第17話 決戦

薄暗い中から始まった此度の決戦。日が真上に登った頃、ようやくシャドウたちはメージュがいる研究所へとたどり着いた。しかし、兵を足止めをするため、1人また1人と人数が欠けていき、研究所に着いた頃には数は半分以下になっていた。研究所の中はどうなっているかわからない。兵が多く待ち構えていた場合、シャドウたちの勝ち目はほぼ無くなるだろう。影光、朔、マナカ、ソレファス、そしてシャドウ。5人は気を引き締め、研究所の扉を開けた。


一方、オルコアヴァンセ本部では、セーヴィスが自室に籠ることが多くなっていた。相次ぐ幹部の死、研究所の壊滅。どこよりも負けない能力者で作られた組織だが、あっさりとその人数が減らされていた。前兆なんかなかったはず、セーヴィスの焦りは大きくなる一方だった。そこで、セーヴィスは体勢を立て直すため、各地に散らばる幹部を含めた全員を招集することにした。同時に、パンドラを地下牢から出すことも考えていた。今までの実績を考えればパンドラの力は必要不可欠だった。しかし、また裏切ることになれば、そう考えると決断できなかった。


研究所に入ったシャドウ達は目を疑った。目の前には敵の1人もいなく、静まり返っていた。すると、突然螺旋状の階段が目の前に現れ、それは最上階まで続いていた。明らかに怪しい感じはするが、シャドウが先頭を切って登り始めた。昇る途中で何かされる訳でもなく、無事に最上階に辿り着いた。


最上階では、メージュが画面を見ながら呑気に座っていた。いくつもの画面から流れるのは、研究所内外のリアルタイムの映像だ。映像を見る限り、外に残ったメンバーはみんな無事のようだった。すると、突然メージュが口を開いた。


「遅かったじゃないか。待ちくたびれたよ」


そういうと彼女はシャドウの方に振り向き、薄らと笑った。


「あんた、パンドラとどういう関係?その他の人達に比べて思い入れが強いようだけど。」


その場の全員が戸惑った。しかし、メージュは気にすることなく言葉を続けた。


「君たちの目的は私たちの本部、組織の壊滅をしようとしているのね。」


「あとは、パンドラを取り戻すこと」


メージュは答えを確かめるように真っ直ぐシャドウを見た。なぜ、目的までもが筒抜けなのか、誰もわからなかった。するとメージュは突然大声で笑いだした。


「君たち、私たちを倒すと言う割には何も知らないの?」


そういうと、彼女は自身の能力について話し出した。


「つまり、君たちの考えは全部わかる。だから、私を倒すことはできない。ここで死ぬだけ」


「この件が片付いたらセーヴィス様に連絡しなきゃ。さっきから通信がうるさいのよね」


先に動いたのは朔とソレファスだった。朔は影と一体になり、ソレファスは真正面からメージュに向かっていった。ほぼ同時の攻撃にも関わらず、メージュはあっさりと弾き返し、大きなため息をついた。


「言っている意味がわかんないのかな。攻撃しても無駄。とっくに限界なんでしょ。諦めたら?」


その光景を見ていたマナカや影光は動くことができなかった。どの方向から攻撃しても、メージュにはそれがわかってしまうため、手立てがなかった。しかし、シャドウは諦めなかった。今まで何度も困難にぶつかってきた。でも、彼女に会いたい。その目的を胸に今まで頑張ってきた。ここで諦める訳にはいかなかった。その強い思いがシャドウの中の何かを目覚めさせた。突然、辺りが真っ暗になり皆の視界を奪った。一瞬の暗闇が明けると、シャドウの周りに黒い物体がいくつもあった。それは人間の姿や、動物の姿だった。それらは、敵が誰か知っているかのようにメージュに向かい、攻撃を繰り出した。咄嗟のことだったが、メージュはいつも通り思考を読み、攻撃を避けようとした。しかし、それらからは何も読み取ることができなかった。慌てて近くに装備してた剣を握るも、間に合わずメージュの身体は切り裂かれた。そして、この謎を知ることができないまま、彼女は息絶えた。


一瞬の出来事にその場の誰もが唖然とした。それを扱うシャドウ本人さえ、理解ができなかった。

目の前の敵が倒れたのを確認した黒い人間達は最上階から飛び降り、どこかへ行ってしまった。シャドウは追いかけようとしたが、影光がそれを止めた。そして、画面を見るように促した。シャドウが画面を見ると、黒い人間たちは特事課や來闇や夜鴉たちを手助けし、次々とメージュの兵を倒していった。


敵が1人もいなくなると、黒い人間達は消えていた。散らばっていた全員が集まり、無事を確認し終えると、全員が歓声をあげた。


4人目の幹部を倒す作戦は成功した。

黒い人間たちはシャドウの兵であった。影の一族が稀に生み出す特殊な能力が目覚めた瞬間だった。それらは、意思は持たないが、主の考えを理解し、ただ敵を倒していく。敵がいなくなり、主の無事が確認できれば、主の影の中に戻っていく。傷を負うこともない最強の軍隊だ。


ドイルを倒してから始まった此度の作戦、残りの幹部は2人。そして、最大の敵セーヴィス。しかし、セーヴィスにたどり着くまで10年近くかかった。


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