第22話 仲間の死

シャドウとアレス。初めて対面した数日後、オルコアヴァンセでは反撃の雄叫びが響いた。この日、今は亡き幹部メージュが遺した研究が完成し、それが実用化されたことにより最強の隊が完成した。今は亡き幹部たちに劣らない強い力を手にした戦闘員はシャドウたちへの反撃を始めようとしていた。


新たな脅威が近づいていることも知らないシャドウたち。

サンデゼールの一件以降、騎士団や特事課らは今まで以上に努力を怠らなかった。信じて疑わなかった強さや自信が簡単に折られてしまったためだ。それぞれが弱さを見つめ、新たに覚悟した結果であろう。そして、アレスと唯一顔を合わせたシャドウはそんな皆より鍛錬に勤しみ、食事や睡眠を削ってまでそれらを行っていた。周りから見れば不安になることも多かったが、シャドウは誰の言葉も受け止めず、いつしか彼は孤独でいることを好んだ。その様子から、今まで共に戦ってきた仲間が1人また1人と彼に近づくことがなくなっていた。


ある日、騎士団のメンバーとマナカが集まり、密かに会合が行われた。話の内容はもちろんシャドウのことだった。しかし、もう1つ重要なことがあった。今まで順調だった研究所壊滅が滞っていることについてだった。


ここ最近になって行く先々で研究所の壊滅が失敗に終わっている。既に閉鎖されている研究所も多く、ある意味成功とも言えるかもしれない。しかし、ある研究所に向かった際、研究員と思しき人々が荷物をまとめ、研究所を離れていく所を目撃した。彼らの会話に耳を立てると、口々にこう言っていた。


「研究漬けの日々から卒業だ」


「急いで本部に戻らなくては」


「俺たちも幹部様たちみたいに強くなれるんだな」


彼らの表情はとても生き生きとしていた。会話の節々から何か嫌な流れを感じた彼らは本部に向かう彼らの後を特事課のレナードとアンリがついて行くことにした。


それから1週間近く経つが、2人からの連絡はまだなかった。マナカが連絡を試みているが、繋がることはなかった。


その数日後、連絡のとれなかった2人とようやく繋がった。向こうからきた連絡の声の主は2人以外の誰かだった。共に聞いていたシャドウだけは血相を変え、通信相手にこう聞いた。


「2人はどうした!」


相手も声の主が誰か察したのか、懐かしそうに話し始めた。理解が追いつかない中、声の主、アレスの一言によって周りは一気に理解した。


「あいつらなら、俺が殺した」


咄嗟にマナカが何故殺したかを尋ねた。

すると、アレスはこう言った。


「何故殺したか?お前らが俺の仲間を殺したからに決まってるだろ。」


誰も何も言えなかった。少しの間のあと、アレスが再び話し出した。


「まあ、いいじゃねえか。お前らもすぐに2人に会いに行かせてやるからよ」


一瞬、マナカらにどよめきが走った。しかし、潜伏先など知らないだろうと安心した。しかし、アレスはその表情を見たかのように笑いだし、こう言った。


「この通信が始まった時点でお前らの場所なんか把握してるぜ。もうすぐ戦闘員たちがそっちに着くんじゃねえか」


それとほぼ同時に外から大きな音が鳴った。それは間違いなく敵襲を知らせるサイレンだった。目の前の存在なんか気にする余裕はなくなり、対応に追われ、

その場にはシャドウだけが残った。2人だけの通信が始まった。


しかし、シャドウの気づかない場所でマナカと影光が2人の会話を聞いていた。シャドウを信じていない訳ではないが、状況を理解したいという思いがあった。


シャドウとアレスの会話の中心はパンドラについてだった。アレスは、


「何故、そこまでパンドラにこだわる?」


するとシャドウは


「彼女が死んでいるならば、僕の人生そのものが意味のないものになる。皆が必死で戦ってくれたことにも。だから、僕は皆から離れ、1人で彼女に会いに行こうと思った。たとえ、死んでいたとしても。」


シャドウは死体と化した彼女だとしても再会することに意義があると考えていた。もし、彼女が死んでいれば、マナカらと動く意味もない。少しでも強くなり、1人で会いに行こうとしたのだ。

シャドウの思いを聞いたアレスは衝撃の事実を伝える。


「お前と会ったあと、パンドラに会いに行ったよ。あいつの力は底なしだな。衰弱はしてるが、生きていたぜ」


シャドウの目からは涙が溢れ出していた。そして、アレスはこう続けた。


「生き残れよ。そして、俺とパンドラがいる本部まで来い。どれだけ時間がかかっても、仲間が全員倒れたとしてもたどり着けよ。それじゃなきゃ、面白くねぇからな」


この後、シャドウは先に応戦していた仲間の所に向かった。しかし、進化したオルコアヴァンセの戦闘員を前に、特事課のアレクとレイが倒された。

しかし、シャドウは悲しむこともなくただただ前を向いていた。オルコアヴァンセの本部を目指して。

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