大仕事
大統領と首相の座を手に入れた。
平常時でも有事の際でも最高権力の手中にいれた。
官邸の木々はすっかり葉を落としていた。
季節は変わりもう冬になりつつある。
もちろんこの権力を一つの人格が保有する危険性は彼もわかっている。
しかるべき時期に首相の地位は信頼のおけるものに渡すつもりである。
ただ、その前に大仕事が待っている。
ロシヤ連邦大統領プッチンとの会談が迫っている。
大統領のみでは、出せるカードが少なすぎる。ことはプッチンも理解している。
首相が同調しなければ、ロシヤの暴挙に対して対抗できないことも関にはわかっていた。
ただ、岸首相とは対徒露政策で180°異なっていた。
この政策違いが先日の「大統領首相統一戦」という前代未聞の一戦につながった。
露の暴挙、それは核保有国である露が非核保有国であるウクライヤに先制攻撃を行い軍事侵攻を開始したのである。
背景には複雑な歴史があるが、国際社会が露に対して制裁を行うにはこの事実だけで充分である。
特に露に対して反感情の強い欧州は軒並み反露、対露体制を整えていった。
岸首相も国際社会協調路線に同調する意思を示した。しかし、エネルギーや資源に対して不安視されていた。
関は日本独自路線を主張した。対話路線であった。特にプッチン大統領との直接対話の必要性を説いた。一定の賛同の意見がでたが、すでに武器を取っている相手に対話を望むとは、無謀や平和ボケなどさまざまな声が出たのも事実である。
しかし、関にはなにも策がないわけでもなかった。
この意見の相違は、大統領と首相の統一という結果になった。
「大統領、そろそろ出発のお時間です」補佐官の声が響く
「いよいよだな」関は席から立ちあがり自身の専用機に向かう。途中官邸に向かい夫人へ別れを告げる。これが最後とも限らないとの思いからだった。
専用機で8時間長い長い旅の始まりである。
途中、補佐官とロシヤの状況について話し合う。
いくつかの軍事作戦はウクライヤの激しい抵抗のもと失敗した。そして、当の露軍の士気の低さが、足かせとなっている。
有事以来、彼の動静はほとんど伝わっていないが、プッチンはフラストレーションがたまっているに違いない。
側近を何名か切ったとのうわさもある。
仮眠を取り、モスクワに到着とのアナウンスが流れた。
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数時間前 モスクワ大統領府にて
「プッチン大統領、予定通り日本の関大統領が到着するようです」
側近の声は上ずっている。最近のプッチンは怒声を上げることが多い。側近を幾人も更迭、左遷した。
いずれも、諫言や反抗的な態度を示したことが理由であることが明らかであった。
彼らはプッチンと苦楽を共にした同志と呼べる存在であった。
プッチンは彼らが変わったと言った。しかし変わったのはプッチンであった。
以前の彼には諫言や反抗を受け入れ対応するだけの度量と能力があった。それだけに側近も安心して発言できたのである。
しかし、侵攻の前の彼は明らかに精彩を欠いているように見えた。
反対する意見に激高し、激しく感情をぶちまけた。
露はプッチン氏に絶対的な権力体制が確立していると言っていい。
その彼が自制を失えば、もはやだれも彼に意見などできない。
もはや、爆発寸前の暴走機関車を止めるプッチンを止める人物はこの国に残っていない。皆、彼の言動におびえ彼のまえでは発言を最小限にとどめることを義務としているようであった。
「あの猿山の大将が、なにを勘違いしいるやら、目を覚まさせてやるか」お気に入りの紅茶を啜りながらプッチンが声を荒げる。
秘書はなにも返事もない。ただ愛想笑いを浮かべるのみである。
「ふん」その美しい顔みてプッチンは物足りない様に鼻を鳴らした。
「軍部も不甲斐ない」彼の最近の口癖である。
ウクライヤなど電撃作戦で短期間で支配可能であるはずなのに遅々として進んでいない。
軍部もプッチンを恐れて、作戦上の失敗について知らされていないことが多い。
彼は進行が遅れているくらいの認識しかない作戦は、実は完全に敗退しているものもいくつかある。それなのに、プッチンが独自に軍事作戦を口を出す、さらには命令することもあり現場では無理な軍事作戦を強行する必要がある。当然、無理なものは無理である。現場は混乱し疲弊し、士気がさらに低下する。
「軍部に小隊をモスクワ空港に回すように伝えろ」
「そんな、日本を脅すようなことになりますよ」側近は思わず口にして後悔した。
「あの無能どもは脅すくらいしか使えない!!すぐに手配したまえ」プッチンは机にティーカップを叩きつけるようにおいた。
日本の大領専用機が着陸する。
モスクワ空港には露軍2個中隊100名が完全武装で招集されタラップ周辺に整列していた。
大統領も儀礼上で迎える形で専用車で待機している。
「サルどもいつまで待たせるつもりか」プッチンは予定より遅れていることに怒りをあらわにする。
日本の専用機が大きく旋回するように着陸したため、幾分到着がずれたのであった。
風のためと言っていたが、日本の飛行機では、そよ風でもまともに着陸できないらしい。
ようやく専用機がタラップに接続した。
プッチンも専用車から降りて出迎えの形をとっている。
報道陣も彼の周囲と飛行機の周辺に待機しているが、そのレンズの範囲外、つまりタラップからプッチン迄の50メートルほどには、露軍完全武装兵が左右に整列している。
「さすがに銃口は向けないが、ひきつる笑顔をさらすがいい」と意地の悪い笑みが浮かび上がる。
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