第9話 前兆

ルールを守れない者には死を、ただそれだけ。この日はテーラ・ヴェールへと向かった。外部の者に研究所の存在を知られてしまった、挙句の果てにはその報告を怠った。つまりは全員死あるのみ。いつも通りだと思っていた。


パンドラが最初に行ったのは、森林に火をつけることだった。8割が森林のこの星では効果的な手段であった。その後、研究所に向かい、生き残りがいないように全員始末していった。あとは、星そのものの始末だけとなり、行動を起こし始めた。そのとき、研究所の入口のほうに人の気配を感じた。不思議に思った彼女は気配がするほうへと向かった。


研究所の者ではないことが分かり、その正体を探るため彼らに近づくことにした。彼らの行動を制限するため、仲間の1人を人質にとった。しかし、彼らと顔を合わせたとき、私は動揺した。まともに戦えそうなのは1人だけ。私は馬鹿にされているのか、そうとしか思えなかった。何か裏があるのかとも思い、すぐに人質を殺すのを躊躇った。


辺りが一瞬静まり返ったあと、1人の少年が私を見て涙を流し始めた。突然、恐怖に支配されたのかと思ったが、その少年は思いもよらない言葉を口にした。


僕をおぼえているか、と。


確かに少年の目を見たとき、何かは感じた。だが、私には記憶がない。あのときのことは今でも思い出したくないものばかり。そんなときに出会っているはずもない。であれば、それ以前に出会ったのか。私は何か胸騒ぎを感じ、咄嗟にその場から逃げてしまった。


パンドラは本部へ戻るのを躊躇った。接触した人物を始末できなかった。あろうことか自分から逃げてしまった。そうなれば、何をされるかある程度予想ができたからだ。しかし、報告を怠ってしまえば、その先は死しかない。彼女は、覚悟を決め本部へ戻り、ありのままを報告することにした。

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