第20話 対面

アレス自身も各地で自身の情報を流した。シャドウたちをおびき出し、情報を得るためだ。同時にパンドラの情報も流した。全て嘘であるが、パンドラがいるとなると相手は確実に動くと予想したためだ。


一方、シャドウたちは地道に研究所の壊滅を進めていた。しかし、本部の情報はいくら探しても出てこなかった。そんなときある噂を聞いた。


「サンデゼールが侵略された」


「犯人は2人組の男女」


影光は、突如として起きたその事件が妙に気になった。何かしらの不穏な動きがあれば、朔や他のメンバーも気づくはずだった。しかし、今回はそんな気配がしなかった。事を確かめるため、シャドウと共に多くの人から情報を得ることにした。


「一瞬にして大地を海に変えた」


「大きな氷の塔が一瞬してできた」


「年中晴天のあの星が雷雨になったらしい」


人々が言うことには共通点はなかった。しかし、その犯人の特徴はほぼ全員が一致した答えを言った。

シャドウはその特徴から彼女のことだと思った。だが、確信はなかった。今まで彼女の情報は全く耳にしていなかったため、信じることができなかった。


その後、サンデゼールについて徹底的に調べ始めることにした。シャドウたちがいる星からほど近くにあるその星は、最近になって砂漠地帯から海のある星に変わったことがわかった。ただの噂が現実味を帯びてきた。罠かもしれないと感じつつ、シャドウたち影の騎士団はマナカら特事課と合流し、サンデゼールに向かうことにした。たとえ、彼女がいなくても本部の情報があるかもしれない。その気持ちだけが焦っていた。


サンデゼールにつくと、広い海の中央に小さな島があり、大きな塔が建っていた。氷ではできていなかったが、ここ数日でできたとは到底思えない高さだった。


塔の様子を外から探ろうとしたとき、何かの気配を感じ、気づいたときにはその場にシャドウだけがいなかった。突然の出来事に影光らの対応も遅れた。


強い気配を感じた瞬間、シャドウは塔の中にいた。影光らがいない代わりに、目の前には見ず知らずの男が静かに座っていた。そいつはアレスだった。アレスは開口一番、シャドウにこう問いた。


「お前、あいつの何なんだ?」


シャドウは質問の意味がわからなかった。それを見たアレスは口元を少し緩めると


「お前、俺のことも知らないって顔だな」


そう言うと自身の素性について話し出した。それを聞いたシャドウは一気に何かを理解したかのように口を開いた。


「お前がオルコアヴァンセの幹部か」


「お前が言う"あいつ"は僕が探している彼女、パンドラのことか」


アレスは静かに頷き、同じ質問をシャドウにした。しかし、シャドウは何も答えなかった。するとアレスはこう言った。


「あいつとよく似てるな、お前」


「どういうことだ」


「あいつにお前のことを聞いたら何にも答えないんだよ。他のことには答えるのにさ」


「彼女はどこにいる」


シャドウが尋ねるとアレスは笑いだした。


「あの噂信じてる訳じゃないよな」


「何を言っている?」


「こんなところにいるわけないだろう。全部嘘に決まってるさ」


やはり罠だったか。そうシャドウは確信した。だが、確実に奴は彼女がどこにいるか知っている。そうも思った。


「彼女はお前たちの本部にいるんだな?」


するとアレスはあっさりと認めた。


「あいつはもう死んでるかもしれないけどな」


その一言でシャドウは怒りに満ち始めていた。

アレスはこう続けた。


「もともと、瀕死の状態だったしな。俺が質問しても肝心なことは話さないからな、少し、痛めつけてやったよ」


「数週間も放ったらかしだったのにな…」


シャドウは言葉の途中にもかかわらずアレスに飛びかかった。しかし、アレスとの間には大きな壁があり、シャドウの攻撃はアレスには届かなかった。


「今回は、戦う気はねえ。お前たちのことが知りたかっただけ」


「ふざけるな」


シャドウは抑えられない怒りに怒鳴りつけた。するとアレスは


「ここで油売ってて大丈夫か?軽い足止めとはいえ、外にいる奴ら結構追い詰められているぜ」


シャドウは少し我に返ったのか、塔の窓から外を見た。すると、影光やマナカらがギリギリの状態で戦っていた。相手はおそらくアレスの部下であろう。アレスをこのまま逃がすようなことはしたくなかった。しかし、助けに行かなければマナカらが危なかった。シャドウは後ろ髪を引かれる思いでその場をあとにした。

その姿を見たアレスは不敵な笑みを浮かべるとその場から姿を消した。


その数日後、セーヴィスはメージュが遺した研究を完成させ、すぐに実用化が始まった。ハデス、息子であるアレス、そして自身の血を用いて最強の軍団を編成しシャドウたちへの攻撃が始まった。

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