第19話 討つべき敵

メージュが完成させることができなかった研究がある。それは、対象者の血を用いて、新たな能力者を生み出すものだった。今まで使用してきた薬だと能力に差が出る。しかも成功する確率はかなり低い。1人の幹部によって人材は確保できているものの、いつそれがなくなるかもわからなかった。そのため、より安定した能力者を生み出すため研究を始めた。対象者は幹部以上の人間だ。彼らと同等の力を得られれば、組織全体の勢力は格段に強まる。

しかし、メージュはそれを完成させることができなかった。シャドウたちの襲撃があったためだ。彼女はそれを見つからないよう隠した。あいつが必ず見つけてくれると信じて。


メージュの思いが届いたのか、それとも全てを知っていたからなのか。その後、それはセーヴィスの息子アレスによって発見された。アレスは触れている物の1週間前までの記憶を見ることができる。今回は期限が近く鮮明には残っていなかったが、大きな手がかりを得た。しかし、自身で解析することができなかったため、父親であるセーヴィスに託し、自身はパンドラに会うことにした。記憶で見た少年との関係について問うためであった。


パンドラは本部の地下深くで幽閉されていた。一連の事件で彼女の処罰も曖昧になり、彼女が生きているのかすら誰も知らなかった。

アレスは埃にまみれた地下を進み、彼女がいるであろう地下牢を目指した。アレスが久しぶりに見た彼女は全くの別人だった。身体は痩せ細り、拷問でつけられたであろう傷跡は痛々しく残っていた。微動だにしない彼女を見て死を予感した。しかし、そのとき彼女の口元が微かに動いたのだ。アレスは咄嗟に治癒魔法を彼女にかけた。彼女の体力が尽きかけていたため、大きな効果はなかった。だが、多少の会話ができるようになった。

少しの沈黙のあと、アレスはなぜ組織を裏切ったのか、彼女に問いただした。すると、彼女は


「あのときはまだ裏切っていなかった。任務を達成できなかっただけ」


彼女が任務を失敗すること自体驚きを隠せなかったが、アレスはそれ以上に彼女の言葉に引っかかった。


「まだ、とはどういうことだ」


彼女はゆっくりと答えた。


「全部、思い出したんだ。自分が何者で、何のために生まれてきたのか」


アレスからは少しずつ笑みが消えていた。おそらく、彼女は自身が知っている彼女では無いことに薄々勘づいていたのだろう。彼の言葉には怒りが見え始めていた。

それ以降、アレスが何を聞いても彼女は答えなかった。しかし、彼が少年の話をすると、彼女は動揺した。その変化をアレスは見逃さなかった。


その後、アレスは父であるセーヴィスにこのことを報告した。彼女が幽閉されるきっかけとなった人物はおそらく、組織の壊滅を目論んでいる人物と同一だろうと予想したためだ。セーヴィス、ハデスと共に話し合った結果、考えは予想通りだった。これで、撃つべき敵がはっきりした。しかし、そいつらがどこにいるかはわからなかった。アレスは1つの提案をした。自らが囮になる、と。幹部がどこかの星に留まっていれば、必ず奴らは来ると考えたためだ。

セーヴィスは、それを了承した。しかし、情報が掴め次第その星を去り、絶好の機会を待つようにアレスに伝えた。


数週間に渡って、アレスの情報を宇宙全体に広めた。そして、その情報をもとに現れたシャドウたちとの戦いが始まった。

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