第3話 研究所(後編)

特事課が研究所に入ると、そこには想像を超える光景が広がっていた。

組織の幹部とはいえ、たった1人でここまでするとは。


生きている人がいないか、捜索しながら僕たちは奥へと進んでいく。

倒れている人達の死因は様々だった。焼死、溺死、感電死、凍死。

救えたかもしれない命が、どんどん失われていく。僕はそれに耐えられなかった。


この事実から特事課は、撤退を余儀なくされた。

今回のメンバーでは戦力不足と判断した結果だった。

来た道を戻ろうとしたとき、奥からとてつもない殺気を感じた。幹部に存在が知られてしまった、その場の誰もが思った。


殺気にいち早く気づいたのは、マナカさんとソレファスさん。ソレファスさんは、今回のメンバーの中で唯一、攻撃型の能力者だ。攻撃を剣だけで防ぐことができる凄腕だ。彼がどれくらいの剣を持っているか誰も知らないんだって。自分のこともあまり話さないから凄い謎な人物なんだ。


ソレファスは、瞬時に剣を持ち、幹部がいるであろう奥を警戒した。

しかし、殺気を出した人物は彼らの後ろにいた。

アンリを人質にとり、その喉元には氷剣が向けられていた。


僕はとっさに助けようとした。だけど、マナカさんがそれを阻止した。もし、今行ったらアンリは殺される、と僕の耳元でそう言った。


アンリの後ろに立つ幹部は、こう言った。


「何者かは知らんが、まともに戦えそうなのはお前だけだろう」


目線の先にはソレファスがいた。

その場は、一瞬凍りついたように静かになった。


この時、僕だけが感じたんだ。

この声、知っている気がするって。

幹部の顔を見ても、すぐにはわからなかった。だけど、幹部は彼女と同じ歩き方、話す癖も一緒だったんだ。偶然かもしれないけど、そう思えば思うほど僕は涙が溢れて止まらなかった。

不審な目を向けられたけど、聞かずにはいられなかった。僕を覚えてる?って。

でも、彼女は何も答えてくれなかった。そのまま彼女はいなくなってしまった。


幸か不幸か、幹部は特事課の誰も殺すこともなく、いなくなってしまった。逃がしたことに関しては、大きな痛手となったが、誰一人欠けることなく無事だったことに皆が安堵した。


その後、本来の目的である行方不明になっていた兄の遺体を確認し、移送することとなった。

また、今までの犠牲者や口封じに殺された研究者達の身元を調べ、それぞれの故郷へと返すこととなった。


特事課らはこの事件後、休む間もなく、研究所を管理していた組織について調べることとなる。

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