第11話 『及』―および
昨日と同じくユウラさんと一緒に開拓場まで歩き、今度こそジズさんに会うべくその姿を探す。今日はマーリンさんは見当たらなかった。
「あ、いましたね。 ―ジズさーん!」
ユウラさんが大きな声を出して名を呼ぶと、一人の青年が振り返った。こちらに向かって歩いてくる。
「おはようございますユウラさん! と、そいつが新しいやつすかね」
かなり若いな。と思ったが、十七歳ならば前世では高校生であるし当然だろう。
短髪で身長は俺と同じくらい。感情がすぐ表に出てしまいそうな、よく動くぎょろ目が特徴だ。
「はい。こちらが新しくこの村に住むことになったヨウさんです」
「ヨウです。ジズさん、開拓場の仕事について全く知らないので、どうぞよろしくお願います」
俺が自己紹介すると、ジズは無遠慮な視線で全身を見やった後、少し胸をそらした。
「おうよ。ヨウね、了解りょうかい。村長からお前に仕事教えろって言われたんで、これから俺が面倒見ることになってっからよろしく!」
「よろしくお願いします。ジズ先輩」
丁寧に頭を下げると、「センパイ」はむふーっと鼻から息を吐いた。
なかなか面白い先輩に当たったようだ。
ユウラさんと別れ、さっそく開拓の作業真っ最中の場所まで分け入る。
「開拓場の仕事をこれからやってもらうけどさ、最初から木ぃ切り倒したり、牛使って木の根引っこ抜いたりってのはやらせらんねえから。最初は切り倒した木をさらに細かく切ったやつを牧割り場までもっていく作業してくんね? 仕事が空き始めたら、また俺探して声かけてくれよ」
そういって手袋(見たことない素材でできていた)を渡された後、材木運びをしている人たちに交じり、最初はジズと一緒に木を運ぶ。これがなかなかの重労働だが、十三歳の俺でも運べそうなものを優先して運んだ。
木を運んでいる間に、俺はすでにジズの家族構成と特技と好きな食べ物まで把握することとなった。
「新しい人が村に入ってきたら、やっぱり話題になるんですね」
「まあ一大イベントみたいなもんだからな。ヨウは見た目もここら辺じゃ見ない感じだし、ミエナさんとシエルがわいわいヨウの話広めてたから、いつもより大きくなってるけど」
「シエルさんとは仲がいいんですか?」
「まあなぁ。でも去年結婚しちまって。ここら辺の村の同い年の中でも上位の可愛さだったのに」
がっくりと肩を落とした後、俯いたまま悟った声を出す。
「ヨウ。俺は真理にたどり着いたぜ」
真剣な顔をしつつ、こちらを向いた。
「かわいいと思ったら、告っとけ」
忘れんなよ、と先輩らしく言い置いて材木を力任せに放り投げた後、励ましの言葉をかけて別の仕事に戻っていった。
**********************
単純な肉体労働をしていると、瞬く間に時は過ぎる。朝から働き、昼食を食ったらまた働き、ところどころで休憩をはさんでいたらもう日暮れの時間だ。
「よ、おつかれ!まだガキなのに体力あるじゃん」
「ありがとうございます。でももうヘトヘトですよ……」
そりゃそうだろ、と笑いながらも労わってくれる。
「昼食のときユウラさんに聞いたけど、この後マーリンさんとこなんだって?大変だなあ」
完全に他人事だが、まさにその通りなので癇に障りもしない。
「じゃあすみません。ここら辺で別れます。今日は本当にありがとうございました、先輩」
「お、マーリンさんの家わかんの?」
朝ここに来るまでに聞いていたのでおそらくわかるだろう。家の瓦が一風変わっているらしく、通る道さえ知っていれば大丈夫とのことだった。
「それじゃな!頑張ってこいよ」
この世界で初の先輩に見送られ、ヨウはマーリンさん宅を目指した。
――
マーリンさんの家は確かに聞いていた通り、周囲の建物と違って瓦が青かった。ノックすると大して時間をかけずに応答がある。
「来たか。なら、家の脇の道を通って奥の庭に来い」
言い置いてすぐに扉がしまる。中でマーリンさんも移動している気配を感じたので、言われた通り家の脇にある通路を進むと存外広い庭に出た。
マーリンさんも庭に直結した家の扉から姿を現す。
その手には、直径十センチ高さ三十センチほどのデカい試験管を逆さにしたようなガラス製の装置を持っており、ガラスの試験管の中には黒い砂状の物体が入っているように見える。
俺の視線に気づいたのか、マーリンさんが説明を始める。
「これから一日のうちの少ない時間ではあるが、俺がお前に魔状の使い方を教えていく。そのためにまず、お前の魔状の力がどの程度なのかを、大まかでいいので知っておく必要がある」
そこで言葉を区切り、持っていた装置をかざした。
「この装置は簡易版でな。ある程度のことしかわからんが、知りたいことは知れる。まずは、お前に『
質問を予測していたのだろう。俺が聞く前に説明が入る。
「『
「実際にお前が昨日見たものも『及』と呼ばれる術の一つだ」
「
前世の常識をパウダー状にしたあの超常現象も『
「この装置の中にある黒い粉は、魔子と相性の良い物質を極限まで細かくしたものだ。ここまで細かくすると、周辺の魔子が意図的に動かされたとき、この粉も風に舞うように動く。この性質を利用して、どれほどの距離まで魔状者の力が魔子に影響するかを確認する」
「……なるほど。計測の理屈はわかりました」
しかし、俺は魔状の力を感じることはできたものの、その魔子というものを動かす術を知らない。それはマーリンさんも知っていると思っていたが。
俺の表情を見て、マーリンさんは頷いた。
「そう。お前はまだ魔状の根本である魔子を感知し、操る術を知らん。まずはそこからだ」
言いつつ、マーリンさんが近づいてくる。
「時間も少ないのでな、この装置ですぐに計測できるとは露ほども思っていない。 ―さて、始めるか」
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