第21話 それぞれの思い

話は少し前に遡る。塔の内部を探ろうとしたとき、突然何かが起こった。気づけばその場にシャドウだけがいなかった。前兆もなく起こった出来事に影光らの対応が遅れた。その後、周囲を探すが、シャドウは見つからなかった。となれば、可能性があるのは塔の中だけだ。そのため、全員が塔を目指すことにした。しかし、その集団は突如として現れた。人間の姿をしたそれは、生者ではなく亡者だった。目は虚ろとしおぼつかない足取りだったが、内には凄まじいエネルギーが秘められていた。その後この亡者の集団との戦いが始まった。奴らは影光らの弱点を理解しているかのように攻撃を繰り出し、パターンを変えた。あまりの力に防ぐことが精一杯になった特事課、騎士団のメンバーは散り散りになってしまった。塔に近づくどころか段々と遠ざかっていく。誰もがシャドウが無事に戻ってくることを願った。一部のメンバーはシャドウさえいれば、と心から思っていただろう。


倒しても倒しても出てくる屍の集団に体力が尽きかけていたとき、亡者の一端が崩れ始めた。その中心には見覚えのある真っ黒な物体が次々と亡者を倒していた。その中心にはシャドウがいた。そう、メージュとの戦いで目覚めたシャドウの内にいる兵たちであった。


その後シャドウと合流した影光とマナカは、今までの経緯を聞いた。シャドウはオルコアヴァンセの幹部とのやり取り全てを話した。その後の幹部の行方について聞くと、シャドウの顔は歪み、ただただ頭を下げ謝るだけだった。


今回の戦いは勝利に終わったが、幹部を逃がしてしまったことによって、後味悪い戦いとなった。シャドウは特に堪えたようで上の空になることが多かった。シャドウは幹部を逃がしたのは自身のせいだと強く責めていたのだ。しかし、影光らはそうは思っていない。自分たちの弱さ、甘さがシャドウを追い詰めてしまったと思っていた。さらに強い力があれば、瞬時の判断力、対応力があればあそこまで苦戦することはなかっただろう。シャドウは自分たちの命を優先し、結果幹部を逃がしてしまった。シャドウに頼らずとも戦い抜ける強さを誰もが求めていた。特に、影光ら騎士団の思いは強かった。本来であれば主であるシャドウを守る自身らが、あろうことかその主に守られてしまった。騎士団としてのプライドが大きく傷つけられた。

最終決戦を前にそれぞれが心の中で決意を新たにした瞬間だった。


そして、シャドウにはもうひとつ気がかりがあった。探し求めていた彼女のことだ。アレスの話では死んでいる可能性も十分にあった。しかし、それを皆に話すことはなかった。話してしまえば目的を見失う可能性もあったためだ。シャドウはこの苦しみを、焦りを1人背負うことにした。これも彼なりの覚悟であろう。


アレスを逃がしてしまった反動はとてつもなく大きく長いものになった。シャドウらがそれを実感するのにそう時間はかからなかった。

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