチャが好きなようだった。


 俺たちは顔を近づけ、唇を重ねた。周りの世界が止まっているのに、俺の心臓は激しく鼓動を打っていた。


 キスが終わると、藤崎は満足そうに微笑んだ。


「じゃあ、元の位置に戻りましょ」


 俺たちは急いで元の場所に戻り、藤崎が時間を動かした。


 誰も気づいていない。でも、俺と藤崎の間には秘密の思い出が生まれていた。


 別の日、俺たちは能力をより大胆に使うことを考えていた。


「ねえ、綾小路くん」


 藤崎が少し悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。


「期末テストのことなんだけど……」

「テスト?」


 俺は首を傾げた。


「何か考えがあるのか?」


 藤崎は周りを確認してから、小声で続けた。


「私たちの能力を使えば、完璧な点数が取れるんじゃないかな」


 俺は少し驚いた。


「それって……ズルじゃないか?」

「そうね……でも、これも能力の練習だと思えば?」


 藤崎は真剣な表情で言った。


「それに、私からしたら少し点数が上がるだけ。綾小路くんまで全く同じだと騒ぎになりそうだから、いい感じの答案を考えましょ。……二人で。試験中に」


 俺は少し迷ったが、藤崎の熱心な様子に根負けしてしまった。


 テスト当日、俺たちは計画を実行した。


 まず、俺が未来視で問題と解答を確認。それを、時間を止めた藤崎が確認しにきて、藤崎は完璧な回答を埋め、俺の分の答案を、二人で考えて完成させた。


 途中、みんなが試験に必死になってるところで、必要以上にキスを繰り返していたことについては反省している。


「これで完璧ね」


 藤崎が満足そうに言った。


 テストが終わると、俺たちは少し後ろめたさを感じながらも、達成感に浸った。


 結果発表の日、予想通りに藤崎は全科目満点の成績を収め、俺も飛躍的な点数アップを果たした。


「すごいね、綾小路くん」


 クラスメイトが驚いた様子で言った。


「急に成績が上がったけど、何かコツでもあったの?」

「いや、まあ……」


 俺は曖昧に笑った。そのとき、藤崎が近づいてきて、さりげなく俺の手を握った。


「私たち、一緒に頑張ったのよ。ね?」


 彼女は微笑んで言った。


 クラスメイトたちは、このところよく図書館で一緒にいる俺たちの関係を察したようで、からかうような視線を送ってきた。


 放課後、俺と藤崎は屋上で二人きりになった。


「やりすぎだったかな……」


 俺は少し心配そうに言った。

 藤崎は首を振った。


「こんな傍迷惑な能力を押しつけられたんだもの。少し楽しんだってバチは当たらないじゃない?」

「藤崎のそういう考え方、好きだよ」

「んふっ。ありがと。綾小路くんのそうやって全部を受け止めてくれるところも好き」


 なんだかんだで俺たちは、相性のいい男女だった。


「だから、ね? もっと、二人のために使おう?」


 藤崎は頬を赤らめながら言った。

 俺は藤崎を抱きしめた。


「俺も、そうしたい」


 夕陽に照らされた屋上で、俺たちは未来への期待を胸に抱きながら、静かに寄り添っていた。


 そして、ある日の放課後、俺たちはいつものように誰もいない教室で能力の練習をしていた。


「じゃあ、時間を止めるよ」


 藤崎が言った。世界が静止する。俺たちだけが動ける空間の中で、藤崎が俺に近づいてきた。


「ねえ、綾小路くん。こんな風に、まだ学校に生徒も先生もたくさんいる中で二人きりになるって、もうそれだけでちょっと興奮するね」


 藤崎の声には、いつもと違う色気が混じっていた。俺は思わず喉を鳴らした。


「あ、ああ……そうだな」


 藤崎はさらに近づき、俺の胸に手を置いた。


「私ね、綾小路くんのこと……本気で好きになっちゃったみたい」


 その瞬間、俺の視界がぼやけた。目の前に藤崎の姿が映る。彼女が俺にキスをし、そして……


 現実に戻ると、藤崎の顔が目の前にあった。彼女はゆっくりと俺に唇を寄せてきている。


 俺は動揺した。これは未来なのか、それとも現実なのか。でも、今はそんなことを考えている場合じゃない。


 俺は藤崎を抱きしめ、唇を重ねた。柔らかく、甘いキス。時間が止まったこの空間で、俺たちの気持ちが一つになっていく。


 キスは次第に激しくなり、お互いの体を求め合うように手が動き始めた。藤崎の柔らかな胸が俺の胸に押しつけられ、その感触に俺は思わず低い呻き声を漏らした。


「綾小路くん……」


 藤崎の声が甘く響く。


 俺は藤崎の首筋に唇を這わせ、彼女の甘い香りに酔いしれた。藤崎は小さな喘ぎ声を上げながら、俺の背中に腕を回す。


 その時、突然俺の視界がぼやけた。また未来が見える……


 目の前に映し出されたのは、教室のドアが開く瞬間だった。そこに立っていたのは──


「やばい!」


 俺は藤崎から離れた。


「先生が来る」


 藤崎は驚いた表情を浮かべたが、すぐに状況を理解したようだ。油断したのか、興奮のしすぎで忘れていたのか、単にキスが長過ぎて能力の限界だったのか、時止めが解除されていたのだった。

 数秒後、教室のドアが開き、担任の先生が顔を覗かせた。


「おや、綾小路くんに藤崎さん。まだ帰らないのかい?」

「あ、はい。ちょっと勉強を……」


 俺は慌てて答えた。綾小路は背後に隠れて乱れた制服を直している。


「そうか。やっぱり成績が伸びてるやつは、やってることが違うな。でも、もう遅いから気をつけて帰るんだぞ」

「はい、わかりました」


 先生が去った後、俺と藤崎は顔を見合わせて、ほっとため息をついた。


「危なかったね」


 藤崎が小さな声で言った。


「ああ」


 二人は少し気まずい雰囲気の中、荷物をまとめ始めた。


「ねえ、綾小路くん」


 藤崎が俺を呼んだ。


「なに?」

「こういうことばっかりしてて……後悔してない?」


 藤崎の瞳には不安が浮かんでいた。こんな大それた能力を手にしておいて、エロいことばっかりしてるからだろう。俺は藤崎の手を取り、優しく握った。


「後悔なんてしてないよ。むしろ……」


 俺は少し照れくさそうに言葉を続けた。


「藤崎のことが、もっと好きになった」


 藤崎の顔が明るくなり、嬉しそうな笑顔を浮かべた。


「私も……綾小路くんのこと、大好き」


 二人は再び軽くキスを交わし、手を繋いで学校を後にした。


 その瞬間、また俺の視界がぼやけた。目の前に映し出されたのは、数年後……と、思われるような光景だった。


 白いドレスを着た藤崎が、ウェディングケーキにナイフを入れようとしている。その隣には、タキシード姿の俺がいた。二人とも幸せそうな笑顔を浮かべている。


 そして、藤崎のお腹が少し膨らんでいるのに気づいた。彼女は……妊娠しているようだ。


 現実に戻ると、藤崎が心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。


「どうしたの? また未来が見えたの?」


 俺は少し照れくさそうに頷いた。


「俺たちの結婚式だった」

「え?」


 藤崎の顔が真っ赤になった。


「それだけじゃない。君は……妊娠してた」


 藤崎は驚きのあまり、言葉を失ったようだった。そして、しばらくの沈黙の後、ゆっくりと口を開いた。


「それって……本当? 私たち、結婚して、子供まで……」

「みたいだよ。すごく幸せそうに見えた」


 藤崎の顔が真っ赤に染まる。

 ここまではっきりと羞恥を顔に出すのは初めてだった。

 いつも不埒なことを考えているので、多少のことならちょっぴり照れ恥ずかしそうにするぐらいで済ませる彼女なのだが。


「それって……さ。これから、することのせいかな」


 藤崎の喉元まで感情が込み上げるような声に、俺の身体中が反応する。


「ど、どうかな。たしかに、俺は経験ないし、上手くコントロールができない可能性はあるかもだけど……」

「んふふ。まあ、そのもしものときは、私が時を止められるから、きっと平気だよね」


 しかし、それが俺の一部と見做されて、出てしまったものが止まらないと後に分かったのは、言うまでもないだろうか。


 俺は藤崎を優しく抱きしめた。


「俺も嬉しいよ。藤崎と一緒にいる未来が見えて」


 藤崎は俺の胸に顔を埋めたまま、小さな声で言った。


「その未来、絶対に実現させようね」

「もちろん。約束するよ」


 俺たちは再びキスを交わした。今度は未来への希望と愛情に満ちたキスだった。


「これからは、未来を変えるための行動だけじゃなくて、未来を実現させるためにも動かないといけないな」

「うん。とりあえずの目標が、結婚……ってことだから……」


 藤崎は何かを思い出したように「そういえば」と呟いて、それから、


「とりあえずは……お付き合いするところから始めよっか」


 と言った。


 そうだった。能力解明のためだとか言って逢瀬を繰り返していたので、そうした清廉な思考回路まで頭が回っていなかった。


 俺たちはまだ、恋人ですらなかったのだ。


「そうだな。それはそうだ」


 俺が苦笑して同意すると、藤崎がからかうようにじゃれついてきた。


「藤崎さん。俺と付き合ってください」

「もちろん。喜んで」


 未来視などせずとも確定した結末だったとわかっていたそれを、俺たちはすでに深まった愛を再確認するだけの目的でこなした。


 その後は、男女で二人、夕日に染まる教室の中。

 俺たちは放課後の部活に打ち込む生徒たちの掛け声をBGMにしながら、誰にも気づかれることのない時間を、夜更けまで過ごしていたのだった。




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