第5話 彼女と影とシャドウ

目が覚めると、嬉しそうに笑う2人の姿があった。何かを話しながら2人は僕を抱きしめてくれた。

だけど、2人は僕の名前を呼んでくれない。ずっと別の誰かを呼んでいる。目に映るのは僕のはずだ。なのに何でだろう。

そこで気づいたんだ。2人は僕を知らない。2人が見ているのは愛する彼女。僕は彼女の影として生まれた、誰にも知られることのない孤独な存在。その事実を受け止めることができなかった。


だけど、時間が経つほど僕は彼女が大好きになった。

嬉しい出来事、悲しい出来事、彼女が感じる全てを僕も感じることができた。その思いを共有することができないのは残念だけど、彼女の成長に寄り添えることが嬉しかった。


ある日、突然僕の隣に何かがいた。初めて、僕の存在が誰かに知ってもらえる、そう思った。だけど、それは何も言わず、それが当たり前というように彼女の内部を壊し始めた。僕は必死で抵抗した。だけど、圧倒的なそれに僕は適わなかった。僕は彼女の中から追い出された。

それと同時くらいに彼女は完全に壊れてしまった。目は虚ろになり、知るはずのない言語で何かを唱えていた。

目の前で、彼女の父親が手を押さえて苦しんでいるのも見た。でも、彼女は見向きもしなかった。僕の知る彼女は、誰にでも笑顔を向け、周りを温かくするような存在。両親に憧れ、困っている人がいればその手を差し伸べていた。

もう、彼女は僕の知る彼女じゃなかった。

それから何日か経った。彼女が急に立ち上がり、家を飛び出して行った。今までも何度かあったが、今回はいつもと様子が違った。嫌な予感がした、もう二度と彼女に会うことはできない、そう思った。彼女を止めなくては、そう思うのに、彼女の部屋から出られない。彼女を追いかけることもできず、彼女の部屋で1人彼女の帰りを待った。


どれくらい彼女を待っただろうか。僕にはとても長く感じた。すると、突然、目の前の景色が大きく揺れた。何が起きているのか。ひとつだけわかったことは、このままだと彼女の帰る場所がなくなる。そう思って僕は必死に守ろうとした。けれど僕は何もできなかった。そのまま、瓦礫の下敷きになり、意識を失った。


何かに押しつぶされる苦しみと痛みで目が覚めた。状況が理解できなかった。このまま死ぬかもしれない、なぜかそう思った。その時、頭の中で1つの記憶が蘇った。

彼女を探さなきゃいけない、それが僕の使命だと思った。まずはここを出なくちゃ、そう思い、必死に助けを求めたんだ。でも、いくら叫んでも誰も来なかった。諦めかけたとき、遠くで声がした。男の子の声。それは、すぐに聞こえなくなり、気のせいだと思い、僕はこのまま死を受け入れることにした。


突然、身体が少し軽くなった。目を開けると、1人の男の人が手を差し伸べていた。

ここで初めて、自分に体があることに気づいた。

最初に異変を感じたのは1人の老人だった。

家の裏にある小さな丘に、突然、瓦礫の山ができていて、中から声が微かに聞こえた。老人と一緒に住む男の子が他の大人達も呼んでくれて僕は助けられた。さっき聞こえた声はその子のものだった。


人として生まれ変わった代償はとても大きかった。

僕は自分のこともどこから来たかも覚えていなかった。そんな中で彼女のことだけは忘れてはいなかった。だから彼女を見つけたい、 そう願った。


男の子はヒカルと名乗った。ヒカルがかっこいいという理由で、僕をシャドウと呼ぶようになった。僕もこの名前が自分に合っていると思い、シャドウを名乗ることにした。


僕は老人の家で暮らすようになった。

だけど、年月を重ねるうちに、異変に気づいた。僕は生まれ変わったまま成長することがない、ということ。同じくらいの背丈だったヒカルはどんどん大きくなって、顔も凛々しくなった。その反面、老人はどんどん弱っていった。

これ以上ここにいては、皆から余計怪しまれる。大好きな人達を嫌いになんてなりたくない。嫌われたくない。そう思った僕は、この家から、この星から出ていくことにした。

老人は止める訳でもなく、ただ静かに見送ってくれた。


僕は彼女を探す旅に出た。目的地はリナーシタ。

宇宙一平和な星。新しく生まれ変わったが、歴史が多い星。そこに何か手がかりがあるはず、老人はそう教えてくれた。


何年、何十年と時間はかかってしまったが、僕はリナーシタに到着した。どこか懐かしく感じるその星を最後に、僕の旅は終わることとなった。


偶然出会ったマナカさん。マナカさんは彼女を知る人物で、彼が唯一僕の話を信じてくれた。マナカさんと共にいたい。マナカさんの背中を追い、この星の警察官となった。いくつもの事件を防ぎ、平和を守ってきた。特事課という居場所で、たくさんの仲間ができた。


そして、やっと彼女と再会したんだ。でも、物事はそう上手くはいかなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る